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邪神襲来!? ~潮騒の街から パート3~  作者: 南野 雪花
第5章 こんな地球連合軍は嫌だ
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こんな地球連合軍は嫌だ 7


「ちなみに、ハスターさんは、シヴァの権能についてどう思うかな?」


 カクテルのグラスを手に、こころが近づいてくる。


「こころさん……いたなら助けてよ……」


 恨みがましい目を向ける実剛。

 くすりと天界一の知恵者が笑った。


「隠れてたに決まっているだろ。邪神にハリセンツッコミなんて愉快なことは、実剛にまかせるよ」


 私はイロモノなキャラクターじゃないからね。

 などと、ふざけたことを言っている。


「ち。この合法ロリめ……」

「何か言ったかい?」


 ぎゅり、と、足を踏まれた。

 踵で。


「痛い痛い! ヒール刺さってるから!」


 パーティーということで、こころもおしゃれなドレスを身にまとっている。

 少しでも背を高く見せようとしているのか、靴は十五センチほどもあるピンヒールだ。

 けっこう凶器である。


「シヴァというと、さっき一緒に踊った少年だね。彼の権能は破壊と再生で間違いないかな? 辺境の神」

「こころだよ。そろそろ名前を憶えて欲しいな」

「むしろ、名乗ってもらったのは今が初めてだとおもうよ。ココロ」

「そうだったっけ?」


 小首をかしげる知恵者。

 だとすれば、礼を失していたのは自分の方だ。


「これは失礼したね」

「かまわないよ。それで、シヴァくんの力の話だね」


 言って、ハスターは壁際にいくつか設置された椅子を指さす。

 座って話そう、という意味だ。

 複雑な話になるのかな、と、読んだこころが小さく頷いた。





「ハスターと八尾こころがいちゃついている」

「それだけは絶対にないと思いますよ。佐緒里嬢」


 偏見に満ち満ちた観察をする鬼姫に、魚顔軍師が笑ってみせる。

 なんでも恋愛に絡めるのは、蒼銀の魔女だけにしておいてほしいものだ。


「では何をしている?」

「たぶん今後のことなどを話しているのですわ」


 信二の横に立つ楓が応える。

 佐緒里も楓も、大きく胸のあいたドレス姿。

 こういうのはスタイルが良くないと似合わない。


 たとえば絵梨佳とかが着たら、とってもとっても残念なことになってしまうのだ。

 哀しいかな色っぽい服というのは、着る人を選ぶ。

 短慮な姫君は頭も目つきも悪いがスタイルは抜群に良いのである。


「今後? 結婚するのか?」

「いいえ。ハスター陣営との修好が成ったといっても、まだまだ問題は山積しています。シヴァの能力についてもそうですね。おそらくそのあたりのことを詰めているのかと」


 今後といって結婚しか思い当たらない鬼姫(バカ)に、丁寧に解説してあげる楓だった。


 その鬼姫のもとに歩み寄る人影。

 黒く長い髪と同色の瞳をもった美女だ。

 四番の背番号をつけ、佐緒里や光則と戦ったビヤーキー娘である。


「アナ、タ、タチト、テモ、ツヨカッ、タ」


 たどたどしい言葉とともに頭を下げた。

 一瞬、何を言われたか判らない。


「ゼントランデメルトランタルケダカンヤックデカルチャ」


 わたわた、とした佐緒里が、とりあえず彼女の知っている異星人の言葉で返す。


「落ち着いてください。佐緒里嬢。彼女は日本語を話していますよ」


 苦笑した信二がたしなめる。

 どこの巨人の言葉で会話を試みようとしているんだ。このバカは。


「お前も強かった。光則がハイパー化しなけれは、負けていたのはあたしたちだったろう」


 あれは、べつにオーラ(チカラ)とか、そういうやつではない。

 指摘しても無駄なので、もちろん軍師カップルはなんにも言わなかった。

 ただなまあたたかく見守るのみである。


 にこ、と笑うビヤーキー娘。


「ミツ、ノ、リ」


 佐緒里を指さす。

 名前によって個体識別というのが判っていないのかもしれない。

 その手を持ち、指先を砂使いの方へと向けてやる。


「あれが、光則だ」


 そして自分の方に指を向け、


「あたしは、佐緒里」


 微笑する。

 頷いたビヤーキー娘が繰り返した。


「サオ、リ。サオ、リ」

「テケリ、リ」

「サオリ、リ」


 にまーと笑い合ったりして。

 なにやってんだって話である。


「どこから突っ込んで良いか判らないけど、光則だ。あんた強かったな。あんなに強いヤツと戦ったのは、生まれて初めてだよ」

「ミツノ、リ」

「テケリ、リ」

「ミツノリ、リ」


 また余計なことを佐緒里が言い、にまーとビヤーキー娘と笑いあう。

 なにか通じ合っているようだ。

 異文化コミュニケーションである。


 たぶん違う。


「なに馬鹿なことやってんだよ」


 呆れながら右手を差し出す光則。

 きょとんとしたビヤーキー娘の手を佐緒里がふたたび取り、握手させた。


「あたしたちは、仲間をこうして理解する」

「ナカーマ」

「ナカーマ」


 にまー。


「あんまり変なこと教えるなよ? 佐緒里。地球人がみんなお前みたいやつだと思われたら、今後の外交関係に影響するぞ?」


 途方もない疲労感をおぼえながら、澪の将来を憂う砂の騎士であった。

 しかし、きっとそれは手遅れだろう。

 なにしろビヤーキー娘たちの総大将たるハスターが、すでにニキサチと接触しちゃってるから。


 地球人が、みんなニキサチだと思われていても不思議ではないのである。

 ニキサチを標準設定(デフォルト)とするか、佐緒里を標準設定とするかというだけの差なので、そんなに劇的には違わない。


「地球の未来はどっちだって感じですねぇ」


 やれやれと魚顔軍師が両手を広げ、その伴侶が微笑した。

 まあ、友好的に推移するならそれに越したことはないだろう。


「アナ、タタチ、ハオ、モシロイ」

「複数形にしないでほしいぜ」


 光則が嘆くが、こいつだって次期魔王と愉快な仲間の一員だ。

 しかもけっこう幹部クラスだ。

 実剛四天王のひとりといっても良いくらいに。


 ちなみに残り三人は、絵梨佳、信二、御劔といったところだろうか。

 数に入らなかった鋼や仁あたりがブーイングしそうではあるが、五将軍でも六星でも七本槍でもたいして違いはないので、好きに名乗ってくれて問題ない。


「アナ、た。あなたたちと、殺し合わなくて良くなり、私は非常な満足を得ている」


 ビヤーキー娘の言葉が流暢になった。


 ほう、と目を細める魚顔。

 もう日本語にアジャストしたのか。


 わずか数語の会話から、異星の言葉を理解して自分のものにしてしまう。

 口で言うほど簡単なことではない。

 個人の能力だとしても、あるいは機械的な翻訳システムだとしても。

 地球人の及ぶところではないだろう。


「お前の名は?」


 ここではじめて佐緒里が問う。

 なかなかに上手いし、良い心遣いだ。

 性急に質問などしないで、まずは親和力を高めることに終始する。

 狙ってやっているなら、鬼姫は交渉人として、素晴らしい技能を持っていることになるだろう。


「私たちに個体名はない。単に戦闘ユニット(ビヤーキー)と呼ばれている」

「そうなの。それはそれで不便な気もするな」


 首をかしげる鬼姫。

 おそらく、と、魚顔軍師は推測する。


 ビヤーキー娘は人間の姿に擬態しているだけで、生命体ではないのだろう、と。

 あるいは人造人間(クローン)のように、目的をもって作られた生命か。

 いずれにしても人権を認められるような存在ではないため、個体名を持っていないのではないか。


「あなたたちは仲間と握手をするといった」

「ああ」

「それでは、私も仲間ということだろうか」

「いやか?」

「嫌ではない。心の高鳴りを感じる」


 にこりと微笑するビヤーキー娘。

 そして言った。


「私に名を付けて欲しい」


 と。


「では、リーン。お前のことはリーンと呼ぼう。ビヤーキーは翼があるというし」


 すげードヤ顔で名付けちゃった!

 止める暇すらなかったよ!

 酸欠の魚みたいに、信二が口をぱくぱくする。


 あかんやろ!

 ビヤーキーってハスターの持ち物(・・・)なんだから、勝手に名前とかつけたら!


「リーン。リーン! ありがとう! 佐緒里!」


 喜んでるし!

 それきっとすっごい重要な出来事だよ?

 ぜってー勝手にやって良い範囲じゃないよ?


「信二さま……」


 狼狽する魚の肩にぽんと手を置き、ふるふると首を振る第三軍師であった。


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