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一話 ご近所様 No,01

〔一話「ご近所様」 No,01〕



 風は今日も吹き続けて、頭上に永遠と広がっている空に波打つ。


 目には見えていないだけで、空には風が海面の白波のように吹き荒れているのだ。それに浮かび流れるのが、不規則に姿を変えながら空を航海する航海者。一般的に雲と呼ばれるそれだ。


 地上よりも高く、海よりも広い。地上を監視する監視者。空。


 手を伸ばしてみても掴む事は不可能で、せいぜい太陽や月をその小さな指の輪で囲める程度。


 空と海は似ていると誰かが言っていた。だが、実際はそうじゃないと、そう思う。その点、海の風である波、水はどうだ。コップで掬う事ができるだろう。


 空と海は、対の存在なのではないかと、そう思う。交わる事はないのだから、当たり前だと思わないか。


 ああ、それならば俺は空で、お前は海が良かったな。




    ■ ■



 コンクリートで分厚く固められた固い道路は、昼間の熱を未だ保っており、太陽が西に傾いた今でも熱気を帯びていた。足下から朦々と上がる蒸し暑さと、それによりなかなか下がってはくれない気温のせいで、遠くの景色は歪んで見えた。


 既に靴の中は、汗のせいで特有のジメジメ感に満たされており、靴下がいかに濡れているのかが想像できる。思わず表情が歪んでいるのが、自分でも理解できた。


 ここ最近は毎日の最高気温が三十五度と、とんでもないが快適と呼べるような環境ではない。理由としては、今の暦が“夏”という事だ。九月とだけあって、夏を終わらせまいとする紫外線の量が半端ではない。


 ケータイ会社の宣伝に受け取った手持ちのウチワを取り出し、忙しくそれを上下させながら彼は歩道橋の上を歩いていた。国道の上を跨いでいるだけあって、足下のすぐ下には信号が近いのもあり、渋滞でほとんど動いていない自動車が無数にクラクションを鳴らし続けていた。それに引き替え、数人しか利用していない歩道橋を行く彼は、多少の優越感に浸りながら身に付けていたウォークマンのボリュームを上げ、歩道橋の階段を下りていった。



 耳の奥深くにある鼓膜に、ポップの混じったロックバンド系の曲が大音量で響いていた。軽く頭を上下左右に揺らし、リズムにのりつつ足を帰路に沿って運ぶ。周りの人々から見れば、“ノリノリの若い学生”的な感じなのであろうか。そんな事を考えながら、コンビニや服屋など色々な店が連なって建ち並んでいる街道を行く。血を零したような真っ赤な夕焼け。もうすぐ暮れる太陽の光が眩しく店々のガラス窓に反射していた。


 洋食店の前を過ぎると、夕食ラッシュの客に備えて食材、料理の準備をしているのかなんとも美味そうな匂いが漂ってきている。香ばしい香りに、無意識の内に唾液が口内に溜まってくるのが分かった。


 高校生で、しかも現在食べ盛りである彼が高校で食べる昼食に満足する事はなく、下校時になると決まって腹が悲鳴を上げる。コンビニに立ち寄って菓子パンの一つや二つを買い食いしたいのは山々なのだが、金欠によりそんな行動には移る事ができない。食欲というものを紛らわすように、無理矢理に音楽に浸る。それが、彼の下校時の現状である。




〔一話「ご近所様」 No,01 以下続く〕



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