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邪神襲来!? ~潮騒の街から パート3~  作者: 南野 雪花
第2章 敵じゃマハラジャ!
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敵じゃマハラジャ! 7


 ポークシャドウの絵梨佳から連絡を受け、澪役場ではさっそく対応の協議に入った。


 暁貴、依田、鉄心、沙樹、こころ。

 腹心中の腹心、高木の姿はない。


「ていうか、実剛に声をかけるタイミングがこすっからいよね。その金石ってやつも」


 いやーな顔をする知恵者である。


 あと五分もはやく話しかけられていたら、人面鬼が次期魔王をフォローするため同行することができただろう。

 もちろんそれが判っていたから、(くだん)の経営コンサルタントは高木と深雪が立ち去った後で声をかけた。


 現在、実剛とともにあるのは絵梨佳だけ。

 戦闘力という点においては申し分ないが、知謀で支えることはできない。

 次期魔王は、誰にアドバイスを求めることもできない状態で金石陣営の首魁(しゅかい)と話さなくてはならないということだ。


 ただ、このあたりは児戯(じぎ)に類することではある。

 高木がいなくとも実剛が怯むことはないだろうし、動揺して判断を誤ることもないだろう。

 いてくれればいいな、という程度の話だ。


 この点について、暁貴や沙樹ばかりでなく、こころも不安を持ってはいない。

 まあ彼女の場合は、いささか苦みをともなった認識ではあるが。


 なにしろ一月の沖縄で、次期魔王を陥落寸前まで追い込んだのは、他ならぬこころ自身である。

 あのときは、なんと絵梨佳が知恵者を言い負かしたのだ。

 論理的でもなんでもない方法で。


「つっても、現時点で交渉のたたき台にのせる商品はなんにもねーからな。俺らにしても向こうさんにしても。なんのつもりで接触してきたのやら」


 やれやれと肩をすくめ、タバコに火を灯す魔王。

 こういう意味のない接触が、じつのところ一番めんどくさい。


「ごく気楽に考えれば、顔合わせがしたい、というところだろうな」


 ハシビロコウそっくりの顔。

 鼻から勢いよく煙を噴き出す。


「しかし依田。実剛なんぞと顔合わせをしてどうする? あいつは次期魔王であって、魔王ではないぞ」


 もうひとりの人間煙突、鉄心が左手にタバコを持ったまま問い返した。

 五人中三人がスモーカー。

 なかなかに劣悪な職場環境であるが、空気清浄機がフル稼働で頑張ってくれているため、そんなに匂いは籠もらない。


「あ、アレじゃない? 相手のボスってのは女の子で、実剛に興味をもったとか」

「沙樹さんじゃないんだからさ」


 やれやれと肩をすくめるこころ。

 恋に生きる女は、今日も平常運転だ。

 この恋愛脳なところさえなければ、蒼銀の魔女は完璧といって良いだろう。


「いやいや。最近はゆうぞーくん一筋よ?」

「三日前、佐々木くんと飲みに行ったよね?」

「内緒にして!」

「じゃあ次の休日はデートしてくれるかい? 私は回らないお寿司が好きだよ」

「く! この鬼畜め!」


 バカな話できゃいきゃい騒いでいる。

 横目で見ながら鉄心が話を続けた。


「沙樹の説は論外としても、実剛が重要なファクターだと知っていて誘ったのか、それとも単なる興味か、それだけでだいぶ違うだろうがな」

「いまの段階でそれは絞りこめんよ。萩。まさに御大将が会って、為人(ひととなり)を確かめてから判ることだろうな」


 依田が応える。


「爪弾いてみにゃあ弦の調子は判らねえってヤツだな」


 むうと唸る魔王。

 歯がゆい話ではある。


 現状、金石陣営の狙いがまったく読めない。

 こころや高木ですら匙を投げているような状況だ。


 敵対しているわけではない。かといって友好条約を結びたいわけでもない。金儲け目的ではないかという予測は立てられているし、金石陣営の人間も似たようなことを語っているが、人外が積極的に商業活動をする理由が判らない。

 何がしたいのか、さっぱりなのである。


「顎のせ攻撃をくらえー」

「ぐえー」


 魔女と知恵者は遊んでるし。

 こころの頭に、のしかかるようにして沙樹が顎を乗せて。


「楽しそうだなぁ。おまえら」

「今の段階でできることはなんにもないからね。実剛が情報を持ち帰ってからだよ。どう動くか決めるのは」


 半眼を向けられたこころが、両手を広げてみせる。

 沙樹の顔を頭に乗せたまま。


 トーテムポールみたいだった。





 ありふれた小型普通乗用車(コンパクトカー)に先導されること数分、ポークシャドウを駆る実剛の視界に、かなり大きな建造物が入り込んできた。


「おっきいビルですねー」


 フルフェイスのヘルメットに仕込まれたインカムを通して、絵梨佳の声が聞こえる。

 携帯電話回線を使ったものではなく無線機らしい。


 しかも、喋り始めると送信するというスグレモノで、手での操作はまったく必要ない。

 これだけでウン十万円もかかっている、と、車体と周辺機器の改装を手がけてくれた自衛隊の技術士官が教えてくれた。

 もちろん細かい構造とかは実剛には判らない。


 とりあえず、スピード上げたら二人の世界は近くて遠くならない、ということだけ判っていれば充分である。


(うち)の庁舎より背の高い建物って、久しぶりに見た気がするよ」


 苦笑する。

 東京で暮らしていた頃は、八階建てのビルなどありふれていた。

 それを珍しく感じるようになってしまったのは、馴染んだのか凋落(ちょうらく)したのか。


 やがて自動車と単車は、地下駐車場へと入ってゆく。

 これもまた、田舎ではけっこう珍しい。


 なにしろ土地はいくらでも余っているので、わざわざ地下とか屋上とかに駐車場を作る必要がない。

 澪の出撃拠点や偽装要塞のように、装甲車とかを隠す場合を除いて。


「こっちだよ。殿下」


 車から降りた耶子が声をかけ、先導して歩き出す。

 ここまできて逆らっても意味がないため、素直に従う実剛と絵梨佳。

 婚約者がやや緊張していると気付いた次期魔王が、右手を伸ばして絵梨佳と手を繋いだ。


「たぶん戦いにはならないよ。絵梨佳ちゃん」

「はい。ありがとうございます」


 にっこりと返す。

 案内されたのはエレベーターである。


「み、澪役場だってエレベーターくらいあるもんねっ」

「何に対抗しているんだい? 殿下。資金力じゃ澪とウチは勝負にならないだろ?」


 なにいってんだこいつ、という耶子の顔。

 当たり前である。


 澪の年間予算は二十兆円。

 北海道全体の年間予算の十倍近くに達するのである。

 ひとつの企業で対抗できるようなものではない。


「いまさらのようだけど、本当に会うんだね? 殿下」

「ほんとにいまさらだね。エレベーターに乗ってから嫌だといっても、もうどうにもならないと思うよ」


 次期魔王が苦笑する。

 もう金石陣営の懐に飛び込んでしまった。仮に途中でエレベーターを降りたとしても、相手の胃袋の中であることに違いはない。


「うん。まあそれはそうなんだけどさ……」

「なに? なんか歯切れが悪いね」

「ウチの大将ってバカだからさ。呆れられるんじゃないかと」


 自らの陣営のトップを馬鹿呼ばわりする耶子。

 こんな場合だが、実剛は奇妙なおかしみを感じた。


 思わず、「大丈夫。慣れてるから」とか応えそうになってしまう。


 まさか本当(・・)のことも言えないので、鋼の自制心をもって、


「僕には耐性があるから平気だよ」


 と、コメントしたにとどめた。


「いやいや殿下。ずいぶん踏み込んだ発言してるぞ?」


 半眼を向ける耶子であった。

 たまらず絵梨佳が、ぷっと吹き出した。


 エレベーターのドアが開く。

 表示からみて最上階だろう。


 仮定形なのは、実剛は一瞬、異世界に迷い込んでしまったのかと思ったからだ。

 豪華絢爛(ごうかけんらん)、と言って良いのかどうか。


 とてもビジネスビルの中とは思えない。


 中央部にはなぜかプールがあり、ビキニ姿の美女たちが遊んでいる。

 たっくさんの観葉植物。

 なんか良くわかんないけど、でっかいゾウっぽい彫刻とかも置かれ、噴水みたいなのもあるし。

 あとは、天井から吊されたミラーボールがくるくると回ってたりする。


 奥の方のはやたら豪華な寝椅子。

 横になった男と、でっかい団扇(うちわ)で扇いでいる美女。

 これもまたけっこう扇情的な服装だ。


 なんと表現すればいいのか、たとえばインド映画に登場する宮殿とか、そういうのが最も近いだろうか。


 マハラジャ!


 みたいな雰囲気である。

 わりと日本人が勘違いして作った系の。


「…………」


 絵梨佳が無言で実剛を見た。

 帰りませんか? と、瞳が語っている。


「…………」


 見つめ返す次期魔王。

 もう帰りたい、と、思いながら。


 

 

 

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