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邪神襲来!? ~潮騒の街から パート3~  作者: 南野 雪花
第2章 敵じゃマハラジャ!
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敵じゃマハラジャ! 3


 まあ、嘆いてみたところで現実が逃げてくれるわけではない。


「で、感触はどうだった? おふたりさん」


 ふたたび琴美と佐藤に視線を戻す暁貴。

 折衝の結果についてだ。

 酒まで振る舞ったのだから、すぐすぐ敵対するという雰囲気ではないだろうが。


「かなり友好的でしたね。ただ、こちらと(よしみ)を通じたい、という感じでもありませんでした」


 所感を述べるのは佐藤だ。

 酒の場とはいえ、あるいは酒の場だからこそ、彼は相手の動向をきっちりと観察していた。


 (くだん)の経営コンサルティング会社が提案したというグルメイベントも、とくに不審な点はなかった。

 市政にどの程度まで深く食い込んでいるのかというのも探ったが、たとえば澪のように支配しているということもなかった。

 かといって、まったく外部の無関係な組織というわけでもない。


 豊富な資金力と巧みな弁舌をもって、かなり深い部分まで入り込んでいる。

 いわゆる典型的な癒着(ゆちゃく)構造ではあるが、これは澪が口を出す問題ではないだろう。


 他の自治体のことだし、そもそも澪自体が議会制民主主義の原則をことごとく無視している。

 他人様のことを(あげつら)えるような身分では、まったくないのだ。


「つまり、支配が目的ではないということか」

「僕にはそう見えましたね」


 鉄心の問いに、慎重に応える佐藤。

 あくまでも彼個人の見解でしかない。この時点での即断は危険である。


「では何が目的だと読む?」

「支配ではないとすれば、目的はひとつしかないと思いますよ。顧問」


 応えたのは高木である。


「金、か」

「ですね」


 政治と経済が癒着するとき、後者の目的はひとつしか存在しない。

 というより、そもそも企業の目的はひとつだけだ。

 社会貢献とか、いろいろ(うた)い文句は存在するが、究極的には自社の利益追求。

 これしかないのである。


 だから利益にならないことはやらないし、赤字になることからは手を引く。

 当たり前のことだ。咎められる筋はない。

 だからこそ公共工事や公共事業というものが存在するのである。


 どうやっても利益なんか見込めない、けれども人々の生活にとって必要なことを、国なり自治体なりが金を出して推し進める。

 たまに公共事業は赤字にしかならないんだからやめろと主張する人がいるが、そこから自治体が手を引いちゃった場合、誰がやるのかって話だ。


 道路の敷設や補修、橋梁(きょうりょう)の建設や保守、公共施設の建築、公立学校の運営。

 こんなもん、利益が上がるわけがない。

 道路をいくら作ったって、通行料を取っているわけでもないのだから一円の儲けにもならないのである。

 企業がやるわけがない。


 しかし、道路がなくては車も走れないし人も歩けない。

 人々の生活が圧迫されてしまう。

 だから自治体とか国が金を出す。


 ぶっちゃけ、現在の日本人が便利に使っている電話だって、そのケーブルを敷設したのは電電公社(でんでんこうしゃ)という公共企業体だ。

 個人が持っている携帯端末も、電波塔からケーブルを通って音声なりデータなりが送受信されているのである。トランシーバや無線機みたいに端末間でやりとりしているわけではない。


 これを無駄遣いだという人は、警察も救急も消防も必要ないと考えているのだろう。


「とまあ、そこまで皮肉なことを言わなくても、企業が公共工事を請け負いたがるのは、金払いが間違いないという事情もありますがね」


 肩をすくめる人面鬼。


 このあたりは矛盾(パラドックス)ではある。

 発注する自治体にとっては元手は税金だから、役人たちの懐が痛むわけではない。だからこそ、けっこう適当に業者を決めちゃったり価格設定が甘かったりする。


 血税などと言っても、しょせんは他人の金だから。


「つまりインド神話の神さんたちは、北斗市の市政に食い込んで利益を得ようとしているってわけかい? おたか」

「本当は澪に食い込みたいとは思いますよ? でも、うちは癒着構造にはなりようがないですからね」

「だなや」


 澪が敷いているのは絶対的な専制だ。

 王である暁貴が(ヤー)といえば是だし、(ナイン)といえば否なのである。


 癒着もへったくれもない。

 民主主義的にいえば、はなっから腐りきっているのだから。


「だが高木よ。人外が金など求めるか?」

「ええ顧問。私の考えのネックもそこです。こんな回りくどいことをしなくても金を得る方法はいくらでもありますし、そもそも転生者が金銭に執着するのかって部分もありますしね」


 主君である暁貴を見る。


 なにしろこのおっさん、王様になるまでは、役場の平職員だったのだ。

 出世にも蓄財にも興味がなく、ライトノベルを読んで、愛猫のぴろしきと遊んでいれば幸せって感じで。

 鉄心などは、やるきなし一代男、などと評したほどである。

 しかも今だって、魔王城たる巫邸は木造モルタルサイディング外装二階建ての、ごく普通の住宅だ。


 北海道どころか、日本国とも互角以上に渡り合う魔王の居城として、どうなんだって話である。


「こいつは例外だがな」


 苦笑する鉄心。

 暁貴は参考にならない。


 実際問題、巫の眷属にしても、芝家にしても、もちろん萩にしても資産家である。

 ちゃんと拠点のある人外は、だまってたって金がたまるのだ。

 力を利用したい人間が貢ぐし。


 だから、暁貴とは違った意味で、熱心に金儲けをする理由がない。


「いずれにしても、澪を中心とした爆発的な好景気の波に乗りたいって部分だけはたしかだと思います。理由までは判りませんが」


 常識的なところで、金という推論を立てたに過ぎない。


「ま、ガネーシャは金運の神だから、それはそれでありかもなー」

「自分で金儲けに勤しむ金運の神などいるか」


 盟友の言葉に呆れ顔の鉄心。

 相手の目的が判らないのは不気味ではあるが、現状、敵対するつもりがないと判っただけで良しとするべきだろう。


「つっても安心してたところにズドンとやられたら目もあてられねーからな。調査自体は続行してくれ」

「了解しました」

「わかったわ。暁貴さん」


 佐藤と琴美が首肯(しゅこう)する。

 引き続き、メディア対策室が中心となって動向を探ることとなった。


 最悪のシナリオは、グルメイベントで人が集まったところを爆破とかする、というやつである。

 もしそのようなことを考えているなら、澪としても適切な処置をとらなくてはならないのだ。


「イベントを成功させたいだけってなら、いくらでも手を結べるのにな」

「グルメイベントに本気で取り組む神というのは新機軸すぎるぞ。暁貴」

「町おこしに本気で取り組む人外もいっからな。たいして珍しくもねーさ」


 やや老いが見え始めた顔をつきあわせ、魔王と鬼がシニカルな笑みを浮かべる。

 どちらが相手をよりしゃらくさいと思っているのか、周囲のものには判らなかった。





 澪を守るための戦力は、第一隊が主力である。


 指揮統率するのは信一。彼の下に、もともとの第一隊を構成していた量産型能力者、勇者隊、ニンジャ隊、童子隊、というのが編成だ。

 このうち最も数が多いのがニンジャ。

 百十一名の第一隊のうち、当初は七十五名を数えた。


 そしてこれまでの戦いで最も損害を受けてきたのもニンジャだった。

 バンパイアロードとの決戦、米ロ連合の侵攻、中華神話との戦いで多くを失い、現在の忍者隊は四十名しかいない。


 第一隊全体も、七十名足らずまで減少している。

 戦力の低下、なんて言葉がばかばかしくなるような惨状だ。


「正直、次の大規模侵攻は防ぎきれないだろうね」


 とは、客将であるこころが語った言葉である。

 そしてそれは町幹部たちの見解とも一致していた。


 もちろん魔王をはじめとした特殊能力者たちは、量産型能力者よりずっと強い。

 そうそう簡単に倒されることはないが、ここでいう防ぎきるとは、暁貴と実剛が無事なら良い、という意味ではない。


 町民に犠牲者をひとりも出さない。

 ただのひとりでも町民から被害が出たら俺たちの負けだ、というのは暁貴が幾度も言ってきたことだ。


「戦闘員の補充はしないといけないだろうね。これは動かしようのない事実だよ。暁貴さん」

「だよなあ……どうするべなぁ……」


 一日(いちじつ)、こころは魔王からアドバイスを求められた。

 グルメイベントにばかり気を取られてはいられないのである。


 澪の改革は始まったばかり。

 やらなくてはいけないことは山積している。


 それこそ、一山いくらで売れちゃうくらいに。


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