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管理人の呟(つぶや)き

作者: 森凜

実に地味な仕事である。

一人勤務体制なので、会話が非常に少なく孤独感に包まれる。

人恋しい人間には耐えられないだろうよ。

居住者とのふれあいがあるじゃないかと言われても、挨拶程度だし。

言葉を忘れてしまうのではないかと危機感を覚えるかもしれない。

また周りはお客様ばかりで気疲れする。

慰めあう同僚も居ない、刺激もない。

定年前の人間には薦められない仕事だな。

何故この仕事に就いたかとかれたら、楽そうに見えたからで。

実際、楽ではなかったがね。

私がこのマンションに管理人として来て三ヶ月目になる。

就任以来、平和な日々を過ごしてきたが、ここに来てカラスのゴミ荒らしに頭を悩ませている。

子育ての時期らしいが、奴らの必死なのも分かる。

しかし、職務上放置するわけにはいかない。

散乱するゴミで辺りは異臭が漂い衛生上も良くない。

景観上も問題だ。

しかしカラスは頭も良いし執念深い。

下手に刺激すると後が怖い。

攻撃を仕掛けた者が追いかけ回されたあげく頭を(くちばし)で突っつかれ重傷を負ったという話を聞いたことがある。

ヒッチコックの鳥という映画が脳裏に浮かぶ。

いつか私の頭上をかすめるように飛んで行く奴がいた。

まるで威嚇(いかく)だ。

なかなか侮れない相手だ。

電柱に止まってこちらを見下ろしている様はなんとも不気味だ。

それが数羽でかたまって低い鳴き声をあげている

よく観察するとそのガアガアと鳴く不気味な声は、それぞれに異なった音色があるのが分かった。

まさに言語だ。

きっとこの私のことを目障りな奴だからなんとかしようぜって会議しているような感じだ。

ゴミの回収業者が来るまでの間何度も見回る。

その度ごとに奴らは大きな羽をバサバサやって飛び上がる。

絶対に怖がる素振りを見せてはいけない。

毅然とした態度でゆっくりと彼らを遣り過ごす。

彼らと私にはいつの間にか間合いというものができていた。

ある距離以上になると彼らは離れる。

ゴミ出しの日が憂鬱になっていた。


屋上に登っている最中にカラスの集団攻撃で転落する妄想を描いたこともあった。

しかしある日その妄想が現実のものになった。

屋上に登るために垂直梯子を登っているときだった。

屋上のアンテナに羽休めか獲物を物色している一羽の大カラスと目が合った。

なんとも狡猾で戦慄を覚える目だ。

嫌な予感がした次の瞬間、そいつは突然大鷲のような翼をバッサバッサと威嚇するように広げるとこちらに突進して来たのである。

私は自分の居る状況を忘れ咄嗟に両手で払い退けた。

私は恐怖のあまり冷静さを失っていた。

支えが無くなった私の体は空を舞い落下した。

そして踊り場が被さってきた。

酷い激痛と共に薄れる意識。


私は屋上からゴミ置き場を見下ろしている。

男がゴミに網を掛けながら忌々しげにこちらを見上げている。


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