俺はギタリストなんだが、なぜか時空のおっさんについて考えることになった#1
時刻は夜の23時を過ぎていた。
俺はすごく疲れていた。
それはバイトのせいもある。
たしかに、俺がバイトを2コ掛け持ちでやってるせいでもある。
しかしこの疲労感の主はそれじゃない。
とにかく、今日はもう色々頑張った。
ソッコーウチ帰って、ソッコー靴下脱いでなんもせずうつぶせに倒れこんで、
そのまんま眠りこけてやる。
と、スマホが鳴った。
「あ。もしもしアーク?」
またしても叉市からだ。
「やっと我がG徳寺駅に着いたよ。
今日はもうヘトヘトだからウチ帰って寝ようとしてるとこだ。」
「ああ、そうなんだ?
あのさ、さっきに引き続きこれからもう一個イベントあるみたいだから。」
「はぁ!? まだ何かあんの?? ちょっと、今日はもういいだろー...。
それにもうG徳寺帰ってきてるし。」
「うん。イベントはG徳寺で起きるからそこは大丈夫。
まあ、しょうがないっしょ。決まっちゃったんだから。」
「えー?もう、俺は駅から布団まで一直線で倒れこむってところまで
想像済みだったんだぞ。」
いつもの事だが、叉市に文句を言ってもどうにもならん。
それは知っていたが、文句を言いたい時は一旦言うしかない。
「はぁ~。で?どういうのが始まるんだよ。」
「んー。。。たぶん普通に過ごしてりゃ分かるっぽい。そいじゃね。」
叉市はさっさと電話を切ってしまった。
電話の内容を不満に思いながらも、
とりあえず改札を出て家路に着こうとした。
...と、さっきまでは完全に布団の事しか頭になかったが、
なぜだか駅前のファミマに寄ってから帰る気分になっていた。
自分でも不思議な気がしたが、
ファミマに寄る感じになっているので気分に抗わず寄っていく事にした。
んんー?俺今何か食べたいのか......?
ファミマに入ろうとした時、視界の横のとこに何かがチラついた。
『あれは…。』
ファミマの入り口から見える路地の辺りにシルエットが浮かび上がり、俺の全身は震えた。
『ビリーじゃないか!!』
俺はすぐにビリーのそばまで駆け寄って行った。
...。
やっぱりそうだ。
間違いない。
俺のビリーだ。
俺は、とあるオートロック式のワンルームマンションに住んでいる。
建物の駐輪場は共用玄関の中にある。
だからビリーが盗まれるはずはないと思い込み、
俺はロックをせず鍵を付けっぱなしにしていた。
しかしそれは過信に過ぎず、あっさりと盗まれたのが数日前のことだった。
ここで少し、俺とビリーの話をしよう。
こいつとの出会いは10年くらい前まで遡る。
母さんがなんかのお祝い(何の祝いかは忘れた)で自転車を買ってくれると言うので、
一緒に近所のホームセンターに行った。
俺はその時MTバイクを所望した。
だがそれは却下され、なんかの独断的な理由(それも忘れた)から
母さんはブリッジストーン製の高性能三段変速ママチャリを選びプレゼントしてくれた。
そして、こいつはホームセンターから横浜の我が家に堂々とやって来たのだった。
その姿はまるで、
俺が当時大好きだったアメリカンロックバンド:グッショアーで
リードギターを掻き鳴らすあいつとダブって見えてしょうがなかった...ような気がする。
だから俺はこいつと自然と仲良くなり、
ごく当たり前にこいつをビリーと呼ぶようになっていった...ような気がする。
中学、高校、大学と俺は基本電車や徒歩で通学していたから、
ビリーは待機状態が常だった。
でも、Sorrys!の為にG徳寺に引っ越して来てからはビリーはフル稼働していた。
雨の日、風の日、雪の日、そして台風の日も俺はこいつを乗りこなし、
こいつはそれに対していつも高いパフォーマンスで応えてきたのだ。
ちなみに、俺が上京する際も他の荷物たちとは違って、
ビリーだけは運ばれるどころか逆に俺を横浜からG徳寺の新居まで運んでくれた。
あの日こいつに乗って二子橋を渡った時の風は、まるでジ・アンセムのように心に響いた。
『そんな俺のビリー。それが、こんなあられもない姿になって。。。』
客観的に見れば、確かに盗まれた時とそうルックスは違っていないだろう。
俺は元々そんなに手入れをしないで乗るタイプなわけだし、
付いている泥も汚れも俺が乗った時のものだろう。
鍵も盗まれた時同様付けっぱなしにしてある。
......しかし俺には分かるのだ......。
ビリーは全然気乗りしない相手に跨られ、そして弄ばれた事が。。。!!
『く、くぅぅぅ.........なんと卑劣な......。』
俺の瞼の裏に、まだ見ぬ卑劣な犯人「ユージ(仮名)」の
下劣で自己満足的で破廉恥な笑顔がありありと浮かび上がった。
一気に俺の怒りは燃え上がった。
そう。俺の頭にSorrys!のBet Itのイントロリフとサイレンが同時に鳴り響いた!
握り締めた拳は破壊的な金属音のSEとリンクした。
俺はビリーをその場に囮としてキープし、
近くにある電柱の陰に身を潜めることにした。
ビリーをもう一度弄ぼうと近寄ってきたユージ(仮)をとっ掴まえ、
そして
シ・バ・ク!!