▼そもそもの始まりは、バグでした。【Lv4】
「んー、んー!」
「無理しなくたって、言ったら移動するのに…」
バスタオルを干そうと必死になっているカルカ…を抱えている私はちょいと横にずれる。
「ミワの手なんて借りたくないモーン!」
「今思いっきり借りてるけどね。そろそろ下ろすよ。」
よいしょ、と小さい体を下ろすと「ワーッ」と走っていってしまった。
元気がいいな、あの子は。
「有難うねミワ。悪いけど、買い物行って来るから店番は宜しく頼んだよ。」
「あ、はい。」
キルカさんに一礼すると洗濯籠をしまい、カウンターに移動する。
家と店を区切る一線を越えると、顔は笑顔で塗り潰された。
「あ、ミワちゃんじゃーん!これどういうアイテムなの?」
「いらっしゃいませ!ええと、【神芝居】ですか?これは自動的に紙面に文字が浮かんで、
主に通信用なんかに使われますね____ 」
店番は好きだ。苦もなく笑顔でいられる。
「普段も笑っていてほしいんだけどねぇ」とキルカさんは愚痴をこぼすけれど、何を隠そう
『店と家は別物』と言ったのは本人なのだからしょうがない。
「はー、疲れた…」
混雑した店内がようやく誰もいなくなると、カウンターにもたれて溜息をつく。
「あ、そういえば仕入れた商品あったんだっけ。用途とか確認して並べといた方が良いよね。
よいしょっと。」
[▼てってれれ~♪
【ミワ】の力量スキルが11upした!]
「あらら。」
こういう作業をしてから、いつも以上にスキルが上がっていった。
意外と近道な特訓法なのかもしれない。
チリンッ
「あ、いらっしゃいまs……」
振り返って目を見開く。
「よお♪」
「ぎゃぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」
視界いっぱいの笑顔に思わず飛び退き、壁にへばり付いた。
「ななななななっ!何で貴方がいるんですか幻覚なんですか不良なんですか!」
「俺は魔王で不良じゃねーよ?」
ポケットに手を突っ込み、ガムをモグモグさせながら呆れたように呟く。
「えっと、魔王さんですよね…?」
「さっき言っただろーが。なんで不審者を見るような目なんだ?」
「『不審者を』じゃなくて『幽霊を』です。」
「死んでねーし、ゲームなんだから探せば幽霊なんてゴロゴロいるだろ。」
ああ、【オバケ族】の事か…と安堵の溜息を付く。
「で。また何か注意報が出たんですか?」
「ぶっぶー。今日は違いまぁす。」
子供っぽく頬を膨らましながら効果音を鳴らす。なんか第一印象と離れてるぞ…。
「じゃあ何なんですか?ちゃっちゃと言って、ちゃっちゃと帰ってください。」
「んー、まあお前の返事次第では一分も掛からず出ていくぜ?」
………返事?
「お前、プレイヤーにならねぇ?」
ニヤリと笑って言う彼に、私はニッコリ微笑んで「イヤです。」と言い切った。
「………え?」
「え?」
「いやお前、今Noって言った?俺 魔王だぞ?ついでに言うとコレほぼ命令だからな?」
「私まだ名前も知らない貴方を【魔王】だなんて信じていませんし。」
「本当に疑り深いなお前…。」
まあソコを見込んだんだけど、と苦笑する。
「【暁】だよ、正真正銘の魔王だ。これでもまだ信じないか?」
当たり前だ。そんなに私のシールドは甘くない。
「しょーがねぇなあ、じゃ特別だぞ。」
腰らへんに手を当ててから【暁】さんは手招きした。なんだろう、『特別』って。
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「そんじゃ、この辺で良いか。」
【小さな大草原】の丁度中心らへんに来ると、暁さんは意味深にそう言った。
「…あの、何なんですかいきなり店の外に連れ出して。」
「お前がまだ信じられないって言ってるからだろ、【ミワ】。_____脅えんなよ?」
ゆっくりと、剣を引き抜く。
その声も出せないような威圧に思わず足が震えた。鳥肌も立つ。光る刃から目が離せない。
背中をゾクゾクしたものが這い上り、口の中が一気にカラカラに乾いた。
【魔王】の体を炎のような妖気が飲み込み、空に立ち上っていく。
その姿が言葉では言い表せないくらいに美しくて、それと同時に哀しさが込み上げてきて、
やっと剣を鞘に収めた時にはヘナヘナと座り込んでしまった。
「ってな感じだ。どうだ?これでやっと認めたか?」
「……は。」
「何だ、声も出せねーのか?まあ、レベルの低い奴らは皆そうなるか…おい、大丈夫だぞ、
ちっともお前を斬ろうとは思ってないからな~」
しゃがみ込んで必死に宥める暁さんに、私はやっと声を絞り出した。
「_____し、」
「ん?」
「死にたく、なった。……見ていて、凄く泣きたくなって、走馬燈みたいに色々思い出して…
凄く、恐くなった____。」
顔を涙でグシャグシャに汚した。
閉まっていた思い出が洪水みたいに溢れかえって、私は子供みたいに懸命に喚き続けた。
_____そして、打ち明けたんだ。
悲しそうな顔をした魔王に、私の過去の事を。
この後 泣いているミワに必死に「べろべろばあ」をする魔王。
……………カオスだ。




