空に誓って
2013年の春…
俺は最愛の人と別れた
当時俺たちは22歳だった
『空…私たち、別れよ?』
『え?』
そう言って走ってどこかへ行った
俺はいきなりすぎで追いかけることさえ出来なかった
月日は経ち、とうとう2017年の春…
あれからもう4年経った
俺はまだあの時の事を鮮明に覚えている
あの日別れた美緒の事を今でも引きずっている
何回か吹っ切れようとしたけど無理だった
いくら美人な子と付き合っても
いくら性格がいい子と付き合っても
俺の頭の中から美緒の存在が消える事はなかった
今、美緒がどうしているのかわからない
もしかしたら新しい彼氏が出来ているかもしれない
もしかしたら結婚しているかもしれない
そう考えていると俺の足に思いっきり何かがぶつかってきた
「おっと…」
その何かとは小さな女の子だったようで、その子は俺にぶつかった反動で倒れそうになっていた
俺は咄嗟にその子を抱きとめた
「!…あーがと!おにーちゃん!…ドーンってしてごめんね…」
「大丈夫だよ。怪我してない?」
「みくはだいじょーぶだよ!!あっ!ままー!」
ママって呼ばれた人は慌ててこっちへ来てすぐに頭を下げた
「すいませんっ!みくがご迷惑をおかけしてっ!」
「いえ、大丈夫ですよ。」
俺がそう言うとみくちゃんの母親は頭をあげた
「本当にすいま…え?」
「っ!」
美緒だった
あれから4年も経つのにちっとも変わってない
変わったとすれば顔が母親の顔になっていることだけだ
「な、んで……」
「それはこっちのセリフだよ…
……美緒子供いたんだな」
「…えぇ」
「あのねぇ、みくねぇ、いまさんさいなのー!」
みくちゃんは自分の手で3を作って言った
……は?
3歳?
俺らが別れたのは4年前。
って事は俺らが別れてすぐ妊娠したのか?
別れた時はお腹大きくなかったし…
「…旦那さんは?」
「……いないわよ。シングルマザーってやつ」
「……マジかよ
…なぁ美緒。話したいことがあるんだけど時間作れねぇ?」
さっきまで気まずそうに顔を背けていた美緒は驚いたように顔を上げた
「……いいわよ。でもみくがいるから私の家でいい?」
「ここから近い?」
「少し遠いかも」
「じゃあ俺んちに来いよ。」
俺は美緒を自分家に呼んだ
今まで気になっていたこと、みくちゃんのこと、旦那のこと、色々聞きたいことがあるからだ
……みっともねぇ…
まだ俺は美緒に未練タラタラってわけだ…
でも折角美緒と再開したんだ。
今日ハッキリさせる
俺の家は今さっきまでいた場所から歩いて3分ぐらいの所だったからすぐに着いた
俺の家へ入った瞬間みくちゃんが
「ままー…ねむい……」
と言った
それに対して美緒は困ったような表情になった
あぁ…やっぱり美緒はあの時のままだ
「え?あー……どうしよ。我慢出来る?」
「…寝かせてやれば?布団とかあるけど」
「え……じゃあお言葉に甘えて。
みくーおねんねしようねー」
「はーい!」
美緒がみくちゃんを寝かしつけてリビングに戻って来た
「…で?話って?」
「……俺と別れた時から今日までの経由を包み隠さず全部話してくれない?」
「……」
「俺はまだ美緒のことを引きずってるんだよ。…だから美緒が今が1番幸せっていうのを知ったら諦めれる気がするんだ」
「…わかった」
美緒は決心したように言った
「聞いてから後悔なんてしないでよね?」
「当たり前だ」
俺は後悔なんてするはずがないと思っていた
美緒の話を聞くまでは_
「あの時あなたは売れない小説家だったでしょ?今はベストセラー作家になっているけど…」
俺はあの頃はファンタジー系の小説を書いていた
だけど今は恋愛小説を書いている
「あなたはベストセラー作家になる事が夢だったでしょ?だから邪魔したくなかったんだ」
「美緒が邪魔なんかになるわけがないだろ!」
「違う!私じゃなくて!……私にはその時妊娠してたのよ」
俺は言葉を失った
声さえも出なかった
「私はこの子を産みたいって思ったわ。だって愛する人との間に出来た子供だから。でもこの子を産んだらあなたの夢の邪魔になる。それだけはしたく無かった!…だから私はこの子を産んで1人でこの子を育ててみせるって思ったのよ」
俺の夢の邪魔になると思ったから俺と別れた…?
俺と美緒の間に出来た子供……?
「……その子って」
「みくよ。」
俺は耳を疑った
……あの子が俺の子供?
あの無邪気で可愛い子が…?
「後悔…したでしょ?
大丈夫よ。あなたからお金を巻き上げたりなんてしないから安心して。
……帰るね」
美緒はみくちゃんを起こしに行こうとして俺に背を向けた
その背中が小さくみえて俺は咄嗟に美緒を抱きしめた
「空……?」
美緒が俺の名前を呼んだ
それをきっかけにさっきまで言葉が出なかったのが嘘のように俺は蓋が外れたようにスラスラと言葉が出た
「ごめん…ごめんな……。美緒が妊娠している事に気づかなくて…辛い思いさせて……」
美緒は黙って俺の話を聞いていた
「今更遅いかもしれないけど俺は2人を守っていきたい…
俺にまだ家族になれる権利があるのなら俺と結婚してくれ
みくちゃんを…、みくを、そして美緒も絶対幸せにする」
美緒と別れてから心にポッカリと大きな穴が空いている気がした
ベストセラー作家になってもそれは変わらなかった
でもみくちゃんと会って、美緒と再開して心の穴がどんどん塞がっている気がした
美緒たちを幸せにしたいっていう気持ちもあるけど、半分は俺の為だ
俺が美緒たちと3人で幸せになりたいって思っているからだ
美緒の肩が震え始めた
「……美緒?やっぱりダメか…?」
「っダメなわけないじゃん!」
「本当…か?」
「当たり前でしょ…!
その代わり、みくを悲しませたらただじゃ置かないからね…!」
「ありがとうっ!」
「みくにちゃんと話さないとね」
「あぁ」
美緒はみくちゃんを起こしに行った
……まさかOK出してくれるなんて思わなかったな…
でもみくちゃんがなんて言うかわからないから安心は出来ない
色々考えていたら2人がリビングへ戻って来た
「んぅ……」
目をこすってまだ眠そうなみくちゃん
…本当にこの子が俺の子供なんだって思うと今までに経験したことの無い何かがこみ上げてくる
「みく。よく聞いてね。
ママ、今までパパはいないって言ってたでしょ?」
美緒が小さい子供にも分かるように丁寧に説明している
「…うん」
「でもね、嘘なのよ。」
「…じゃあみくにもぱぱいるの?」
「えぇ。これからパパと一緒に暮らすって言ったらみくはどう思う?」
「うれしい!」
みくちゃんの返事を聞いて良かったっていう気持ちとこれから悲しませてはいけないという気持ちが溢れ出てきた
「そっか……みくにはちょっと難しいかもしれないけど聞いてくれる?空も」
「うんっ!」
「あぁ」
「ママがみくって名前にしたのはママとパパの名前の頭文字を取りたかったからなんだ。」
「ままとぱぱのなまえのかしらもじ……?」
「えぇ。ママの “美緒” の “美” にパパの “空” で “美空” なの。
それに “美しい空のように広い心を持って欲しい” っていう願いも込められてるの」
「うつくしいそら……」
「美緒……」
やっぱり俺は今の美緒の事も美空ちゃんのことも何も知らない…
これから知っていきたい。
そう思った
「話がそれちゃったね…
でね、パパの事なんだけどこの人なんだ」
「ぱぱがこのおにーちゃん??」
「うん。そーだよ。美空ちゃん」
「…ぱぱ!みくのぱぱだ!やった!
ねぇねぇぱぱ!なんでみくのことちゃんづけでよぶのー?みくってよんでよ」
「…これからよろしくね。美空」
笑った顔が美緒にそっくりだ
「うん!これからいっぱいさんにんでおもいでつくっていこーね!」
「えぇ。3人で…」
美緒と美空が顔を見合わせて微笑んでいる
その光景を見て思ったのだ
_この2人を何が何でも守る_
そして
_3人で幸せになる_
俺は空に誓った