▼バグを直す前にやる事があるようです。【Lv3】
カポーン
どこかから桶を鳴らす音が聞こえる。
「にしても、何だったんだろうな、アスカがミワを引き連れて何処かへ行った理由。」
「え、嫉妬?」
「してねえよ。」
呆れたようにルフさんを睨んだガルさんが自分の肩に湯を掛ける。
…傷跡だらけの肩に。
そうなのだ。結構ビックリしたんだけど、なぜかガルさんの体だけ無数の傷跡が
切り刻まれていて、なんか様々なドラマを感じちゃう雰囲気なのだ。
………やっぱり元ヤンなのかな。
「おいカケル、お前今けっこう失礼な事考えてただろ。」
「ぎくっ…な、何の事でしょうか?別にガルさんの体にだけ何で傷跡があるのかな~とか
考えてませんよ?皆無ですよ?!」
「…………。」
温泉よりもだだっ広い湯船の縁に腰掛けたリリさんが「此処でついた傷でしょ?」と首を傾げた。
「で…なんで誰も僕の方を見ないの。」
「え?なんて?」
「ルフ、あとでね。」
「アーッ」
…まあリリさんは見かけ普通に美少女だし、ここ男子風呂ですよ?
見れる訳ないじゃないですか!
「とか言いつつチラ見してくるカケルもあとでね。」
「アーッ」
「お前らうっせーぞ。」
むぐっ
「……そうだな。カケル、この傷跡見てどう思った?」
「ドラマティックだと思いました。」
「つまり、そういうことだ。」
「いやどういう事ですか。」
…もしかして
「ミワさんと対戦した時に…?」
「それは無い。」
0,1秒でアッサリ切られた。
「そもそもアイツが俺と対戦する事なんて数えられる位しか無いし、ほぼ俺が勝ってた。」
「………そんなに強いんですか、ガルさんて」
「いや、当時のミワが未熟だったんだよ。大変だったんだぞ?『絶対強くなる』っていう
強迫観念に憑かれてるっていうか、朝まで帰ってこない事なんか当たり前だった。
家に閉じこめてもスキル上げするし…」
「_____ま、たとえ今ミワと戦っても、あいつは勝手に自爆するだろうしな。」
『だから言っただろ?! レベルを上げるにはちゃんと規則正しい生活しないと、疲労で
いつお前が倒れるか____!』
『____確かにそうかもしれない。でも、私には時間がないの。』
『………ごめんね。』
「____ガルさん?」
恐る恐る声を掛けると彼はハッとして、ちょっとだけ苦笑いした。
「悪い悪い。少しのぼせたのかもな。俺、そろそろ出るわ。」
湯船から立ち上がり脱衣所へ行く背中を見送って、「どうしたんでしょうね?」と
首を傾げる。
「さあね。本人は気付いてないかもしれないけど、ガルって結構アスカの事警戒してるし、
ミワの事もあって疲れたんじゃないかな。」
「警戒?」
そう僕が問うと、あべこべに「カケルはアスカの事、どう思った?」とリリさんに聞かれた。
「ん~…でもなんか少し、恐かったです。言葉を通じているのに、未知の生物と
話している気分で……」
「正解。」
は?
「アイツはそういう奴なんだよ。自分の事は余り語らないのに他人の事は深くえぐっていって、
こう…手の平で弄ぶ、みたいな?」
その態勢が気に入らないのか眉をしかめながら話してくれた。恐い。
「僕もアイツだけはいまいち好きになれないんだよね~」
「珍しいですね。」
「だってなんかキャラ被るし。」
「あ~…」
でも二人ともその言葉に嫌味なんてなくって、愛されている上でのそういう体
なんだな、と思った。
「でもそんなアスカを更に弄んじゃう人物がいるんだな、これが。」
「えっ」
その人物を、人は【魔王】と呼ぶ。
「ま、言ってみればアスカの兄だね。」
「…そういえばミワさんを気に入っているっていう、あの」
「そうそう。ガルっていう保護者もいるし、ミワだけには迂闊に手出せないんだよね。」
「リリさんが手を出ッ…?! 」
ちょっと想像したくないので必死に振り払った。
「でも、あの過保護児も素直じゃないよね~。毎回僕らの想像の斜め上を行くしね。」
ルフさんがケラケラ笑った時、
「だ~れが過保護児だって?」
今 絶賛話題中の人の声が響き、見事に僕を含めた三人が瞬時に湯に入った。
(え?! まって此処は風呂場だよ?! まさかミワさんあばばばばばばばばばばばば)
息が続かなかったのでとりあえず水面から顔を出し、ちょぴっとだけ期待を込めて
声がした方を振り向く。
「あ、なんだ、ただの仕切り壁か…」
残ねn…いやいや、良かった、良かったよ?
別にアッチ系の展開の方が良かったな~なんて、思ってないからね?!
「仕切り壁じゃなくて何だと思ってたんですかぁ~?もしかして、アッチ系の展開の
方が良かったな~とか思ってたりし 」
「そんなこと無いですッッッ!!」
叫んだ瞬間に向こうから大爆笑が聞こえる。
「エコ…そんなに笑ったら……失礼…」
「そうだよ~、たとえリリを見れないとか言いつつ見ちゃうカケル君でも、プライドは
あるんだからね?」
「やめてください…てかそんな時から聞こえていたんですか……?」
「その時に丁度入浴した、みたいな感じかな?やっぱりカケル君もオトコノコなんだね♪」
「あああああああああああ!」
頭を抱えて蹲り、ピタリと動きを止めた。
「じゃあミワさん、ちょっと聞きたい事があるんですけど…」
「ん、何?あんまり長く居るとのぼせちゃうから手短に宜しくね。」
ぱちゃっ…と肩に湯を駆ける音が聞こえ、少し間を取って話し出した。
「さっき、ナチュラルにはぐらかされた気がするんですけど…何でガルさん、
あんなに傷負ってるんですか?」
普通、戦闘している時に攻撃されて危険信号として傷がつく事があるが、跡には
残らない。
逆に現実で負った傷跡がこちらにも映ると言えば、それも否。
僕も小さい頃に、公園で転んだ時負った膝の傷跡も、確認したらすっかり消えていたのだ。
「____そうだね。その事も少し話して置かなきゃいけないかな。」
響いてよく聞こえなかったけど、ミワさんは確かにそう言った気がした。
でも、
「すみません僕ちょっとのぼせてきたんで風呂出た後で良いですか…?」
「え…あ、うん……?」
と言うことで、ミワさんの部屋に集まる事になりました。
ちなみにリリはずっと潜ってました。ぶくぶく。




