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真実

 一つ目の広間を過ぎてから、どれくらいの時間が経っただろう。アンジェリナ、五郎丸、クローバーの三人は二つ目の広間の前に辿り着いた。

「この先に私が探していた答えがあるのか」

 アンジェリナの顔には喜びではなく、不安が滲んでいる。扉に手を掛けようとするが、決心がつかずアンジェリナは躊躇した。


 すると、扉がひとりでに開き奥に祭壇がある広間が姿を現した。扉から十五メートル程先にある祭壇に向かう階段の中程に、一人の男が腰を下ろしている。濃い血の色ローブを着た魔術士だ。アンジェリナたちの姿を見ると、術士は立ち上がり、大袈裟に手を広げて歓迎の意を表した。

「これはこれは、誉れ高き冒険者と言う名の命の簒奪者の皆さん。招かれもしないのに、我らが聖域にようこそ。おや、お仲間が減ったようですが、道中なにかありましたかな」

 感情を全く伴わない冷淡な声が空間に反響する。

「最後の一人になってよく言うぜ。観念したらどうだ」

 五郎丸は持っていた斧を構えると、アンジェリナとクローバーがそれに倣い武器を構える。広場には魔物の気配はない。三人で強襲すれば、決着はすぐに着くと考えられた。

「穏やかではありませんね。あなたがた冒険者はすぐに暴力で解決しようとする。何とも野蛮な事です。それでは野にいる獣と変わりませんね」

 嘲笑混じりに術士は言い放った。

「人が殺しあうように仕向けているお前らより、余程マシだと思うがな。宮廷魔術士に成りすまして、公国の王族を洗脳し、このエルドラゴにもわざわいを齎そうとした貴様らの目論見もこれで潰えることになる。度重なる自作自演、ご苦労だったな」

 五郎丸は慎重に言葉を選びながら、相手の出方を窺う。

「ほう、あちこち嗅ぎ回って、色々知ってしまったようですね。知らない方が幸せと言う物も、この世の中には幾つもあるのですよ」

 術士の声には芝居染みた哀れみが籠っている。

「貴様のような奴が、この世を語るなよ。虫唾が走る」

 五郎丸が唇を噛み締めて、いつに無い激しい言葉でやり返す。


「まあ、自身の発言にいちいちあなたの許可を得ようとも思いません。私はそこのカラドボルグを背負う女性に用があるのです」

 術士は五郎丸には興味なさそうにかぶりを振ると、アンジェリナに向き直った。

「さて、お嬢さん。今はアンジェリナと名乗っているそうですね。あなたは自身の血の因縁についてご存知なのかな。いや、知らないからこそこうやって、のこのこと来てくれた訳ですが」

 術士は口角を吊り上げ優越感に満ちた声でアンジェリナに問いかける。

「血の因縁だと」

 突然の言葉に、アンジェリナは聞き返してしまう。

「やはり、ご存知ないようだ。では教えて差し上げましょう。あなたの呪われし生まれの真実を」

 術士は得意気に話し始めた。

「あなたの一族は、この世界に散らばるオベリスクストーン解析の先駆けとなった研究者の一族だった。現在あるオベリスクストーン研究の礎は何代も前のあなたの先祖が成し遂げたものなのです。情報記憶媒体としてのオベリスクストーンの機能を研究していくうちに、一族はその中に何者かが封印された痕跡があることに気が付いた。さらに代を重ねた研究の末、それが太古に封印された神であることをあなたの祖先は突き止めたのです。誘惑に勝てなかったあなたの祖先はその神の復活を試みた。それが人間が住まう前にこの世界を支配していた闇と混沌を司る神だと判ったのは封印を解いた後だった。神の降臨により、国は混乱し、疫病、戦乱、天災が続き多くの血が大地に染み込んだ。慌てたあなたの祖先は、再びその神を封印する術を研究し、実行した。その後、戦乱を治めた英雄として何喰わぬ顔で王の座に着いた。自ら招いた厄を、一族の責任だと公言しないまま、人民を騙し王の名を僭称したのです。その後、人間同士の愚かな殺し合いの末、国は合併、分裂を繰り返し数百年後、その国は大陸の外れの帝国の領土となった。我らは貴様の先祖に封印された神の信徒。貴様の持つその剣が封印の鍵だ。カラドボルグを奪い、持ち主の血を捧げれば神は復活なされる。我らは二十年前、神を復活を成すため公国の王宮魔術士となり、カラドボルグの破壊を試みた。カラドボルグは二本存在し、残りの一本の所持者であった貴様の双子の兄は帝国内を逃げ回っていたが、先日亡命途中に海上で始末した。だがもう一本の所持者は空間を超え、世界の何処かに転送されてしまい、行方はようとして知れなかった。それが貴様だ。後は貴様のカラドボルグを奪い血を捧げれば、祈願が達成する」

 術士の声は段々と冷静さを失い激情が籠り、大きなものになっていった。


「何故今、私にそんな話をしたのだ」

 語られる言葉と共に流れ込んでくる記憶の断片にアンジェリナは卒倒しそうな眩暈に耐え、術士に向かって叫んだ。

「くくく。知りたかったのだろう。己の出生の秘密を。だから教えてやったまでだ。貴様を見つけるのに二十年を費やしたのだからな。雪國の姫君に真実を告げてやる事が何よりの衝撃だと思ったのでな。これでやっと、あの雪で覆われた何も無い国を離れることができる」

 アンジェリナは剣を構えたまま動く事が出来なかった。主導権を握った術士がさらに続ける。

「幼い頃の貴様の記憶がないのはカラドボルグのせいだ。記憶を封印する事によって、戦乱が起こる事を防ぐように術が施されていたのだ。おそらく空間を超える際に術が発動するように仕組まれていたのだろう。だから貴様はエルドラゴに来るまでの記憶がない。封印された記憶は、単に貴様の記憶だけではなく、カラドボルグに刻まれた記憶なのだ」

 アンジェリナは理解した。自分が見ていた夢はカラドボルグに刻まれていた幼い頃の記憶だったのだ。

「では、二十年前王宮を襲い、私の父を殺めたのも、先日バルドルに流れ着いた軍艦の中で私の兄を殺めたのもお前らだと言うのか」

 アンジェリナの声が震えている。

「あの王はカラドボルグを自分の二人の子供に託し、身代わりになってこの世を去った。命乞いをせん、つまらん最期だったがな」

 術士はまるで何事もなかった様に答えた。

「よくも父と兄を殺し、そして私の仲間を傷付けたな」

 アンジェリナの表情と声が怒りに支配されていくのが判る。

「私が憎いか。ならば倒してみろ。貴様の怒りの対象がここに居るのだぞ」

 術士は大きく両手を広げて、アンジェリナを挑発した。憎ければ殺せと言わんばかりに。

「お望みとあらば、滅してやる」

 アンジェリナはカラドボルグを構えると突進した。怒りに任せ相手に向かうアンジェリナからは普段の冷静さは失われていた。

「いかん。アンジェリナ殿。罠だ、そいつは……」

 五郎丸が叫ぶがアンジェリナは止まろうとしない。


 術士に繰り出した突きが、何の抵抗も受けずに胸を貫いた。その衝撃で術士のフードが外れ、素顔があらわになる。そこには公国の従者エルクワールの顔があった。

「何っ。エルクワール」

 驚いたアンジェリナは思わずカラドボルグの柄から手を放してしまった。同時にエルクワールの顔に邪悪な笑みが溢れる。

「もらったぞ。カラドボルグ」

 傷口と口から致死量の血を吐き出しながらエルクワールは呪詛の念を込めて、アンジェリナを睨みつけた。


 一歩退いたアンジェリナの背中を激痛が走る。

「待っていたぞ。貴様の手からカラドボルグが放れる瞬間を」

 振り向くと、短剣を持ったアグディクティスがアンジェリナに体当たりをし、その短剣は深々とアンジェリナの右の腰に突き刺さっていた。

「呪われし貴様の血も、確かに貰い受けたぞ」

 アグディクティスは冷たく笑うと、閉じられていた両目を見開いた。黄色い獣のようなアグディクティスの眼と視線を合わせたアンジェリナは意識を失い、その場に倒れこんだ。


「遂に時は満ちた。全てを闇に還してやる。われが再びこの世の主となる日が来たのだ」

 アグディクティスは右手でアンジェリナの血が付いた短剣を持ったまま、左手で既に絶命しているエルクワールの身体からカラドボルグを引き抜くと獣のような雄叫びを上げた。それは地の底から響き渡る臭気を含む寒気のするような声で、祭壇のある空間に反響した。アグディクティスの背後に闇が溢れ、広がっていく。


 太古の邪神が目覚めようとしていた。

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