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邪神襲来!? ~潮騒の街から パート3~  作者: 南野 雪花
第2章 敵じゃマハラジャ!
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敵じゃマハラジャ! 10


「再会を祝して、かんぱーい!!」


『かんぱーい!!』


 暁貴の音頭でグラスが掲げられ、いささか乱暴にぶつけられる。


 深雪の歓迎会である。

 場所は『暁の女神亭』。


 澪が運営するレストランで、イートインメニューが一種類しかないという、客商売を舐めてんのかってレベルの店だ。


「しっかし、実際半年近くも行列できなかった日がないって、ふざけんなって話だよね」


 グラスを片手にピザをつまみながら、深雪が笑う。

 ごく個人的なパーティーだが、主賓がこの街の最大のスポンサーの令嬢ともなれば、参加メンバーがそうそうたる顔ぶれになるのはやむを得ないところだろう。


 暁貴をはじめとした面々、萩父娘、芝の姉弟、その他、深雪と親交のある面々が集まっている。

 もちろん彼女の婚約者たる高木もいる。


「で、真・澪豚カツカレーだけじゃあきたらず、こんなものまで開発したってわけかい? 佐緒里っち」

「うむ。しかしこれでもまだ完勝の見込みは立たない。敵は強大だ」


 話をしているのは最も仲が良い佐緒里だ。

 鬼姫同士だし、なによりも拳で語り合った仲である。


「ピザも良いけど、私はこのままが好きかなっ ビールが進むよっ」

「俺もどっちかっていうとそうだな。せっかくの生ハムを焼いちまうのはもったいない気がするぜ」


 別のテーブルでは暁貴とキクが生ハム談義なんぞをしている。

 主賓をかまわないで何やってんだ魔王夫妻って感じだ。


「山田の兄ちゃん! もっと分厚く切ってくれよ! こんなぺらっぺらじゃ食った気しねーよ!」

「光くん。なんにでも適切な大きさってのがあるんですよ。でかくて厚ければいいというものではありません」

「くそ! こうなったら五枚一気食いだ!」

「だから、そういう食べ方をしても美味しくないでしょうに」


 不毛なバトルを繰り広げる食欲魔神とシェフ。


 たぶん光は、コース料理とかを食べない方が良い人種だろう。

 バランスとかそういうのは一切なんにも考えないで、前菜をおかわりしまくったあげくに、メインが出てくる頃にはお腹一杯になっているタイプだ。


 本日の料理は、いつもの宴会メニューの他に、澪豚生ハムが用意されている。

 原木(げんぼく)が四本ほど。

 かなりの量なのだが、消費も半端なものではない。


「退屈させないために、ねえ」


 その生ハムをつまみつつ、ふーむと唸る美鶴。

 第二席の軍師である。

 主席軍師の信二が遠く東京の空の下にいる今、実剛に適切なアドバイスをするのは、彼女の仕事だ。


「破壊神シヴァの憂鬱って感じね」

「そんなに気楽なもんでもないとは思うけどね」

「あれも退屈しちゃうと世界が滅ぶんじゃなかったかしら?」

「嫌な符合だよ」


 肩をすくめる実剛。

 耶子陣営の本拠地で得た情報はすべて開示している。


 自分ひとりで抱え込んでいても意味がない。そのために軍師たちがいるしシンクタンクもあるのだから。

 シヴァにハグされて辟易したことまで含めて、まるっと全部提出済みだ。


 意味があるものとは思えなくても、そこから推論を軍師たちは構築してくれる。


「まあ実際、これほど面白いもんはないだろうけどね」


 敵対している陣営以外には、と美鶴が付け加える。


 たとえばアメリカなどにとっては、澪の存在など面白くもおかしくもない。滅ぼしたくて滅ぼしたくて仕方がないのだ。

 侵攻したらぼっこぼこに叩きのめされて、あげく巨額の賠償金を支払わされる。


 もし澪と日本が滅んだら、アメリカ政府は神に感謝しまくるだろう。


 これはロシアだって同じ。

 日本に格安で原油と天然ガスを融通するために、ロシアの金でパイプラインを作らされているのだから。

 これで気分は上々とは、なかなかならないだろう。


 いち早く澪と(よしみ)を通じた日本というか新山首相あたりは、最も気の利いた部類だ。


「僕としては、耶子陣営について、現段階で澪が動くべき理由はないと思うんだけど、どうかな?」

「そうね。大筋(おおすじ)ではそれで良いと思うわ。専守防衛は基本構想だしね」


 澪の側から、実力をもって他の陣営に仕掛けることはない。

 降りかかる火の粉は払うが、それが根底にあるスタンスだ。


 現状、耶子陣営は攻め込んできたわけではない。

 グルメイベントで挑まれてはいるものの、政略的にみればこんなもんどーでもいいのである。

 勝敗に拘泥(こうでい)する必要すらない。


 勝っても負けても結果として人は動く。金が動く。

 これがいちばん大事なこと。

 さらに道南(どうなん)一帯が富み栄えるというのは、澪の政戦両略(せいせんりょうりゃく)とも合致する。


 だからこそ、初期段階で名古屋からきた男が八雲に寝返ったときも、彼女はふーんって言っただけなのだ。

 美鶴だけでなく、楓も。


「ただ、完全に安心しきるってのはNGよ。兄さん」

「彼らが嘘をついている可能性かな?」

「そういうのじゃないわよ。相変わらず兄さんはバカね」

「なんだとぅ?」


 虚言を弄した可能性なんぞ、いっちばん最初に検討される類のものだ。

 そんなもんとっくにクリアされているから、軍師たちにしても、あるいは天界一の知恵者にしても、思考を次の段階に進めているのである。


「私が言っているのは、このお祭り騒ぎがシヴァ神の退屈を慰めることができなかった場合ってやつよ」


 澪という存在をもってしても、この世界は退屈でつまらないと思っちゃう可能性だってあるのだ。

 もしそうなったら、世界を滅ぼさせないための手段を講じる必要が出てくる。


 耶子陣営のことを、完全に埒外に置くのはまだ危険だ。


「おうふ……考えてもみなかったよ」

「兄さんはバカだから仕方ないけどね」


 くすりと笑う。


 嘘である。

 美鶴は実剛のことを、馬鹿だとも低脳だとも、ましてうんこたれだとも思っていない。

 女心の判らない朴念仁だとは思っているけれども。


 彼女が兄に求めているのは、区々(くく)たる些末(さまつ)事に関する心配(こころくば)りではない。

 子供チームのリーダーとして、実戦における総司令官としての大度(たいど)だ。


 難局に立って怯まない心の強さ。

 敵を許し、抱き込んでしまえるくらいの鷹揚(おうよう)さ。

 こういう部分において、兄は常に期待よりずっと上をいってくれている。


 細かいことは、自分たち軍師にどーんと任せてもらってかまわない。


「こころさんが、もう対策を考えてはじめてるわ」

「あ、それで今日は顔を出してないのか」

「ええ。こないだの戦いで捕虜にしたやつがいるでしょ」

白鶴童子(はっかくどうじ)だっけ?」


 記憶層を探りながら口に出す実剛。

 いささか嫌な顔をしつつ、美鶴が頷いた。


 戦場において光を打ち負かしたアルビノの少年である。

 そりゃあ美鶴としては面白くない。自分の恋人に初黒星をつけた相手なのだから。


 ただ、勝利したといっても白鶴童子も満身創痍(まんしんそうい)だった。

 むしろ瀕死であった。

 腹が立つから死ぬまで放置する、というわけにもいかなかったため、准吾がちゃんと治療して、現在は迎賓館の一角に軟禁中である。


 じつは監視すらつけていなかった。

 ほっとけば縮地(しゅくち)で逃げるだろう、と思っていたからであるが、どういうつもりか、逃げる素振りすら見せず、出される食事をたいそう美味しそうに食べなから無為に時間を過ごし、現在に至っている。


 二週間もテレビもネットもライトノベルもない部屋にずっといて飽きないのか、とは、いつだったか暁貴がいった言葉だ。


 わりとどうでもいい。


 その白鶴童子と、こころが接触を試みているという。

 琴美と水晶を伴って。

 理由は、あのとき戦った太公望陣営の目的が、特殊能力者を封印するというものだったからだ。

 そのまんま、封神(ほうしん)である。


「つまり彼らには、神を封じちゃう方法があるってことでしょ」


 にっこりと笑う次席軍師だった。






 深夜。


 多くのキャンプ客が笑いさざめく澪海岸を歩く人影があった。

 若い男だ。


 とくに珍しくも何ともない。

 まとった黄色いTシャツも、べつに珍しいものではないだろう。


監察官(インスペクター)恒星間国家連盟(リーグ)の市民の末裔が暮らす街、か。こんな辺境の惑星に」


 だが、呟いた言葉は誰にも理解できるような内容ではなかった。


「過剰干渉だな。これは」


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