二話 「継続魔法と一般魔法」
中年程の男の耳に本日真っ先に飛び込んだもの。それは――。
その男と同じくスーツに身を包んだ部下が、真剣なまなざしを男に向けながら広い部屋の中央にたたずんでいた。
割と広々としている部屋は、床一面に赤い絨毯が敷かれており、男がついているずっしりとした木製の机は黒光りしている。また、その細かな装飾彫りがその机の高級さを物語っているように見える。そして、その机から高い天井に向かって伸びているのは、山積みにされた資料の数々である。
不機嫌そうな、それでいて疲れてやつれた顔をした中年の男は、険しく眉をひそめるとうなりながら机の上に両肘をたて、頭をかかえた。その眉間には、深い谷がいくつも刻まれている。
「また監視者を一人失ってしまったのか……」
中年の男はため息混じりでそう言い、重々しく黒い椅子をきしませながら立ち上がり、そして机の後方にある壁一面の窓に手を添えた。薄く自分の指紋がついたが、中年の男は目を細めて外の景色を見下ろした。というのも、この部屋は都会の高層ビルの最上階に位置しているため、全ての景色は眼下に広がっているのだ。
中年の男が見下ろした景色は、いくつものビルが高さを競うように地から空へと伸びている様である。遠くの景色は、廃棄ガスのせいか白みがかかってぼやけている。そして、町並みや看板の文字などから理解できるだろうが、ここは断じて日本ではない。
「だが仕方がない。新たに一人、監視者を日本に派遣しろ。アレが暴走でもしたら、日本……いや、この星自体が危険にさらされる事になる」
中年の男は、威厳をもって部下に命じた。
一瞬、反抗的な表情をして口を動かそうとした部下は、男に了解の意を示すと思い扉から出て行った。部屋に、扉の閉まる音が響き終わると、孤独な静寂が訪れた。ポツンと取り残された男はため息をつくと胸ポケットからおもむろに二枚の写真を撮りだした。
一枚は新しく、映っている少年は高校の制服を着ており、隣にはその少年の友達と思われる者達が多数映っている。そして、もう一方の写真は古く、四つ角が少しすり減っている。映っているのは三、四歳の少年で、カメラ目線の瞳は青く鋭い。そして、二枚の写真に写った二人の少年は、顔つきはまるで別で、同一人物ではないことが分かる。
「創設者の子孫……“偽装魔法”……ねえ」
中年の男はそう呟き、写真の子どもを哀れむように、見下したように、見つめ続けた。