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邪神襲来!? ~潮騒の街から パート3~  作者: 南野 雪花
第5章 こんな地球連合軍は嫌だ
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こんな地球連合軍は嫌だ 8


 破壊のチカラを持つ神。


 それ自体は、べつに妙でも珍でもない。

 文明が発展してゆく過程で、必ずそういう終末思想というのは生まれるし、そのチカラを具現化した存在も誕生する。


「ふむ。そういうものかもしれないね」


 ハスターの隣に腰掛けたこころが、興味深げに頷いた。

 いわれてみずとも、洋の東西を問わず宗教を問わず、終末を予言するものはあるのだ。


「もちろん私たちの文明だって例外じゃないよ。ココロ。はるかな昔にはそういう思想もあったし、そういう存在も生まれたと記録にある」

「それをあなたたちは乗り越えてきた?」

「と、ばかりもいえないね。滅びてしまった文明だって数多くあるよ」

「ふぅむ」


 腕を組む知恵者。

 ベアトップのドレスだが、まったく色っぽいポーズにはならなかった。


「たとえば滅びを回避する方法を訊いても、教えてはくれないんだろ? ハスターさん」

「ああ。それはダメだね。絶対に許されない行為だよ」

「OK」


 当然だろう。

 地球人類が危機を迎えるたびに、何か超常の力が働いて救ってくれるなら、そんなもんは人類の歴史とはいわない。

 人類は、人類の手で自らを救わなくてはならないのだ。

 それができなければ滅ぶ。

 冷たいようだが、摂理というものである。


 個人レベルだって同じ。

 自分で自分を助けなくてはいけないし、誰かが助けてくれるだろう、なんて甘っちょろい考えがデフォルトになったら、まったく救われない。

 もちろん誰かが救いの手を差しのべてくれることはあるが、それこそ望外のことなのだ。


「案外あっさりと引き下がったね。もう少し粘るかと思ったよ。ココロ」


 人好きする笑みをハスターが浮かべた。


「滅びなかった文明もある。それで充分だからね」


 前例がひとつもないなら、その戦いは非常に苦しい。

 勝つか負けるか判らないから勝負というのだと判っていても、本当にしんどい。


 しかし、勝利した者がひとりでもいのるなら、それは、すくなくともその方法があるのだという証拠である。

 やり方は、まだ判らなくても良い。


 これから探してゆくだけだ。

 シヴァが退屈しない世界を、他の宗教の終末が訪れない世界を、模索してゆくだけだ。

 正解は、どこかに必ずあるのだから。


「うんうん。その意気だよ。ココロ」

「子供の成長を見守る親みたいな顔で言うのは、けっこうやめて欲しいけどね」

「いやぁ。私の立ち位置って、わりとそういう感じなんだよ」

「子供扱いすんな」


「では淑女として扱うよ。今晩どう?」

「あなたは淑女というものを誤解しているね」


 やれやれと首を振る知恵者であった。

 と、その視線が信二を捉える。

 こころと並び称される智者が、なんかすっごい微妙な顔つきで接近中だ。

 楓と佐緒里、光則とビヤーキー娘まで引き連れて。


「どうしたんだい? 信二」

「ちょっと不測の事態が起きましてね……ハスター氏」

「なにかな? ええと、初対面だよね」


 目を向けるハスター。

 やや慌ただしく自己紹介がされ、状況の説明がおこなわれる。

 佐緒里とビヤーキー娘の間に友誼(ゆうぎ)が成立し、なんと名前まで付けてしまったと。


 頭を抱えるこころ。

 もうね。

 ほんとね。

 予想の斜め上にかっ飛んでいく行動は控えて欲しいんだ。


「いやはや。きみたちは本当に面白いね。戦闘ユニット一体がいくらするかとか、考えなかったのかい?」


 ハスターが笑う。

 それはもう呆れたように。

 もちろん、鬼姫がそんなこと考えるわけ、ないじゃない!

 ノリと勢いだけで生きてるんだから!


「お、おいくら万円なんですかね……?」


 おそるおそる訊ねる魚顔軍師。

 人類の科学力で作れるようなものじゃありません。

 人造人間だろうと有機アンドロイドだろうと、はっきりきっぱりSFの世界のできごとです。


地球(テラ)のお金なんてもらっても仕方ないよ。しかし困ったな。どうしようか」


 ううむとハスターが腕を組みながら説明してくれる。

 やはりビヤーキーは、地球的な意味での生命体ではなかった。

 どちらかといえばロボットに近い。


「きちんとユーザー登録をしていなかった私にも責任はあるんだよね」


 本来、戦闘ユニットにしても移動ユニットにしても、ちゃんと使用者を登録しなくてはいけないらしい。

 ただ、たとえば日本でもパソコンのユーザー登録をしない人はいる。

 けっこうな数。

 一番の理由は、めんどくさいからだ。


「めんどくさかったんですね……ハスター氏」

「うん……だって十体のユニットにひとつずつ名前を付けるんだよ?」

「同意を求められましても……」


 基本的に戦闘ユニットなんぞ、使う機会はない。

 なにしろ太陽(ソル)系は、すげー平和な宇宙だ。

 地球(テラ)人の宇宙船は原始的なもので武器とか搭載していないし、凶猛な宇宙生物とかが出るような宙域でもないし。


 一応は義務として監察官(インスペクター)母艦(マザーシップ)には相当数の戦闘ユニットも移動ユニットも収納されてるけど、ぶっちゃけ使うことなんてないのである。

 今回、澪の血族との試合のためだけに十体を出してきた。

 一回限りの使用だもの。


「わざわざ名前つけないじゃん」

「や、だから同意を求められましても……」


 救いを求めるように信二がこころや楓を見るが、すいっと視線を逸らされてしまう。

 お前がまとめろ、と、態度が語っていた。


 仕方がない。


「御大将! 御大将!!」


 責任を押しつけるべき人間を求め、大声をあげる魚であった。






 耶子陣営と談笑していた実剛だったが、突然呼ばれたため、軽く耶子に目礼して腹心の元へと向かう。

 もちろん絵梨佳が影のように付き従っている。


 そして、


「まいっち○ぐ」


 という謎のコメントを発した。

 事情を説明されて。


「初期化とかはできないんですか? ハスターさん」

「本星に戻ればできるけど。その場合はそちらの少女も同行して、譲渡手続きをしないといけないからなぁ」

「さすがにそれはちょっと……」


 佐緒里が宇宙人にさらわれてしまう。

 なんぼなんでもそれはまずい。


 結局、起動した後にちゃんと登録しなかったハスターが悪い。

 誰のものでもないビヤーキーに、事情を知らない佐緒里がユーザー登録してしまった、というだけの話なのだから。


「仕方ないから、その戦闘ユニットはきみたちに譲るよ。ただしそれは地球(テラ)の科学力では作れないものだからね。運用はこの街の中だけに限定して欲しい」

「いや。すみません。ほんとにすみません」


 ぺこぺこと頭を下げる次期魔王。

 佐緒里と戦闘ユニット(ビヤーキー)のリーンは、我関せずとばかりに談笑している。


「で、さすがに無償というのもまずいんだ」

「ですよね」


 とはいえ、異星人に日本円なんか渡しても意味がない。

 なにか代価になるようなものが、澪にはあるだろうか。


「食事かな。この間の店でいつでも食事をできる権利。それをもらおうか」

「そんなので良いんですか?」

「まあ、そのくらいしかないだろう? 地球(テラ)人が提供できるものなんて」

「……ですよねー……」


 地球よりはるかに進んだ文明を持つ異星人である。

 この星の科学技術とか、たぶんぜんぜん価値がない。

 きれいどころを差し出すとかも、きっとまったく意味がない。

 地球の女の子になんて興味ないだろうし。


「いやいや。可愛いとおもうよ。とくにココロなんて、あと二千年もしたらすごい美人になるんじゃないかな?」

「そんなに生きられないよ。残念ながらね」


 苦笑する知恵者。

 彼女の肉体はあくまでも人間なので、せいぜい頑張っても百年くらいしか耐用期限がない。

 あと、神としての本性は男性だ。


「それにじっさい、あの料理が美味しかったのは事実なんだ。健康的な魚に健康的な獣。やはり食事はこうありたいものだよね」

「まあ……そういうことでしたら」


 こうして邪神ハスターは、暁の女神亭でいつでも無料で食事ができるという、無限パスを手に入れた。

 どんなに満席でも、必ず席が用意され、しかもおかわり自由だ。


 戦闘ユニットの対価として相応しいかどうか、たぶん誰にも判らない。


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