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合流

 バルドルにあるギルド案内所は、そのまま五郎丸のギルドと銀狼公国の作戦会議場となった。


 バルドルにやってきた五郎丸はいつもの白いローブに、鈍く光る蝶の羽ような形状の二枚の刃に「アゲハ」と呼ばれる装飾が施された斧を背負い、その両脇に深い海の色の碧いローブを着て槍を背負った女性冒険者と、前髪を下ろして顎鬚を蓄えている背の低い二刀流の剣術遣いの男性冒険者を従えていた。

 女性は五郎丸のギルドの最古参にあたる冒険者でそれ故、敬意を払われ本名ではなくエンプレス(女帝)と呼ばれている。赤みを帯びた長い髪に整えられた柳眉。深窓の令嬢と言っても誰も疑わない艶冶な器量の持ち主だが、端正な顔立ちからは想像もできない程の毒舌を持つことで知られている。

 の国の月の神「月詠」の名を冠する槍を背負いパーティーの為に最前線で盾になることも厭わない自己犠牲心の強い冒険者だ。ただ、ここ数ヶ月体調を崩し、床に伏せる日が続いていた。本来なら、この依頼に最初から参加する筈だったが、五郎丸から打診があった日も体調が優れず、パーティーから外された。その後、五郎丸がバルドル村に向かうことを知り、強引に説得して一日遅れの合流になった。

「まあ、体調は良くないようだが、本人がどうしてもと言うのでな。俺が責任を持って面倒看るから、宜しく頼むよ」

 五郎丸が全員に経緯を説明した。

「ふん。お主の世話になるつもりはないわ。安心して斧でも磨いておれ」

 一旦パーティーから外された事をエンプレスは相当根に持っているようだ。


 もう一人の冒険者はリキュール。戦闘中に於いても酒を煽る酒豪だ。古今東西、有名な酒を飲み歩きながら冒険を重ね、この国に辿り着いた。エルドラゴの酒蔵が今のお気に入りで、この国で冒険者を続けている。酒の為に戦っているのか、戦いの為に酒があるのかもう本人でも判らなくなっているらしい。泣き上戸で、酒場で他人の話を聞きながら号泣している姿が度々目撃されている、情に厚い人物でもある。

 元は、とある国の仕官学校を出たエリート軍人らしいが、詳しい事はアンジェリナは聞かされていない。片手で扱うショートソードを左右の手に持ち、変幻自在の剣術で相手を翻弄する。右手に持つ攻撃主眼の剣をカーリー、左手に持つ防御主眼の剣をパ-ルヴァティと言う。共に遥か東国の女神の化身の名を持つ剣だ。

 エンプレスは二十八歳。リキュールは二十三歳。共に五郎丸のギルドには欠かせない存在の冒険者である。

「今回はバルドルの果実酒とワインを飲み干す為に参加した。宜しく頼む」

 リキュールはキースが聞いたら卒倒しそうな挨拶をして場を和ませた。

「酒に呑まれて只の酔払いにならぬよう気を付けるのじゃぞ」

「そっちこそ、老体を労って病室で寝てろ。戦闘中は気に掛けてやれんからな」

 エンプレスの皮肉をリキュールが切り返す。

「お主の回復魔法は酒臭くて敵わぬのでな。心配は無用じゃ」

 どうやらこの舌戦はエンプレスの勝利のようだ。ただ、このような憎まれ口を言い合えるのも、お互いを信頼し合っているから出来ると言う事を、アンジェリナは五郎丸のギルドで学んでいた。


「漫才が済んだところで、アンジェリナ殿。悪いが急ぎブリギッドの町へ赴いてくれないか。船の調査は我々で行う。ブリギッドである人物に会って来て欲しいのだ」

 漫才と片付けられたエンプレスとリキュールの二人が抗議の声を上げようとするのを片手で制して、五郎丸は続ける。

「ブリギッドのダウンタウン、八十二番地に俺の知り合いが住んでいる。その人物は表向きは気の良い素材屋の店主だが、裏の顔は何でも扱う闇のブローカーだ。合法、違法、不法、無法を問わず、あらゆる武器、素材が手に入る。そいつを訪ね、俺が頼んでおいた品物を取りに行って欲しいのだ。それとアンジェリナ殿がここで体験した事を店主に伝えてくれ。何か助言をくれるかも知れん」

「御意のままに」

 断る理由が無かったので、アンジェリナは五郎丸からの提案を承諾した。ここ数日で起こった事を頭の中で整理する為にも、少し時間が欲しい所だった。船の調査は知識が豊富な五郎丸が居れば問題ない筈である。

「あのぉ。わたしも師匠と一緒に行っても良いですか」

 アンジェリナの後ろでやり取りを聞いていたクローバーが申し訳無さそうに訊ねる。クローバーはギルドの猛者たちと、まだあまり面識がない。アンジェリナと離れるのは心細いようだ。

「そうだな。クローバーはアンジェリナ殿と同行し、馬術を習得してきて欲しい。現在のエルドラゴではあまり必要とされていないが、近い将来必ず役に立つはずだ。お手数を掛けてすまないが、アンジェリナ殿、宜しく頼む」

 ギルドは依頼に応じて迅速に行動する必要がある。声まで転送できるようになった現在、冒険者には更なる行動速度が要求されるであろう。それを見越しての五郎丸の選択だった。

「畏まりました~。師匠、宜しくお願いします~」

 クローバーは憧れの冒険者から馬術を教われると知り、嬉しそうだ。


 これで、バルドルに居るギルドメンバー六人は、二人と四人に分かれる事になった。この人選が吉と出るか凶と出るか、編成をした五郎丸でさえ、今は判って居なかった。

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