1.アリーシア
アクセスありがとうございます!(*^_^*)
かる~く、サックリと終わりますので、お付き合いいただけると嬉しいです。
結果から言おう。あたしは今、大変困っている。
例えるなら、日照りが続き、農作物に影響が出たとか。
三つ年下の弟に婚約者が出来たとか。
隠れ甘党のあたしが糖分を一週間我慢しなくちゃいけないとか。
そうこんなハイレベルな次元で困り果てていた。
原因がはっきり分かっていれば、勇敢に立ち向かうだろう。
皆を困らせる諸悪の根源をバッサリと切り…………
「待て待て待て、アリーシア。そこはバッサリじゃなくて、サックリの方が……」
「そこは効果音の問題じゃないです、父上」
目の前ではあたしの話を真剣に聞いて下さるお父様と、何故か呆れ顔のルシル。
あたしは今、絶賛相談中だった。
先程少し説明した諸悪の根源を如何様にするか頭を悩ませていたところ、声をかけてくれたのはルシル。チラリと話をすれば、彼は頭を抱え、お父様を呼んできたのである。
本当に困った時に頼りになるのは家族だなあと、しみじみ実感していたところだ。
「姉上の話はツッコミどころが多すぎて、一人じゃシンドイんだよね」
「ルシルもそう思うか。やっぱりあそこはバッサリじゃなくて……」
「父上。効果音の話は終わりましたから」
うん。
こんなに真剣に話を聞いてくれるなんて、お父様もルシルも本当に良い人だ。
「で、アリーシア。何をそんなに困っているんだい?」
「縁談が来ました」
「なんと! それは良い話ではないのか?」
「ええ。相手があたしでなければ」
「え? ……それって、つまり」
「さすがねルシル。貴方の察した通りよ」
あたしはふうと息をつき、「お相手は、アストン男爵家の御令嬢からよ」と、告げる。
「アストン殿からか! あの方は良いお人なのだが、世事には疎いから……」
「世事に疎い以前の問題ですよ、父上」
「そうよね、ルシル。一体なんであたしに……」
「間違いなく原因は姉上です」
「何を言うのルシル! あたしの何処に原因が!?」
「その言葉は鏡を見てから言って下さい!!」
ルシルの叫びに近い懇願に、あたしは仕方なく鏡の前に立つ。
チョコレート色の髪にペパーミント色の瞳。
女性らしさのかけらもないペラペラの身体に、ヒール無用の身長。
白いカッターシャツに黒いズボンなんて軽装なのは、今しがた遠乗りから帰ってきたばかりだったから。(その流れで、剣術の鍛錬もしようと思っていた)
お世辞にも可愛いなんて言われた事のないその姿は、当然あたしの姿で――……
「姉上は可愛いのではなくて、綺麗なのです!」
「ルシル! それはシスコン発言かね!?」
「ちょっと黙ってて下さい、父上!!」
あら? ルシルったら、自分で呼んできた父上をバッサリ切るなんて……。
「アリーシア、そこは……」
「父上。マジで黙ってて下さい」
「……はい」
ドスの利いた声を出したルシルは物言いたげにあたしを見て、そして。
「ハッキリ言いますよ姉上。原因は間違いなく……!」
「ラララ~♪ ララララ~♪」
「って、話を聞けよっ!!! バカ姉貴!!!」
――――こうして、あたしこと、アリーシア=マーグスの困った話は、あちこち走りまわったルシルがうまく片付けてくれたのであった。
◆◇◆◇◆◇◆
読書の秋。
校庭の絨毯となった色鮮やかな葉達を踏みしめ、あたしはいつもの場所へ向かう。
元々周囲の視線を避ける為選んだ場所は、夏の終わりに転入した学園内で、唯一気に入っている場所。
「……ようやく、一人になれた」
背を預ける事が出来るぐらいの大木の下で。
ポツリ呟き耳にした声色は、とてもうんざりとしたものだった。
実のところあたしは帰国子女というやつである。
お父様が昔『お前はマーグス家の礎となるのだ』などと言いだし、将来大富豪に嫁ぐ予定で(政略結婚)、商業の最先端である他所の国へと長期留学していたのだ。
ただそんな商人魂を見せていたお父様は、ものすごく影響されやすい可愛い人で、『あなた。本当にそのような仕打ちをアリーシアにするのであれば……離こ』と、最後までお母様に言わせる事なく、この話は潰えた。
そう。政略結婚は潰えたのに、留学は潰えなかったという、マーグス家の七不思議の一つにより、あたしは予定通り留学した。
その期間はなんと、十二年。人生の三分の二以上、外国暮らしだったのだ。
そして帰国したのは三か月前。
すでの国王の名すら覚えていない状態で帰国したあたしが、こちらの風習や文化など覚えているはずがない。
『キャー!! アリ様! 今日のお召し物も素敵ですね!』
『乗馬も剣術も嗜まれているのに、この美しい肌!』
『その切れ長の瞳に見つめられたら、私心臓が止まってしまいそう!』
フリフリのドレスに長い髪の女性達。
それが我が国での標準装備だなんて、誰も教えてくれなかったよコンチクショウ。
「――おや? アリじゃないか」
不意に声をかけられ、視線を向ける。
透ける様な金の髪に、南国の海辺のような碧い瞳。
物語でいう王子様のような美しい容姿を持つ男が、こちらへ歩いてくる。
――ああ。面倒な奴が来てしまったな。
そう思い、元々無愛想な顔へ更に無表情を貼りつける。すると、「その様子じゃあ、また美しい蝶達から逃げてきたのか?」と、続けられ、あたしは盛大な溜息をつく。
「俺は人から逃げてきたんだよ、クリストファー」
「相変わらずモテモテだな、アリスン」
よいしょっと、なんて、爺むさい掛け声を上げつつ、クリスはあたしの隣に座る。
「邪魔しないでくれよ。俺は本が読みたいんだ」
「邪魔するつもりはないさ。――お、今回は戦記か」
アリは雑食だなーと、クリスは笑う。
「雑食でも肉食でもいいから、邪魔をするなよ」
「肉食か……アリは肉食系ではないな」
「? 俺は肉も食うが?」
「ははは! お前と話すと退屈しないな!」
肉を食べると言っただけで笑うなんて、クリスの奴、今は箸が転げても……状態なのだろう。
あたしはそんな友人を他所に、ツッと書物に指を入れ、読みかけのページを開く。
物語は転換点を迎えており、面白くなるところなのだ。
「なあ、アリ」
「…………」
「なあ、ってば」
「…………」
「あ、チョコムースケーキ!」
「何!」と、顔を上げた瞬間、クリスが腹を抱えて大笑いした。
「くっははははは!! お前って、ほんとに飽きない!!」
「クリス!! 邪魔しないと言っていたのはお前だろう!?」
「こんな面白い奴がいるのに、話しかけないわけないだろう?」
笑い転げるクリスに、「お前はおしゃべり過ぎるんだよ!!」と、怒鳴れば、「おっ? そんな事俺に言っていいのか?」と、目に涙を浮かべつつ(笑いすぎだ)そんな事を言ってくる。
「何処に問題が?」
「お前が甘党だってバラしてもいいのか?」
「……別に、隠している訳じゃ」
「じゃあ、美しい蝶達にでも教えてみようかな?」
なんだって!?
あのフリフリのひらひらの女性たちにそんな事を言ったら……
「毎日手作り菓子(屋敷の料理長の)が、わんさか貰えるだろうな」
「うっ…………」
「そして、『アリ様は私のお菓子を召し上がるのよ!』『いいえ! 私のを!!』なんて、毎日繰り広げられるんだろうなぁ」
「それは、困る」
「だろ?」
だから、やっぱり秘密にしておいた方が……と、続けるクリスにあたしは詰め寄った。すると、ニヤニヤ笑っていたクリスの瞳が揺れる。
珍しく動揺した奴から会話の主導権を奪ったあたしは、顔を近づけ問うた。
「なあ、クリス。良い案はないか?」
「……は?」
揺れていた瞳が、何故か疑いの眼差しに変わる。
その変化の意味は分からないが、クリスはじっとあたしを見つめ、続きの言葉を待っている様だ。
意外と鈍いんだなクリスは。
話の脈絡から、もう答えは一つしかないのに。
「良い案……わけの分からん駆け合いはいらないから、料理長のお菓子だけを貰う方法だ」
「彼女達にとって、一番重要なトコをバッサリと……」
脱力したクリスがあまりにもがっかりした様子だったので、あたしはポンとその肩に手を置いて。
「クリス。父上が言っていた。バッサリよりサックリの方が」
「俺はお前の頭ン中覗いてやりたいよ……」
ある秋の日の午後。
あたしは新たな悩みを抱えつつ、脱力したクリスを放置し、本を読んだ。
お読みいただきましてありがとうございます!(*^_^*)
糖分は徐々にUP予定です