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邪神襲来!? ~潮騒の街から パート3~  作者: 南野 雪花
第1章 対澪包囲網!?
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対澪包囲網!? 10


 澪の幹部どもが遊んでいるころ、琴美と佐藤はもうちょっと深刻な仕事をしていた。

 北斗市に赴き情報を探るという。


 とはいえ、現状でできることはあまり多くはない。

 企画を立ち上げたという経営コンサルティング会社をあたり、たとえば経営者とかと面会して存念をきく程度だ。

 市政にどの程度食い込んでいるかとか、八雲町との関係はとか、知りたいことは山ほどあるが、一日二日で判るわけがないしあまり大っぴらに探るのもまずい。


「メインは影豚(うち)の連中だよ。裏から探ってる」


 コンピュータネットワークを介して、情報のやりとりなどの履歴を探る。

 今日日(きょうび)、足で稼ぐ情報収集など笑い話でしかないのだ。


「つまり私たちは囮ってことね」


 ふむと頷く琴美。

 動いてみせることで相手が動くかもしれない。

 それを尻尾と見なして引っ張ってやれば、なんらかのリアクションがある。

 飛び上がるでも、引っ掻くでも、かみつくでも。


 どういう反応をするかで、相手の考えていることも判る。

 そして、そういうアクティブな動きをしている一方で、他の影豚たちが着実に情報を集めてゆく。


「うん。ただ囮の方はそれなりに危険があるからね。切り抜けるための訓練を積んでいるんだよ。僕たちスパイは」


 並んで歩きながら、佐藤が肩をすくめてみせた。

 戦うための訓練ではない。


 基本的にスパイは戦わない。暗殺者でも戦闘員でもないからだ。

 変に事件を大きくしてしまうと、探りにくくなるのは道理である。

 だからなるべく場を乱さずに、自然なカタチで情報を手に入れるというのがベーシックなスタイルとなる。


 とはいえ、殺されちゃったら情報を持ち帰ることができない。

 情報の抱え落ち(・・・・)は、一番ダメなパターンなので、どんな状況でも生きて帰るくらいの戦闘力は必要になってくる。


「あくまで人間が相手の場合だけどね」

「相手が人外(ばけもの)じゃあ、そんな常識は通用しないからねぇ」

「みんながみんな、アンジーみたいに優しいわけじゃないからね」


 澪のモンスターたちは優しい。

 なんだかんだと言いつつも、人間を殺さないよう、傷つけないよう気を使ってくれる。

 無原則な無抵抗主義者ではないが。


 ようするに、良心的でいられる範囲においては良心的であろうとしてくれるのだ。

 そして、ファウルラインを超えるのは、いつだって人間側である。


「で、今回も人外がからんでる、と」

「金石耶子って名乗ったそうだけど、もちろん偽名だろうね」

「んー それはどうだろ?」


 転生者は、ベースになる神から、あまり遠く離れた名前は名乗れないらしい。

 名前というのは、現代の日本人が考えるよりずっと重い意味がある。

 名前が変わったら別の神さまになってしまう、という話を琴美はキクから聞いたことがある。


「金石なんて神、いるのかい? アンジー」

「漢字は表意文字だから、そのあたり難しいのよね。意味でくるのか、音でくるのか」

「鉄と石の神さまか。ふーむ」


 悩んでいる間に、(くだん)の経営コンサルタント会社が見えてきた。


「でっかー」

「ちょっと田舎にはそぐわないね」


 呆れる二人。

 外観は地上八階建てくらい。

 大都会なら珍しくもないだろうが、ぶっちゃけ人口五万人もいないような市には、あんまり似合っていない。

 自社ビルだとすれば、そうとうお金持ちだ。


 中に入る。

 一階には受付があり、女性社員が座っていた。

 えらく都会的な仕様である。

 そもそも受付だけにワンフロアを使うなど贅沢すぎる。どんな大企業だって話だ。

 だが、琴美が目を見張ったのは、空間活用についてではない。


「うっわ……美人……」


 受付嬢を一目見て呟く。

 自分だって澪を代表する美女のひとりのクセに。


「きみが言っても嫌味にしかならないよ」

「いやいや。私より美人でしょ。あきらかに」

「うーん。十五ゲーム差でアンジーの勝ちだね」

「あによ? ゲーム差って」


 くだらないことを言い合いながら近づいてゆく。

 にっこりと微笑む受付嬢。

 世の男性の八割くらいは一発でノックアウトされそうな笑みだ。


 やや明るい色の髪。ばっちりと大きな瞳。白い肌は血色も良く、触ったらきっともちもちのすべすべだろう。

 座っているので身長までは判らないが、女性にしては長身の琴美と同じくらいだろうか。


「いらっしゃいませ。どのようなご用でしょうか」


 鈴を鳴らすように良く通る美声だが、べつに佐藤はときめいたりしなかった。

 普段から澪の血族たちを見ていれば、この程度の美貌など慣れっこである。


 ミスユニバース日本代表を連れてきたって、ふーんで流す自信があるし、そもそも彼の愛は、すべてある人物に捧げられているのだ。

 祖国も組織もぜーんぶまとめて捨てちゃえるくらいに。


「澪町役場、メディア対策室の佐藤と申します。アポなしで申し訳ないのですが、代表の方と面会することはできますでしょうか」

「確認しますので少々お待ちください」


 そういって立ちあがった受付嬢が、一階にいくつか設けられた談話ブースへとふたりを案内する。

 ちらりと佐藤が胸のネームプレートを確認した。

 櫛見(くしみ)あいら、と。






「なんか、原稿の持ち込みにきた漫画家志望みたいね」

「そういう経験があるのかい?」


 (きょう)されたコーヒーにカタチだけ口を付けながら笑った琴美に、佐藤が苦笑を向ける。


「なんかのアニメでそういうシーンがあったのよ」

「残念だよ。アンジーが漫画を描くなら、ぜひ読ませてもらいたかったのに」

「綺麗なお姉さんのおっぱい見てたくせに」

「見ていたのはネームプレートだよ。アンジー。邪推はやめてくれたまえ」


 あいかわらずバカな会話だ。

 これが次期魔王の秘書にと望まれている女性と、元スパイの会話だというのだから、澪は侮れない。


「櫛見なんて、珍しい苗字だと思ってね」

「たしかにあんまり聞かない響きよね」

「たぶん僕の佐藤に比べたら、すっごい少ないと思うよ」

「あなたのはそもそも偽名でしょうが」

「はっはっはっ」


 偽名で働ける職場。

 それが澪役場である。

 しゅてるんとか、そよかぜとか、カトルとか、ハシビロコウとか、謎の名前を持った人物たちが闊歩(かっぽ)する素敵な場所だ。


「依田さんに伝えておくわね」

「申し訳ありませんでした。もう言いません。許してください」


 ヒクツに揉み手などする佐藤であった。

 そんなことをやっていると、談話ブースに男性が入ってくる。


「お待たせしました。申し訳ありませんが、社長の金石は出張でして。かわりに私が」


 若い。

 琴美と同世代だといっても、ほとんどの人が納得するだろう。


 そんな人物が代表者のかわりに?

 首をかしげつつ席を立ち、琴美と佐藤が名刺を差し出す。

 先方のものには、刈屋命(かりや みこと)と記されてあった。

 役職は代表取締役専務である。


「お若く見えますね」

「ええまあ。実際に若いですから。貴女と同い年ですよ。魔女の娘」

「いきなりカードを切りましたね」


 再び着席しながらの社交辞令に、直球が返ってきた。

 ど真ん中に剛速球。

 そんな印象だ。


「すでにうちの社長(バカ)が接触しているからね。いまさら隠しても始まらないだろ?」


 やれやれと両手を広げている。

 言葉遣いも変わった。

 それにしても代表者をバカとか。


 こんな場合だが、佐藤は()に同情した。

 最高責任者が困った人だ、というのは、べつに澪に限った話ではないらしい。


「で、なにが知りたいんだい?」

「そおねえ。なんでこんなイベントを企画したのかってのが、まずはひとつめね」


 琴美もまた言葉を崩す。

 最大の疑問だ。

 澪に接触するのが目的なら、こんな回りくどい方法をとる必要はない。

 逆にイベントだけが目的なら、実剛に接触する理由がない。

 どうにもちぐはぐな印象なのだ。


「一番の理由は、儲かりそうだからってやつだけどね」

「人外がお金儲け?」

「金は大事さ。こいつがないと自由すら買えないって、社長(バカ)がいつも言っているよ」

「即物的ね。一番があるってことは二番以下もあるってこと?」


 気さくな会話。

 この会話の中から真意を見抜け、とは、琴美が無言のうちに佐藤に依頼したことである。


「それを語るのはちょっと時間がかかるかな。長い話になるから」


 魔女の娘と元スパイを等分に眺めながら、刈屋が言葉を続ける。


「一席設けるからさ。いけるだろ?」


 右手を口に近づけ、親指と人差し指で何かをつまむ仕草をしながら、男は傾ける仕草をした。


 くいっと。


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