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邪神襲来!? ~潮騒の街から パート3~  作者: 南野 雪花
最終章 そしてまた幕があがる
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そしてまた幕があがる 8


「価格としては格安でしょうけど、やっぱり高いですねえ」


 高木総務課長が、ううむとうなった。


 謎のイベントから一週間。

 本日の幹部会で議題にあがったのは、戦闘ユニット(ビヤーキー)の購入についてである。


 一機は、ほぼ無料で譲渡されたわけだが、さすがに二機目に関してはきちんとした取引をしなくてはいけない。

 ハスターに提示された金額は十五億円。


 まともに考えたらバカみたいな低価格だ。

 それっぽっちじゃ戦闘機の一機も買えない。そしてビヤーキーの性能は、地球の戦闘機なんて比じゃない。

 だから、すぐに手付けを打った次期魔王の判断は、褒められることはあってもけなされる筋ではないだろう。

 買わないなんて選択はないのだから。


 もちろん十五億円というのはものすごい大金である。

 高木が高いと言ったのもあながち間違いではないだろう。


 ど田舎の小さな町がほいほいと買えちゃうような値段ではないし、そもそもど田舎の小さな町は戦闘機なんか買わない。

 ただ、澪というのはこれまで幾度も敵襲を受けているし、今後も侵略が

あるだろうことは充分に予想されている。

 防衛戦力の増強が急務であることもたしかだ。


 いまさら、やっぱりいらないって話には絶対にならない。

 むしろどこに配置するか、という話し合いである。


「や、そこ話し合う必要ないとおもいますよ?」

「どういうことだい? おたか」

「副町長の護衛。これしかないじゃないですか」


 問いかける魔王に、さも当然のように応える腹心。

 どこに配置しても使い勝手の良さそうな戦闘ユニットだけに、最優先に守るべき場所におくべきだろう。


「あたしじゃ信用できないってこと? 高木くん」


 やや不機嫌になるのは沙樹だ。

 暁貴の秘書であり、護衛役でもある。


「んなわけないでしょうが。私が心配してるのは家に帰ってからの話ですよ」


 蒼銀の魔女より強い戦士など、この街にはほとんどいない。

 沙樹に守りきれないような状況になったら、暁貴ははっきりきっぱり詰んでいる。

 ゆえに高木が気にしているのは、庁舎内にいるときのことではない。


 自宅。

 とりわけ魔王の妻たるキクのことだ。


 暁貴もキクも戦闘力はほぼない。愛猫のぴろしきだって同様である。

 現実問題として、太公望陣営との戦いの際、キクとぴろしきが拉致されるという事件が起こった。

 鋼と三人のニンジャがガードしていたにもかかわらず。


 敵としてはむしろ当然の選択だろう。

 暁貴のアキレス腱はキク。


 誰だって知っている。

 日本政府だって北海道だって、あるいはアメリカやロシアだって知っているだろう。


 なのに誰もそこを攻めないのは、もし彼女を害したりなどしたら魔王の怒りはとんでもないことになる、ということも知っているからだ。

 怒りのパワーが頂点に達しちゃったら、もうどうなるか判らない。


 だから、基本的にキクというか巫邸に手を出すバカはいないのだが、ときにはバカのことわりを超えたバカというのも存在する。


「ああいう事態は、ご勘弁ねがいたいわけです。沙樹さんだって四六時中(しろくじちゅう)張り付いていられるわけではありませんしね」

「たしかにね……」

「言われてみれば一理あるな」


 沙樹と鉄心が頷く。

 巫邸には、暁貴とキクだけでなく、実剛や美鶴、絵梨佳や佐緒里も住んでいるのだ。

 寝ているときに爆弾とかでまとめて吹き飛ばされたら、もう澪はおしまいである。

 現在の、ニンジャたちによるガードはけっして弱くはないが、やはり特殊能力者を相手に戦うとなると苦しい。


 ビヤーキーが守るなら、かなりの安心感が生まれるだろう。


「つーか、もう部屋がねーんだけど?」


 すげー嫌そうに発言するのは暁貴だ。

 顔には、みんな俺の生活に干渉しすぎだべや、と大書きしてある。


 まあ、実際に部屋がないのはたしかだ。

 二階の四部屋にはそれぞれ住人がいるし、一階には彼の書斎と夫婦の寝室、それにリビングルームしかない。

 いちおう誰も使っていない部屋として仏間があるが、まさかそこに住ませるわけにもいかないだろう。

 短期的ならともかく。


「増築しろ」


 いっそおごそかに命じる鉄心。


「へ?」

「そもそも、いまのお前の家は、魔王の居城として貧相すぎる」

「え? いや。鉄心。そんな急に言われても」


 しどろもどろになるおっさん。

 生来がものぐさなので、引っ越しとかそういうめんどくさい行事が大嫌いなのだ。


「お前があんまり貧相な生活を送っていると、下の者が安心して金を使うこともできん。贅沢をしろとは言わんが、魔王として恥ずかしくない程度には体裁を整えろ」

「うぐ……」


 事実である。

 同時に幹部全員の意見を代弁したものでもあった。


 気安く、飾らない為人の暁貴ではあるが、日本国を動かしうる実力を持った陣営のトップとして、すこしばかり軽すぎる。

 もちろん体重という意味ではない。


 で、そう思っていたとしても、さすがに魔王にここまでズバズバとダメ出しはできないので、ここまでなし崩しになっていた。


「……わかったよ。もう少しでかい家にするか……」

「高木」

「はい。言質いただきました。さっそく建設課に新魔王城建築の指示を出しますね」

「任せな。一世一代の大仕事をしてやんよ」


 鉄心、高木、酒呑童子と言葉がリレーされてゆく。

 けっこう前から秘かな懸案事項だったから。

 はやいはやい。


 魔王が引っ越すと言った以上、立ち止まったりはしないのである。


「仕事はやいね……おまえさんがた……」


 とんとん拍子に決められて、さめざめと泣く中年男。


 新しい家が完成するまで、さしあたりビヤーキーは仏壇をおいてある部屋に住むこととなる。

 ちなみにそのビヤーキーは、幹部会の多数決でアイリ-ンと名付けられる運びとなった。

 試合(・・)のとき、鉄心と酒呑童子のコンビをのして(・・・)椅子にしちゃってた、二番の戦闘ユニットである。







 九月下旬の東京は暑い。

 立秋を過ぎて、暦の上では秋なのだが、まったく普通に夏である。


「あっつ……」


 東京駅のホームに降り立った実剛が呟いた。

 ぶわっと額に噴きだした汗を、タオル地のハンカチで絵梨佳が拭ってくれる。

 冷房の効いた新幹線から降りたから、とくに暑く感じているとという側面もあるが、澪と東京では、だいたい十度くらい違うのだ。


 ちなみに次期魔王は東京出身である。

 一年半くらいしか北海道に住んでないクセに、東京の気温にへばるなって話だ。


「ありがと。絵梨佳ちゃん」

「いえいえ。これも妻の務めですよー」


 にゃははははと笑う絵梨佳。

 まだ結婚していない。

 肩書きは婚約者のままだ。


 で、次期魔王とその婚約者がどうして東京にいるかといえば、迦楼羅王陣営(と、便宜上呼称されるもの)との相互不可侵不干渉を確認するためである。


 実体は不明。

 戦力も資金力も不明。

 はっきりいって、そんな連中と事を構えたくない。


 もちろんどんな連中とも事を構えたくなどない澪なのだが、とにかく相手が襲いかかってくるから。


 随員は絵梨佳のみ。

 ふたりきりでの町外出張だ。

 芝の姫が盛り上がらないわけがないし、実剛だってけっこう嬉しい。

 お邪魔虫がいないなんて、はじめてのことじゃなかろうか。


 まあ、宿泊場所が信二のマンションなので、夜もしっぽり二人きりってわけにはいかないのだが。


 極小の人数で交渉に臨むのには、もちろんいくつかの理由がある。


 こちらの手札をなるべく隠す、というのがまずひとつめだ。

 澪にどのくらいの戦力があるのかなど、わざわざ教えるような話ではない。


 それに、実剛と絵梨佳のコンビならば、なにかあっても逃げることができるだろうというのがふたつめである。

 芝の姫の戦闘力は言うに及ばず、覚醒した次期魔王のチカラは有視界テレポート(ジャンプ)

 いざとなったら、婚約者を抱えてぴょんぴょんとテレポートして逃げることができるのである。


 戦闘系のチカラではないが、使い勝手が良いのだ。


 近づいてくる人影。

 迎えにきてくれた信二と、護衛の匂坂である。


「ようこそ御大将。虚飾と背徳の魔都(まと)、東京へ」


 うやうやしく一礼する魚顔軍師。

 芝居がかった仕草が、けっこううざかった。



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