▼旅の途中で色んな物がバグっていました。【Lv22】
初めてのミワちゃん視点です。
「___ぐぅっ、ん…」
唸りながらゆっくりと目を開ける。
覚えていないけれど、何か嫌な夢を見た気がするのはいつもの事。
小人の家の中、自分の部屋に置いてある装備品や 壁に掛けてある武器などを眺め回し、
まだ寝たいと思うも何とか布団から出る。
「おう、ミワ。よく眠れたか?」
「ん~…また変な夢見た。お腹すいちゃったよもう…」
ガルが用意してくれたらしい朝食の目の前に座り、「いただきます」と手を合わせる。
朝は軽めにレーズンパンやクロワッサンだった。見た目からは手作りとは思い難いクオリティだ。
「あの二人、一番に起きて意気揚々とダンジョンに向かっていったよ。案の定 カケルは眠そう
だったけどな。」
コン、と自分用らしい紅茶を目の前に置いてガルが言った。
…なんで目の前に座るんだ。
「あの二人の成長スピードは早いからね~。あと何週間かで上に行けるんじゃない?」
「意見を否定するようで悪いんだが、お前の成長速度には劣ると思うぞ。【不眠の粉薬】を
持参して夜中ずっと平野駆け回り続けていた時はさすがに俺もヤバイと思った。」
「ああ、あの時ね。「お前は薬物乱用のしすぎだ」って、確かに本体には負担がかかるかも
しれないけど。でもそんな悪い薬じゃないでしょアレは」
ホットミルクを飲みながら ふっと視線を遠くにやる。
過去の話は大嫌いだけど、叱られたのにも関わらず あの時の思い出は嫌な感じはしない。
「んー、私も久しぶりにダンジョンに行こっかな。」
「珍しいな~いつもは「モンスターが可哀想だから倒すのは最低限って決めてるの!」とか
言ってたのに。」
「ガルの裏声 気持ち悪っ…」
「おい。」
グイッと紅茶を飲み干し、キッチンへ片づけてから何やらカチャカチャと準備する音を聞き、
「まさか」と思い聞いてみる。
「ガル、何しようとしてるの?」
「決まってんだろ、俺も行くんだよ。お前一人じゃ心配だからな。」
「いや別に一人でッ…」
言いかけて「はあ…」と溜息を付く。ガルは決めたら実行派。説得は効かない。
「お前もソレ、早く着替えてこい。」
自分が来ている深緑色のシルクパジャマを見下ろし「ああ…」と苦笑いする。
さて、今日も狩りますか。
「ミワさーん!」
「お、カケル君。もうダンジョン攻略したの?」
「はい!今度は北の方へ行ってみるつもりです!土魔法も最近使えるようになってきて…」
手にボスアイテムを持ち、愛犬のように駆け寄ってくる少年に私は微笑みを向ける。
「凄いじゃん!思ったより二人の成長スピードが早くてビックリだよ~。」
「ふん、当たり前だ。俺に任せとけばこんな奴ら…」
「とか言いながらさっき悲鳴上げてルフさんとエコさんに笑われてたよね。」
「なっ?! あの、ほら…アレはだな…っ」
ゴニョゴニョと何か言いながら手を いじくり回す。
【サタニア】というモンスターは少し見下す言い方が特徴だけれど、見た目が完全に小学生だと
逆に微笑ましい。
「…ミワお前、今何を考えた……」
「ん~?別に?」
ニッコリと笑い誤魔化すと怪訝そうな顔をするも何とか見逃してくれた。
「お二人とも~!そろそろ行きますよ!」
「早くしないと、置いて行っちゃうよ~?」
「「は~い!」」
では、とカケル君は軽く礼して、サタニアは手を振って、講師であるルフとエコの元へ
駆け寄っていく。
「じゃ、俺らも行くか。」
「ん。…あ レイとリリは?」
「二人ともグースカ寝てるよ。さっさと出発すんぞ。」
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「う~ん、やっぱ あんまり張り合い無いな~」
目の前で燃えていくモンスターを眺めながらボソッと口にする。
(ここも もう駄目か~、昔はゼエゼエ言いながら進んで行ったのに。)
そう思うと自分の成長を感じるけど、寂しくもあった。
「まあ食料調達なんだから別に良いだろ。ほら、また来たぞ。」
「はいはい、飽きもせずご苦労さん、っと」
ザシュッ
音を立てて斬りつけると、ポウ…と淡く光りながら消えていった。
この子達は 元々やられるのが使命なんだと考えると切なくなり、手を合わせる。
せっせとアイテムを袋に詰めているガルが「変な奴」と呟くのが聞こえた。
「いいじゃん別に、可哀想なんだもん。」
「お前ホント感情移入し過ぎてるぞ。あいつらはプログラムなんだから。」
「知ってまーす。それを前提の感情移入でーす。」
「ぜってー分かってないだろ、お前。」
そうやって話していたら、ついにラスボスがやってきた。何回見ても大きい。
「やっぱり ボスってデカければ良いよね感ハンパないよな。」
「まあ小さくても侮られるし丁度良いんじゃない?じゃあガルいってよ。」
「何が「じゃあ」なのか納得いかねぇ…」
だがしかし その手には獣の爪を模した武器【神獣の爪】が装備されている。
(やる気、満々じゃん。)
私は素直にそうツッコんだ。
「いや~大漁大漁!」
「くっそ、あいつバグりやがってた…」
攻撃したのにダメージ数値が初心者並に1とか3くらいしか効かなかったため、
途中からは私も応戦してなんとか倒した。
引き替えに食料はたっぷり手に入ったので結果オーライだ。
「…なあ、ミワ。」
「ん~?」
「大丈夫なのか?最近 夢にうなされてるって…」
「ああ…うん。平気だよ、もう慣れたし。それに朝になったら忘れちゃってるから。」
「そういうんじゃ無いんだよ、そういうんじゃ…」
はー、とガルの溜息の後、しばらく気まずい沈黙が続いた。
「ガル…その、いつもごめん。迷惑かけて……」
「ごめんじゃなくて「有難う」だろ。あと迷惑だなんて思ってない。」
「う、でも…」
ガルのぶっきらぼうな言い方は本気で怒っている証拠だ。これはまずい。
どうにかして機嫌を直してもらわな…
ダンッ
「へ?」
気が付くとガルの手が顔のすぐ横にあった。
え~っと、何だっけコレ…ああそうだ、世に言う[壁ドン]ってヤツだ。
「ふざけんな!! 独りで抱え込むなって言ってんだろ?! 何で…何でそんな哀しそうな顔
するんだよ!!」
「ガ、ガル落ち着いて…」
「分かってるよ!俺じゃ駄目なんだって事ぐらい。でも、でも…っ!!」
ぐいっと鎖骨に頭を押しつけ、「俺だって…」と辛そうに呟く彼を見て、黙り込む。
やっぱり私は、良かれ悪かれ 彼の重荷だったのだろうか。
何か言おうとして、言葉を飲み込む。
『ごめん』じゃない。でも『有難う』でも無い。
私は…
「いや~やっぱりミワちゃんは謎だねぇ!」…みたいな感じで仕上げたつもりです。
結構シリアスで終わりましたが次の話までには持ち込まないですよ!
ちゃんとコメディも入れます。安心して下さい!




