一話 No,05
あんまり進んでない……。
最後の方、ちょっと重要人物登場の気配……。
「やっぱり今日もチャーハンなわけだ」
「おお良くできました。なんで分かった」
「臭い、するし」
「ん〜。俺は作る前からここ居たからな〜。よく分からん」
海飛はクンクンと鼻で臭いを嗅ぐ仕草を大袈裟にした。
レンジで温め直した炒飯は、決して旨くはないだろう。しかし、彼ら二人は朝、夜の二食は共に摂っていた。理由としては、彼らはどちらも学生であるので、“金”がないこと。なので、少しでも食費を浮かせるために食事を共にしているのだ。いっそ同居にすればいいのだと、そんな話も挙がったが、海飛はそれを拒否したので、今のような生活を送っている。
海飛はレンジの出来上がりサインの音を待つ間、持っていたコーラの蓋を閉め、通学時から着用したままである制服の襟元を上下させた。すると、クーラーで冷えた空気が暑苦しかった胸に滑り込み、心地良く幸せな気分に浸る事ができた。海飛の制服は至って普通なもので、上着は半袖のシャツ。下は、黒い長ズボンである。そのうちに、ピッピッピという一定のリズムでの電子音がレンジの方向から聞こえた。どうやら夕飯の炒飯が温まったという、待ち望んでいた瞬間が訪れたようだ。大袈裟のようだが、海飛の腹はそれほどまでに空いていた。
「へい、待ちどーい」
男はそう言い、炒飯が山のように盛られた二つの皿とスプーンを器用に担ぐと、おぼんを使用せずにこちらにそれらを運んできた。そして、ドスンという大きな音をたてて海飛がついていた炬燵机に皿を置き、自分の座る場所の雑誌を払いのけるとそのまま海飛の向かいに腰を降ろした。
「いただきます」を言わず、そのまま海飛はスプーンを手に取りほかほかと蒸気を漏らす炒飯の山を、勢い良く崩し、そのまま流し込むように口にかきいれていった。
○*.〜○*.〜○
深夜。
その路地裏は、左右を飲食店に挟まれており、店の裏口から出された生ゴミにより悪臭が漂っていた。換気扇からはき出されている妙に暖かい風のせいか、終わりに近づいた夏の気温のせいか、夜だというのに彼の頬には一筋の汗が流れていた。彼は、その汗にへばりついた、肩まである黒髪を鬱陶しそうに払いのけると、着ていた学生服の胸ボタンを一つ空けた。