弱者も戦っているわけで
草原の中を真っ直ぐな一本道が伸びている。
「少し僕の話を聞いてくれないか?」
どこかで声がした。
僕は足を止めて辺りを見回した。
誰もいない。
「僕の話を聞いてくれないか?」
また声がした。近くにいるようだが姿は見えない。
「下だよ、下。」
見たことのない虫が僕を見上げてむっつりしている。
「君ねえ、人のことを踏み殺す気かい?」
僕は何も言えず突っ立っていた。
「おまけに無視ですか?虫だけに?ってやかましいわ!」
僕は踏み殺すことにした。
「まって、まって、うそうそ、今のうそ!」
「まったく、君らでかいのは気に入らないことがあれば殺せばいいと思ってるから性質が悪いよ!僕ら弱者のことなんか何とも思ってないんだろ?損得勘定で命まで平気で奪うんだからたまったもんじゃないよ!」
僕はハッとした。そうか、気がつかなかった、僕らは時には強者になりそして弱者にもなるのに、強者になると弱者の気持ちなんて忘れて自分勝手に振舞っていたなんて…。
そんな僕の心情に気づいたのか虫はこんなことを言った
「立場によって意見や振る舞いが変わるのは仕方のないことです。でも、力に任せてただそれを押し通すのならきっと世界は歪んでしまいます。それはきっと分かっているはずなのに、過ちを犯していきます。」
そんな虫の話を聞きながら僕は気がついたんだ。
「それぞれの立場を理解して協力し合っていくのがただ唯一の未来への…」
僕はこの一本道を再び歩み始めた。
弱者は弱者であり続ければ死のリスクは減るんじゃないかな?
この果てしなく長い一本道がまたさらに長くなったように思えた。