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邪神VS魔王 9


「連携は捨てるつもり」


 第二軍師が告げた。

 ざっと作戦案に目を通した信二が頷く。


「お見事です。美鶴嬢」


 相変わらず気持ちの悪い笑顔を見せる。


「修正するところはない? 信二さん」

「俺の目にはなさそうに見えますね。わずかな時間で、よくここまで詰めました」

「ゆーて、こっちには選択の幅なんてあんまりないけどね」


 肩をすくめてみせる美鶴。

 戦場は決まっている。相手の総数も判っている。

 澪としては、もてるすべての力をもって戦うだけだ。


「それでも、ここまでの戦力が集まったら、どう配置するかだって悩むものですよ。もう一度言いますね。お見事です。美鶴嬢、楓」


 敬愛する主席軍師に手放して褒められ、楓は照れくさそうに頬を染める。

 美鶴はもうちょっと厚顔で、ふふんと鼻を鳴らしている。


「ダメですよ。信二先輩。少し褒めたらすぐに調子に乗るんですから。とくに美鶴は」


 笑いながら怜悧なる魚顔をたしなめる次期魔王だった。

 その様子に、仲間たちが微笑む。


 実剛と信二。

 このコンビが揃うと、やはり安心感が違う。

 結成いらい常勝不敗。

 どれほどの難局だって、次期魔王と魚顔軍師がいれば簡単に乗り越えられる、と、錯覚できるのだ。


 東京から信二と聖。そして聖のカノジョを自称する伽羅。

 寒河江からは安寺雄三。

 北海道神宮からは稲積と比奈子。

 ヴァチカンからは、ジャンヌおよび神の戦士が三十名。


 ぞくぞくと澪に集まりつつある。

 一大連合だ。

 これほどの戦力が大暴れしたら、町営野球場だけでは収まりきれないかもしれない。


 もちろん美鶴も楓も承知の上。

 野球場から山側は、スキー場もひっくるめて、焼け野原になってもかまわない、くらいのつもりで作戦を立てている。

 町に被害さえ出なければ、多少地形が変わっても仕方がない、と。


 かなりむちゃくちゃな計画ではあるが、美鶴は相手の戦力の一端をその目でみているのだ。

 ここまでの戦力でも、なお完勝の自信はない。


「それにしても、聖さんにカノジョって。しかもあんな美人な」

「事実は小説より奇なりってやつですねえ。俺も驚きましたよ」


 極上の恋人をもつ男どもが、無責任に論評している。


「むしろ! 聖兄さんにまで恋人ってどういうことよ!」


 そして恋人のいない琴美が荒れ狂っている。


「他人なんてどうでもいいじゃないですか。アンジーさん。俺だってカノジョなんていませんよ」


 どうどうとなだめるのは准吾。

 美鶴や光のひとつ上、絵梨佳や楓のひとつ下である高校一年生だ。


 子供チームのなかにあって、最も戦闘力の低いひとりでもある。

 具体的には、美鶴にくらべたら少しは戦えるんじゃないかなって程度だ。

 しかし、彼の重要度はちょっと計り知れない。


 回復能力者(ヒーラー)だから。

 生命を司る芝家の血を色濃く受け継いだ准吾は、文字通り澪防衛の要石(かなめいし)だ。

 能力のほどは、さすがに本家の絵梨佳には及ばないものの、沙樹やゆかりを軽く凌駕(りょうが)するし、五十鈴の回復魔法などとは比較にならない。


 ゆえに、常に准吾には護衛の量産型能力者が張り付いている。

 しかも二名。

 VIP度でいえば魔王の妻たるキクと、そんなに変わらないくらいなのだ。


 そのせいなのかどうなのか、准吾もカノジョなしである。

 琴美みたいに浮いた噂だって、ひとつもない。


「ふむ」


 じっとヒーラーをみつめるビーストテイマー。


「このさい、こいつで妥協しておくか」


 不穏当なことをいいながら。


「やめろ。妥協の結果として俺を選ぶな。あと巻き込むな。将太にかじられる」


 じりじりと後退する准吾であった。

 将太くんとは同級生であり、親友でもあるのだ。

 実剛と光則の関係に近いだろう。

 親友の想い人たる琴美とくっつくとか、悪夢以外のなにものでもない。

 どんな三角関係(トライアングル)だって話である。


「いやいや牧村くん。佐藤さんもいるから四角だよ」

「その補足いりますか? 実剛兄さん」


 もっのすごい白い目を次期魔王に向けるヒーラーだった。





「あっきれた。第六天の城が空っぽだったのは、あんたがここにいたからなのね」


 聖にともなわれて澪役場を訪れた伽羅が、依田を見るなりそんなセリフを吐いた。


「お? なんだ? 知り合いだったのか?」


 驚いた顔の暁貴。

 聖は新山陣営としての参戦のため、そのまま子供チームに合流というわけにはいかない。

 面倒な話だが、あくまでも魔王への援軍なのである。


「まあ、同じ仏教系の転生者だからな。今生(こんじょう)ではあったこともないさ」


 ハシビロコウみたいな顔で、たばこをぷかぷかやりながら依田が苦笑した。

 にっこりと笑った歴然とした美女が暁貴の前まで歩を進め、片膝をつく。


「はじめて御意を得ます。澪の魔王よ。迦楼羅天の転生、伽羅と申します」

「迦楼羅王か。よかった。普通に美人の女性で一安心だぜ」


 謎の安堵をする魔王であった。


「なんでも器用にこなすオカマだったらどうしようかと」

(わたし)はレ○ガじゃないわよ?」

「なんで知ってるんだよ。これに付いてこられるヤツ、さすがにいないと思ったぞ」

「一緒に働いてる友人が古いアニメ好きなのよ。東京にくる機会があったら遊びにきて」


 差し出される名刺。


「メイドカフェ……神の転生がメイド……」


 受け取った暁貴が頭を抱えた。

 とはいえ、澪だって鬼が建設課課長補佐だったり、竜王が上下水道課課長補佐だっり、神が住民生活課課長補佐だったりする。

 メイド迦楼羅王を、あんまり笑えないだろう。


「ともあれ。救援に感謝だ。総理にもよろしく伝えてくれ。聖」

「はい。裏切った罪滅ぼしのつもりで戦わせてもらいます。暁貴さん」

「まだ気にしてんのかよ。おめーはおめーの道を歩いてる。それでいーんだよ」

「……はい」


 ぐっと差し出される魔王の右手を、やや躊躇いながら聖が握りかえした。


「ねえ。波旬」


 その姿を見ながら、伽羅が声をかける。


「今は依田と名乗っている。なんと呼んでもかまわないが、できれば依田かハシビロコウで頼む」

「ハシビロコウでいいんだ……じゃあ(わたし)も伽羅でお願い。あの魔王の大度すごいね」


「人たらしと言われているくらいだからな」

「わかるわぁ。あと二十歳若かったら、(わたし)でもぐらっといきそう」

「だから津流木なのだろう?」

「あ、わかる?」


 苦笑するハシビロコウと、婉然たる笑みの伽羅。

 暁貴を若くして格好良くしてセンスを良くしたような姿というのが、だいたい聖の外見評価だ。 


「実戦指揮は実剛に任せてある。現地ではやつの采配(さいはい)に従ってくれ」


 その残念な魔王が説明をしている。

 頭を二つも三つも作っても仕方ない。

 当日、彼は実剛とともに本陣にかまえることになるだろう。

 もちろん軍師たちも一緒に。


 そして護衛というか、親衛隊としてけっこうな数の戦闘員が周囲を固める。

 そのうえで、アクティブに動き回る戦闘部隊が何隊も形成されるはずだ。


「聖たちがどっちに配属されるかは俺にもわからんから、御大将にきいてくれや」


 にかっと笑うおっさんだった。


「了解です」

「んで、宿はどうする?」

「津流木の家は……もうないんでしたっけ」

「ああ。すまねえが道路拡張工事で取り壊しちまった。ホテルか迎賓館に泊まってもらうことになるんだが」


 ちらりと伽羅を見る。

 宿泊費用等は、澪ですべて持つので問題ない。

 暁貴が訊いたのは、ようするに一部屋でいいのか二部屋必要なのか、という類のことである。

 ほら、恋人だっていうし。


「ふた……」

「一部屋! ツインじゃなくてダブルでお願い。魔王さま」


 なにか言おうとした聖をさえぎって、熱心に伽羅が主張するのだった。

 とてもとても同情的な視線を元眷属に向ける暁貴。

 がんばれよ、と、願いを込めて。


「おねがい暁貴さん……そんな目で見ないで……」


 力無く訴える流され青年である。


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