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邪神襲来!? ~潮騒の街から パート3~  作者: 南野 雪花
第2章 敵じゃマハラジャ!
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敵じゃマハラジャ! 9


 神に見捨てられた世界。

 もう不要なものとして、処分を待つばかりの世界。


 破滅を回避するために耶子が選んだ道は、破壊の神を退屈させない、という方法だった。


 ほーら、この世界はこんなに楽しんだよ。

 こんなに面白いんだよ。

 と、理解させることで破壊のチカラを眠らせる。


「だからウチは金儲けをして、その金で考えつく限りの贅沢をオヤジにさせたんだ」


 しかし、当初は上手くいっていたその方法も、次第にシヴァは飽きていった。


 美女を侍らせても、金銀財宝で飾り立てても、世界中の美酒と美食を味わっても、だんだんと飽きてくる。

 これは普通の人間でも起こる心理である。


「また破壊神のチカラが発動してしまったんだ」

「それが五年前、だね」

「ああ。ただ、ウチとしては備えてなかったわけじゃない」


 これあるを予期して、耶子は違う神格の転生をおこなっていた。

 刈屋命。カーリーである。

 シヴァの妻で、闘神(とうじん)だ。


 インド神話の宗教画では、シヴァを踏みつけにして踊っている姿とかが描かれている。

 なんというか、ラスボスって感じの存在。


 カーリーのチカラを使って父をぼこぼこにし、一時的にシヴァのチカラを眠らせることで、なんとか日本沈没って事態だけは防いだ耶子だったが、将来に暗雲が立ちこめたのを自覚せざるを得なかった。


 何度も使える手ではない。


 いちおう、次にシヴァのチカラが目覚めたときのために差し出す人身御供(ひとみごくう)として、愛の女神ラクシュミーにも転生してもらったが、これも決定打というにはほど遠いだろう。


 美女で籠絡できる程度の破壊神なら、こんなに対応に腐心(ふしん)する必要などない。


「もういっそオヤジを殺すか、とも思ったんだよ」


 それでさしあたり、現世におけるシヴァ神の代行者は消滅する。

 しかし、また転生してしまったら?


 しかも耶子の手がまったく届かないような場所に。

 あげく、いつ転生するかも判らない。

 百年後かもしれない。一年後かもしれない。あるいは翌日かもしれないのだ。

 そんなリスクは背負えない。


「困り果てていたところに君が現れたんだ。殿下」

「僕?」

「君たちと言うべきかな」


 耶子が笑う。


 いずれの神話のか判らない女神の末裔が暮らす街、澪。


 そこに集うのは、鬼、アステカ神話の神、ケルト神話の神、中華神話の神、日本神話の神、仏教の魔王、神殺しの勇者の末裔、そして人間。

 なんだそのごった煮はって話である。


 衝撃だった。

 他の神話大系の神と手を結ぶとか、それまで耶子は考えたこともなかった。


 当たり前である。

 普通は、他の神話は否定の対象なのだから。

 ともあれ、インド神話の神以外と協力しあえるなら、なにか打開策が見つかるかもしれない。


 そう考え、澪のことを調べはじめた耶子は、ふたたび愕然とすることとなる。

 ()種の坩堝(るつぼ)みたいな街の目的が、


 町おこし!


 人も神も鬼も、みんなが笑って暮らせる街を作りたい。

 なにそれ?

 馬鹿なの?


 そう思った。


「けど、わくわくした。ものすごくわくわくしたんだよ」


 微笑する。

 贅を尽くした食事なんかより、万金の金をかけた宮殿より、一流デザイナーが丹精した衣服より、目の覚めるような美女の甘い口づけより。


 馬鹿みたいな理想を掲げて突っ走る連中。


「退屈しないってのはこういうことなんだと思ったよ。楽しいってのはこういうことなんだと悟ったよ」

「Meも! 一緒に! 遊びたくなった!!」


 変な父親と苦労人の娘。

 苦笑する次期魔王。


「べつに遊びでやってるわけじゃないけど、退屈しないことだけはたしかだね」


 次期魔王の言葉に、うんうんと絵梨佳が頷いた。

 実剛と出会ってから一年半ほど、退屈という経験をしたことがない芝の姫である。


 とにかく事が多すぎる。

 もうね。

 ゆっくり町おこしに集中させてください。お願いですからってレベルで。


「だからウチらは澪に挑むことにしたんだ。かてて(・・・)ってんじゃ、芸がなさすぎるからね」


 かててというのは北海道の方言。

 仲間に入れて、というほどの意味である。


 好敵手としての立ち位置。

 それが耶子陣営の狙いだ。

 実剛たちとは違う立場で、この祭り(・・)に参加する。


 踊る阿呆(あほう)に見る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃ損損。


 澪のステップに合わせるのではなく、自分たちのステップで。

 イベントを企画し、わさわざ手の内まで晒して。


「和牛に名古屋コーチン。どっちもすごく美味しかったよ。耶子さん」


 に、と実剛が笑う。

 右手を差し出しながら。


「ありがとう。でも敵に塩を送っちゃったこと、必ず後悔させてあげるからね」

「ウチらのチカラがあの程度だと思ったら痛い目を見るよ。殿下」


 同種の笑みを浮かべた耶子が、しっかりと握り返す。


「望むところさ」

「負けないよ」


 すべて判ったような笑顔で。







 耶子陣営の思惑と目的が知れた。


 トップというか御輿(みこし)は彼女ではないので、本来ならばシヴァ陣営と称すべきだろうが、実剛から報告を受け、澪の幹部たちは耶子陣営という響きに違和感を持たなかった。


「主神級。しかも破壊神とか。なかなか厄介なことになってきたね」


 こころが苦笑する。

 厄介といいつつ笑っているのは、すでに目的が判っているからである。

 相手はすべてのカードを晒した、と、天界一の知恵者は読んだ。


 こういう平和的な戦いなら大歓迎だ。


「けどよ。こころちゃん。永続的な手じゃねえよな。これは」

「そだね。シヴァという神が存在する限り、危機的な状況は続くよ。暁貴さん」


「なら、なんか対策を練った方が良いんじゃねえか?」

「ん。いますぐできる対策はないよ。残念ながらね」


 肩をすくめてみせる。

 視線で、魔王が続きを促した。


「世界を滅ぼす神なんて枚挙に暇がないんだよ。終末思想ってやつだね。キリスト教だって、汚れきった地上を滅ぼす的なのがあるしね」


 破壊のあとの再生。

 神話において、それはべつに珍しい発想ではない。

 べつにシヴァだけが特別というわけでもないのだ。


「たとえば太公望(たいこうぼう)がやろうとしたみたいに、封印してしまうっていう手もあるんだけど、それだって永遠にってわけにはいかない」


 いつかは封印が解けてしまう。

 たださ、と、付け加える知恵者。


「それっておかしなことかな?」


 と。


「世界滅亡はおかしなことだと思うけどな? 普通に」


 暁貴がにやにやと笑う。

 こいつ、判って言ってやがるなとこころは思ったが、べつに指摘はしなかった。


 鉄心や沙樹にも判るように説明しろ、という意味であることも理解したから。


「暁貴さんは人間だよね。たぶん。きっと」


 仕方がないから乗ってやるが、わざわざめんどくさいフリをする魔王に意地悪はしておく。


「仮定形にすんな。断定しろ」

「人間なんだからいずれは死ぬ。これは当然のことだよね。私だって今の身体は人間だからいつかは死ぬさ」


 でも、それがいつなのかというのは誰にも判らない。


 健康に留意し、適度な運動と節度ある食生活を続け、ストレスを溜めすぎないようにすれば、長寿を保てるかもしれない。

 かもしれない、だ。


 やってみなくては判らない。

 そこまでしても、不健康な生活をしている人より早死にしてしまうかもしれないのである。

 確実に判っているのは、いつか必ず死ぬということだけ。


「だから絶望しかないのか。だからなんにもしないで寝てれば良いのか。って話だよ」


 いつかは死ぬから。

 死ぬと判っているから懸命に生きる。

 なんとかして長寿を保とうと足掻く。

 生きた証を残そうと必死になる。


「人でも世界でも同じさ。いずれは死ぬしいずれは滅ぶ」

「たから俺たちは、それを一分一秒でも遅らせるため必死に足掻くってことだな」

「そゆこと」


 破壊神シヴァが世界を滅ぼしてしまわないよう、この世界は面白いんだよとアピールし続ける。


 滅ぼしちゃったらもったいないよ、と。


 そんなしょーもない仕事より、一緒に遊ぼう、と。


「それより僕と踊りませんか、だな」

「古いよ。暁貴さん」


 漫才のような暁貴とこころの会話に、鉄心、沙樹、依田が微妙な笑顔を浮かべた。


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