背負う名の意味~守る覚悟、壊す覚悟~
~さとりSide~
「おらぁ!」
「ふっ!せい!!」
「おっと!はぁ!」
「それはフェイント!狙いは足です!」
「っ!」
「はぁぁ!!」
「甘いねぇ!!」
美鈴さんが一度勇儀から距離を取る。その隙を見て天子さんが剣を振るも勇儀はそれを手首の枷で受ける。
「天子さん!左へ!」
「チッ!」
「そこです!!」
「やるじゃないかさとり。でも、こんな弾幕じゃあ止まらないよ!!」
「ええ、もちろん分かってますよ。私では貴女は倒せません」
「そのために、私が来たんですから、ねっ!!」
「中々いい動きだ。ただの妖怪にしとくのがもったいないね」
「お褒めの言葉と受け取っておきましょう」
「褒めてるとも。鬼のアタシに肉弾戦でここまで付いて来るやつなんか、萃香や他の四天王以来だ。そこらの鬼なんて目じゃないさ」
「こちらの全力を軽くしのいでおきながら、よく言いますね」
「こっちにだって譲れないものはある。生半可な覚悟じゃないってことさ」
「はん!どこの誰ともわかんないような奴にフラフラなびくような奴が、偉そうに語ってんじゃないわよ」
「お前を後回しにしてるのは、こいつらにアタシの鬼の本性を見せないためだ。そいつを忘れないことだね」
「天子さん。あまり言うと後が怖いですよ?」
「そんなの、今ここで私がそいつに勝てば問題ないんでしょ?」
天子さんは自身満々にそう言う。けど・・・勇儀の実力はまだまだこんなものじゃない・・・今でこそ、私の能力を活用してなんとか渡り合えてる。美鈴さんには負担をかけてしまってますね・・・
「さぁ、休憩のお喋りはここまでだ。さっさと続きをやるよ!今はコイツと戦うのが楽しくて仕方ないんだ!」
「私もです。最近は弾幕ごっこばかりで、動きが鈍ってましてね。ここからはもっとスピードもパワーも上げて行きますよ!」
「いいねぇ!そう来なくっちゃ・・・な!!」
「ぐっ・・・!不意打ちとは、やってくれます・・・ね!!」
「がっ・・・!っとと・・・今のを反撃されるとは思わなかったぞ」
「言ったでしょう?ここからは・・・本気で行きますよ!!」
「あぁ!!来い!!!」
そこからは、凄まじい攻防でした。殴る、蹴るの応酬。どちらもが相手の裏をかき、より相手にダメージを与えようと、相手の一挙手一投足を逃さない。私はそれを可能な限り先読みし、美鈴さんに伝えていく、もちろん、その言葉を聞いてすぐに勇儀も対応して違う動きをするけど、美鈴さんもそれに対応する。天子さんは機会を伺い、隙を見ては弾幕や剣で攻撃をするも、勇儀はそれを確実にかわすかガードする。
「なかなか・・・!決定打を・・・!くれません・・・!・・・ね!!」
「そっちこそ・・・!よくここまで・・・!付いて来るもんだ・・・!!」
美鈴さんからの正拳。それを腕で受け、足払いで反撃する。それをバク転で回避し、体勢を整える。今度は勇儀から、顔に向けて拳が飛ぶ・・・でもこれは・・・
「美鈴さん!狙いは肘打ちです!下がって!」
「はい!」
「いい連携だな」
「それほどでも。さとりさん、ありがとうございます」
「いえ、私にはこれくらいしか出来ませんから」
それにしても・・・勇儀の本意が読めない・・・。常々強い奴と戦いたいとは言っていたけど、それだけが理由だとは思えない・・・。勇儀の心からは、『楽しい』という感情も聞こえるけど、それと同等くらいに『負けられない』と言ってる・・・。こんな勇儀は初めて見る・・・。そして、もう一つ・・・『許さない』という言葉も・・・。
「ああああもう!!まだるっこしいわねぇ!!!一気に行くわよ!!!門番のアンタ!下がりなさい!『全人類の非想天』!!」
痺れを切らした天子さんがスペカを使う。まるで逃げ場が無いかの如く出てくる大量の弾幕。早いもの、遅いもの、大きいもの、小さいもの・・・様々な弾幕が勇儀に迫る。これなら少しは・・・っ!!勇儀の纏う空気が変わった!?それにこの殺気は・・・!まずい!!
「天子さん!!逃げて!!!」
「何言ってんのよ!!アンタらもさっさと追い討ちしなさい!」
「ダメなんです!!あのスペカは!!!」
「いいだろう・・・そんなに早くにやられたいなら見せてやる・・・鬼の怖さってやつをな・・・四天王奥義『三歩必殺』」
「へぇ・・・スペカにスペカで対抗とはいい度胸じゃない!いいわ!かかって来なさいよ!!」
「勇儀!!!私のことなんか気にしなくていいから!!それだけは止めなさい!!!」
「悪いな、さとり・・・お前ならもう、アタシの心を読んでるだろ?流石にそろそろ限界だ・・・一歩目」
勇儀が一歩目を踏み出す。その瞬間、勇儀に迫っていた弾幕が方向を変え、勝手に外れていく。
「なっ・・・!?アンタ!!何したのよ!!」
「このスペカ、三歩必殺は、弾幕ごっこで使う時の通常のスペカと違って、弾幕を出さない」
「ど、どういうことよ・・・」
「普段は同じ名前で弾幕を出す物も使っているが、これはそれとは別物だ。一歩目。鬼の力に耐えかね、向かいしモノは皆恐怖し、自ら鬼へと道を開ける」
「勇儀!!お願いだから!!!」
「二歩目。鬼の足音は鳴り止まず、聞きし者は皆慄き、その場を動くことすら叶わず」
「な・・・何よ・・・何なのよ・・・どうなってんのよ!!!」
静止の声も聞かず、勇儀が二歩目を踏み出した直後、私たちの身体は硬直し、全く動かなくなった。まずい!!これ以上は本当に・・・!!
「あっ・・・あぁっ・・・」
「三歩目。泣けど喚けど鬼は止まらず、ただ無常にも最後に踏み出すは、鬼怒らせし者への報復の一歩。これを聞きして逃れることなかれ。故に、四天王奥義『三歩必殺』」
「いや・・・いや・・・!」
「勇儀!!ダメーーーーーーーー!!!」
「言ったろ・・・?譲れないものがあるんだよ・・・さぁ・・・覚悟はいいな?天人サマ」
「た、たすけ・・・」
「三歩目だ!!!!」
勇儀が思い切り飛び上がり、動けない天子さんに向けその足を落とさんと降りかかる。誰か・・・誰か!!!!
「はあああああああああ!!!!」
「な!!?なんでお前が!!??」
「め、美鈴さん・・・!!」
あ、ありえない・・・勇儀の三歩必殺の中にいながら・・・どうして動くことが・・・。
「少々、手荒な真似をしましてね。今、私の中には、我が紅魔館の主の妹であるフラン様の『あらゆるものを破壊する程度の能力』があります」
「だが!!それでどうして動ける!!スペカを破壊したのならこいつらだって動けるし、何よりアタシが気付くはずだ!」
「いえ、壊したのはそっちじゃありませんよ。私自身です」
「何を・・・!」
「二歩目。聞きし者は慄き、その場を動くことすら叶わず。でしたよね?」
「あぁ・・・この範囲にいる者は、誰しもが恐怖し、動けなくなる」
「では、恐怖しなければ・・・どうなりますかね?」
「馬鹿な!!人には誰しも、多かれ少なかれ恐怖心はある!!そのひと欠片さえあれば・・・!!お前・・・まさか!!?」
「えぇ・・・先ほど、私の中にある『恐怖心』を破壊しました。お陰で、動くことは出来ましたが、こんなに痛い攻撃にも、恐れずに向かえてしまえるようになってしまいましたがね。妹様は、右手を向けると見えるとおっしゃってましたが、自分の中は関係なかったみたいで、何よりです」
そ、そんなことが・・・でも、確かに、今の美鈴さんに恐怖という感情が無い・・・。本当に・・・
「あ、あぁ・・・ありがとう・・・本当に死ぬかと思った・・・。もう、本当に助からないって・・・」
「私は紅魔館の門番ですよ?仇なす者を全て止めてこそ、その名を背負うことが出来るんです。たとえそれが、主とは違う者であったとしても、守ると決めたらそれを守りきる。それが、門番としての務めです!」
「くっ・・・ふふっ・・・アッハハハハハハ!!!」
「な、なんですかー!せっかくかっこよく決めたのにー!!」
「悪い悪い。いやぁ、大したもんだよ。本当に。ようし分かった!!お前のその心意気に免じて、今までの発言は全部聞かなかったことにしてやるよ!」
嘘は言ってない・・・よかった・・・天子さんは助かったんですね・・・本当に怖かった・・・。
「ご、ごめんなさい・・・貴女にとって、それほどのものだと思わなかった・・・私は・・・」
「あぁん?何のこと言ってんだい?アタシにゃあ覚えがないねぇ」
「本当に・・・ごめんなさい・・・それに、ありがとう・・・」
「ったく、天人サマはおかしなこと言うもんだ、なぁ?」
「えぇ、本当に、何も悪くないのに、謝ることなんてありませんよ」
さぁ・・・ここからが本番ですね・・・。
「さってと、なんだか分からない天人サマの謝罪も受けたことだし、そろそろ続きとしゃれ込もうか?」
「えぇ、そうですね。今はただただ、貴女と戦いたいという感情しかありませんから」
「いいわ!!私も手を貸してあげる!さとり!指示をちょうだいね!!当てにしてるわよ!」
「っ!!はいっ!!任せてください!!一緒に勇儀を倒しましょう!!」
「へっ、ようやく本番ってとこだな・・・さぁ、行くぞ!」
もう心配はいらない。ここからは戦闘に集中して・・・
(悪いな。お前の能力、使わせてもらうぞ?)
え?今の声・・・ミクス!?それに・・・今の言葉・・・
「心の声が・・・聞こえない・・・!?」




