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9th.DIVE 閉鎖

「はぁっ?」


 俺は思わず間抜けな声を上げてしまった。思わず後退り、俺の足が停めたばかりの自転車にぶつかる。

 だが、そんなことは気にならないほどのインパクトを目の前のそれは有していた。


「……ヴァルハラが、運用中止ぃ!?」


 音読してしまうほどでもある。

 俺はゲームセンターの壁に貼りつけられたその告知をもっとよく見てみる。

 システムで何かハプニングがあったらしく、その原因究明と調整のために使えなくなるんだそうだ。期間は未定!

 子細を読み進めるほど俺のなかで納得がなされていく。なんでも、本社に置いてあるサーバーに問題が発生したらしい。ヴァルハラは全国各地、全ての機体がこのサーバーとのネットワークがつながっているので本社側の問題が解決されるまでプレイは出来ないようだ。

 ヴァルハラ筐体と本社サーバーとは独立の回線で接続されている。それをヴァルハラネットワークと呼ぶのだが、それがあることでゲームプログラムのアップデートや顧客リスト、あるいは武器などの性能、画像データ等々の全てを簡単にやりとりすることが出来る。

 たしかにデータ全てをゲームセンター毎に保存するのは大変だし、そのお陰で全国どこへ行ってもヴァルハラでは自分のデータカードが通用する。窓口でのビジュアル調整も、膨大な画像データを保存し得る本社サーバーとのつながりがあればこそだ。

 今日日(きょうび)さまざまな安全装置が開発され停電なんかありえないし、当初危ぶまれていた回線の物理的切断も、新開発の電線が解決したようだ。

 そして、サーバーのシステム管理も会社側はなにやら絶対の自信を示していて、その通り今まで何のトラブルも報告されていなかった。サーバー管理にはよほどいい人材か器材かを使っているのだろうと皮肉を言われるほどだ。


「その不動の安定性もこれまでか……」


 俺は肩を落としてつぶやいた。ここでこうしていても仕方がない。俺は施錠したばかりの自転車を解錠してまたがった。

 ふとポケットからケータイを取り出し、指に染み付いた番号に掛ける。

 数コールのあと、回線が開いた。


『はい、笹田です』


 電話口に出たのは中年の男性だ。うだつが上がらない平社員のイメージがピタッとはまってしまうような声である。

 俺は久々に聞くその声にやはり感慨など抱かずまず名乗った。


「もしもし、伯父さん。俺です、春樹です」

『ああ、春樹くん! 相場さんから話は聞いてるよ。そろそろ連絡来る頃かなって思ったんだ』


 勤め先の工場長である伯父さんはそう応えた。相場さんとは、同僚で工場では俺の次に若い今時の若者っぽい男性だ。


『今日は、うちに来るんだろう? 席は用意してあるから早めに来ておくれ。それじゃあ』


 伯父さんは一方的に言うと通話を切る。まあ仕事中だったのだから仕方ない。

 俺は地面を蹴って自転車を走りださせた。

 ペダルを交互に踏み込みながら考える。今日伊織と慎也が学校を休んだのはこのヴァルハラの件が関係しているのかもしれない。

 伊織は父親がプログラマだと言っていたし、手伝うくらいはやりそうだ。ヴァルハラ大好きっ子だから。

 慎也も、恐らく公式サイトとかでこれを知ったのだろう。ショックで倒れたに違いない。あいつはワルキューレ超好きッ子だから。

 二人らしいといえばらしいが、ゲーセンのゲームごときで生活が狂うとは俺を含め、さすがにのめり込みすぎたかもしれない。だからといって止める気には到底ならないが。

 と、思考しているうちにやがて自転車は住宅街の外れ、工場が集まったエリアを走る。そのなかで中規模のモノが俺の勤め先だ。

 自転車を駐車場の端に停めて、施錠。そして工場に足を向けた。


「こんにちはー」


 俺は一応声を掛けて入った。作業機械がうるさくて聞こえないだろうが、礼儀の問題らしい。

 たまたま近くに居たらしい伯父さんは声は聞こえなかったようだが俺に気付き、地域の合唱サークルではテノールのソロパートを任ぜられるほど異様によく通る声で挨拶してきた。


「こんにちは、春樹くん。事務所に作業着は置いてあるから、着替えておいで」


 俺は頷いて返し、機械がうなる合間を通って事務所に向かった。端っこに位置するそこは至って簡素な室内で、まさしく事務のためだけの小部屋である。

 俺はそこで作業着に着替えて、いつもの仕事場に行った。仕事は服が汚れるようなものではないので作業着は要らないのだが、これも礼儀の問題だとか。

 俺はそのベルトコンベア横に机が並べられているようなエリアに居る人たちに適当に挨拶しながら空き席を探す。と、なにか手を振っている男性が居た。見れば、相場さんだ。


「こんにちは、久しぶりですね」


 相場さんはにぃと女受けしそうな笑みを浮かべる。だらしなくも着こなした作業着姿で、彼は手を止めて口を開いた。


「おう、久しぶりだな。聞いてるぜ、ヴァルハラがポシャったんだってな」

「ええ。しかも期間は未定とか」


 応えつつ、彼の隣の空き席に着いた。彼は年上ながら気が合う。

 相場さんは黄色にも近い明るい茶色に髪を染め、耳にピアスも三つくらいあけている。シルバーアクセサリの似合う軽薄な感じの二十代前半だが、なぜこんな工場勤務をしているのか不思議だ。


「どっぷりハマってたお前にゃ悲劇だろーな」

「全くです。そして相場さん、手を動かしましょう」


 慇懃無礼が服を着てるような俺に、相場さんは苦笑して作業を再開した。彼は手か口かどちらかしか動かせない人種なので、お喋りも同時に止まる。

 仕事は、ベルトコンベアから流れてくるモノを手元のモノと組む、簡単な部品組み立てだ。場所を与えられた内職と思って差し支えない。

 しばらく黙々と作業をしていると、相場さんがまた手を止めた。


「しかし、ヴァルハラって最新のバーチャルリアリティなんだろ。俺もやってみたことあるけど、恐ろしいね、往年の体感バトルゲームスーパープレイヤー相場さんも形なしだ」

「やっぱり相場さん、ゲーマーだったんですね」


 俺の皮肉を彼は笑ってスルーし、部品を手に取った。しかし組まない。


「まあな。昔のはヴァルハラみたいに自在には動けない。それでもこれまでのに比べたら『自分が戦ってる』感が凄まじかったんだがな。ま、それでもコツとかは変わってないけどな」

「……コツ?」


 俺は思わず聞き返した。筐体のなかで体を動かす往年の体感バトルゲームと、自意識のままに動作するヴァルハラとに共通点があるとは思えなかったからだ。

 相場さんは気軽い様子で部品をもてあそびつつ応えてくれる。


「おー、コツだ。ヴァルハラってさ、言ってみればどんな重病人だってダイブすりゃみんなバック宙一回転半ひねりができるだろ?」

「まあ、そうですね。ゲームに体は関係ありませんから」

「だろ。なのに、なまじ『自分が戦ってる』感が強すぎるもんだからみんながみんな軍人崩れの猿真似戦法を取っちまう。だから分かんねぇんだな」


 彼は部品を机に置いて、組み合わせた。カチ、と軽い音を立てて部品は出来上がる。


「いくらリアルでも、『バトルゲーム』であることは変わんねぇ。アグレッシブにアクロバティックに。コソコソ隠れて戦争ごっこするより、激しい運動のほうがいいってもんだよな」


 笑って、彼は部品を段ボール箱に放り投げる。外した。相場さんは舌打ちして屈み、その部品を拾った。


「バトルゲーム、か。なかなかいいこと言いますね、相場さんのくせに」


 俺は苦笑して呟いた。幸いにも聞き逃していた相場さんが聞き返すのを流しつつ、作り上げられた部品を段ボール箱に放り投げる。

 小さな音を立てて、それは箱のなかに入った。




 勤務終了時間になり、俺は相場さんに別れを告げ事務所に向かった。そこでは伯父さんが作業をしていたが、俺が入ってくると笑って傍らの茶封筒を手に取った。


「はい、本日のお給金」

「え?」

「ヴァルハラにハマっている間は日給で雇うって話になっていただろう? うちが払う金額は今までと変わらないけどね」


 伯父さんはにこりと笑って仕事を再開した。俺はその残業をする平社員のような背中に一礼し、着替えを持って事務所を後にした。長居して邪魔はできない。

 俺は工場の人たちに適当に挨拶しながら後にし、作業着のまま自転車にまたがった。ヴァルハラをやりはじめる前までは毎日こうやって帰っていたのだが、妙に懐かしい感じがする。

 俺は自転車を出しながら思案した。明日学校で伊織にヴァルハラに何があったのか聞いてみよう。休みだったら慎也にも一応聞いてみよう。

 相場さんに聞いたコツをこの身で感じたくてうずうずしているのだ。アグレッシブアクロバティック。

 これまで目標としてきた伊織は軍人戦術派だった。

 彼女の持つ技量を、堅実に発揮するための戦い方をしている。それは見事なものである。だがしかし、ある種の柔軟性に欠けていたのは事実だ。

 対し、相場さんが考えるヴァルハラの戦い方はまさにゲームとしてのものだ。そこらの格ゲーみたいなアクロバットで相手を翻弄することを旨とする。

 当然そんな余計なことをしているばかりでは相手に先を読まれ討ち落とされるだろうが。

 どちらも利点があり、また欠点もある。

 なら、どちらも使いこなすことこそが最も強い戦術なのではないだろうか。

 もちろん、戦術を可能とするだけの技量は必要だろう。伊織のいつか言っていた通り、『エインを使いこなすことだけがこのゲームで重要』なのだから。

 それでも伊織を越えるだけのとっかかりを見つけられただけで、俺は昂揚していた。

 と、俺の懐が鳴動した。自転車を路肩に停め、ポケットからケータイを取り出す。家からの連絡だった。


「はい」


 回線を開き応答すると、テレビの音を漏らしながらやかましい声で電話の主が声を出した。


『あ、兄ちゃん? 今なにやってんの、というかまだゲーセンに居るの?』

「いや、今日は伯父さんとこに出てきた」


 応えつつ、家にそのことを連絡するのを忘れてたな、と思った。

 電話の向こうでは納得したようにうなる声とがさごそと動く音が聞こえる。おそらく時計を確認したのだろう。


『あ、そうなの。道理でこんな時間なんだ。じゃあ今帰ってんのね?』

「ああ」

『そっ。お母さんがご飯出来てるから早く帰ってきなさいってさ。それじゃあ』


 最後に伝言を伝えられ妹からの通話は切られた。

 俺はケータイをたたんでポケットに突っ込み、自転車を再び走らせる。

 妹、桜は隣人無関心の典型だと思う。先程の電話も親に言われたから掛けただけであり、実際に兄の行方を危惧する言葉など一言も発しなかった。まあ俺自体危惧されるような行動をしない、というのもあるかもしれないが。

 ともかく、俺は桜に彼女の友人ほども気を払われていない。今俺が彼女と逆の立場だったなら「夜道には気を付けろ」くらいは言うだろう。あれは肉親としてどうなのだろうか。


「どうでもいいか」


 俺は本心から呟いた。

 そうとも、俺の頭にあることは、ヴァルハラのことだけなのだから。

 自転車を走らせ、帰宅した俺は親に二言三言言われただけで小言から解放された。レンジで温め直した夕飯をリビングで食っていると、テレビドラマを観ていた桜がぽつりと呟く。


「うちの親って、結構甘いよね」

「そうだな」


 普通、連絡もなしに十時まで帰らなかったらもう少しくらい心配するのではないだろうか。

 夕飯を食い終わった俺は食器を台所に運び、シンクに置いて水に浸けた。あとは母君が軽く洗って食器洗い機に放り込んでくれるであろう。


「風呂沸いてるから早く入っといて」


 ダイニングの椅子のうえであぐらをかいて週刊女性を熱心に読む我らが母君は適当に言い放った。食後すぐに風呂に入るのは体にあまりよろしくないと健康番組で得た知識を誇らしげに披露していたのは他ならぬ貴女でしょうに。


「何か用でもあんの?」


 黙考していたためその場につっ立っていた俺に母さんが雑誌から顔を上げぬまま尋ねてきた。俺はため息を吐いて、子供の自立心を育てる放任主義教育を徹底する母さんに告げた。


「口調を多少は気にするべき、椅子のうえであぐらをかいてはいけません、人と話をするときは相手の顔を見ましょう」

「青二才があたしの生き方に口だしすんじゃない。とっとと風呂入んな」


 マナーを生き方と言い切った母君に嘆息し、俺は彼女の城であるダイニングキッチンを後にする。

 仕方なく一番風呂を頂いた後、寝巻に着替えて洗面所兼脱衣所を退室した。ダイニングキッチンに戻り、冷蔵庫からペットボトルを取り出してコップに清涼飲料を注ぐ。ラベルは早々に破り捨てられているので商品名は分からないがおそらくスポーツドリンクだろう。


「ハル、風呂入った?」


 雑誌に夢中の母君は息子が何をしていたのかまるで分かっていないらしい。俺はペットボトルを冷蔵庫に戻し、戸を閉めながら言い返した。


「たった今入った」


 投げ遣りな相槌を返すのみの母さんにいまさら呆れることも出来ず、俺はコップを片手にリビングへ行く。そこには桜がソファに半ば寝転がるような姿勢でテレビを見ていた。

 リビングは何畳かまでは知らないが並みの広さで、真ん中には低いテーブルと三人掛けのソファ。その対面、ちょうど俺が出てきたダイニングにつながる扉の脇にテレビとビデオデッキが置いてある。未だにビデオデッキであることに、イマドキの女子中学生である桜は憤りを通り越して嘆いている。

 猫の額ほどの庭につながる大きい窓の脇には観葉植物。その近くには棚。至って平凡なレイアウトではないかと俺は思っている。

 片手で追い払うような仕草をして桜を起こし、ソファにもたれながら風呂上がりのコップの清涼飲料を飲んだ。

 頬杖を突いて面白くもなさそうにドラマを観ていた桜が尋ねてくる。


「いくら稼いだの?」


 いきなり金の話か、と呆れつつも俺は伯父さんから貰った給料を言う。


「三千と五百」


 へぇ、と桜は投げ遣りな相槌を打ち、抑揚の少ない平坦な口調で続けた。


「いいな。チョーダイ、いやせめて三千円貸して」

「阿呆。金が欲しいなら働けば良いだろ。伯父さんに頼みに行けばいい」

「働くのヤダー」


 ニートあるいはパラサイトに認定されそうなセリフを言って、桜はソファの肘掛けにもたれた。

 俺はそんな彼女を見て、常々思っていたことを告げてみる。


「桜はいつも欲しくもない服や化粧品ばかり買ってるからだろ。なんで要らないものを買うんだ?」

「うっさいなー、友達のこととか色々あんの。そういうの買わないとクラスで浮くんだもん」


 桜はそう言うが、学校では制服なんだから服を持っているかどうかなんて関係ないと思うのだが。

 俺がそう言うと桜は俺を横目に見て、


「兄ちゃんはいいよ、交友関係とか気にしない物好きだし。フツーの人間は面倒なことが多いのよ」


 と、みんなに合わせることの一環であるテレビドラマ鑑賞を退屈そうに続けながら言った。

 女子社会は何かと大変なのだろう、と俺は思うことにした。

 飲み終わったコップを軽く洗い、逆さにして置く。そして俺は親と桜に一言ずつ就寝の挨拶を告げた。

 玄関の近くにある階段から二階に上がり一番奥の自分の部屋に入る。

 飾り気のない、殺風景な部屋だ。鉄パイプを組んだ簡素な棚や机、ベッドくらいしかない。桜には「大人の男って感じでシブい」と称賛を受けたが、俺はあまり良いとは思っていない。

 この部屋は生活感がなさすぎるのだ。寝て、起きるためだけの部屋。こんな部屋では安らぐことなどできようもない。

 俺は嘆息してベッドに倒れこんだ。ホコリの染み付いた壁を眺める。

 だからといって家具などを買いに行っても何も買えない。購買意欲がまったく湧かないのだ。

 何も買いたいと思わないのだから、滅多に金を使ったことはなく、同時に何円からが高額で何円までが安価なのか判断が出来ない。価値観を持たないためだ。

 ヴァルハラに金を注いでいるのはそんな不安の発露なのかもしれない。


「物好き、ね……」


 桜に言われたばかりのことを思い出す。

 嘆息し、体を休めようと俺は目をつむった。




 朝、日差しがカーテンの隙間から差し込み、目が覚めた。時計を見る。六時すぎ。起きてしまったから仕方がない、二度寝したら二時間は眠るから今から寝るわけにはいかない。

 俺は起床し、階下に下りる。父親はすでに出て、桜が制服姿でスポーツバッグを背負い出ていくところだった。


「お早よう、じゃあ私行ってくるね」

「ああ、いってらっしゃい。鍵忘れんなよ」

「うーす」


 言い返し、彼女は玄関を慌ただしく出ていった。部活の朝練か何かだろう。はて、桜は何部であったか。

 出でこない記憶にこめかみをノックするが二秒で諦め朝食を摂ろうと台所に向かう。ダイニングと一つながりの台所はキレイに片付いていた。


「桜のやつ、朝飯抜いたのか……」


 俺はそれを知るがだからといって何をするわけでもなく食パンを用意しトースターにセットする。目玉焼きの一つでも作ろうかと思ったが面倒だったのでやめた。

 トーストが出来るとマーガリンを塗りたくる。バターナイフをシンクに投げ込み、食べながら朝刊を読んでみた。気が向いたのでインスタントコーヒーも用意してみる。

 食べ、すすり、読む。優雅な朝である。

 やがてトーストを食べおわると、番組欄を開いていた新聞をたたみ、リビングのソファに投げ捨てた。慢性的寝坊の母君がのちに読まれるであろう。

 コーヒーをいれていたマグカップとバターナイフを洗い片付ける。

 俺は制服に着替え、鞄を持ち学校へと足を向けた。


 学校に着いた。まだ七時だ。朝練の野球部連中が起こすボールを打つ乾いた音が響く。こんな朝っぱらからバッティングかノックかをやっているのだろうか。

 昇降口で靴を履き代え、廊下を歩く。静まり返り、日差しが廊下に満ちる朝の学校は新鮮だ。

 教室に着き、鞄を机に掛けて椅子を引き腰掛ける。当然ながら一番乗り。

 暇だ。他の人々が来るのにまだまだ一時間以上ある。俺は慎也にイヤガラセのモーニングコールをしてやろうかとケータイを取り出した。


「あれ?」


 教室の出入口の方から不思議そうな声が聞こえた。聞き覚えのある声に振り返れば、そこには背中のなかほどまで伸びる艶やかな黒髪を持った少女が立っていた。


「伊織?」


 伊織だ。

 彼女は歩みを再開し自分の机に鞄を置き、俺に顔を向けて尋ねてくる。


「なにしてるの?」

「いや、早くに目を覚ましたから来てみた。伊織こそこんな時間に何を?」


 伊織はあいまいな返事をしながら机の引き出しのなかを探る。なかに入れられていたプリント類を取り出して、俺に見せた。


「休んだ分、取り返さないと」


 俺は絶句。優等生は考えることが違うらしい。

 伊織はおもむろに鞄から教材を取り出し、開いた。今から勉強をするつもりのようだ。

 と、筆記具を手に持った伊織が俺に顔を向けた。


「……ヴァルハラのことで話があるんだけど、今日の放課後空いてる?」

「ああ……、空いてるっちゃ空いてるかな」


 答えつつ鞄に目をやる。このなかには工場の作業着が入っているのだ。

 俺は伯父さんの温情で雇ってもらっているようなもので、居なくてもまったく問題ない。それに、ヴァルハラにハマっている間は日雇い扱いでもある。

 正直何の問題もないのである。が、伯父さんが常々説いている礼儀の観点から後で今日は行かない旨を伝えておこうと思った。ヴァルハラが停止している今、毎日来ると思っている可能性は大だ。

 伊織は頷いて、言う。


「じゃあ、放課後に。……それと……」


 言いにくそうに言葉を切る。何かと思っていると、


「ノート、貸して」


 やはり彼女は優等生だ。


 今回、過渡期に入りヴァルハラが閉鎖。当作品の見所(?)であるバトルが消えました。早くバトルパートに戻りたい……(謎

 それはともかく、今回ようやっと笹田家の描写が入りました。隣人無関心は家族内の状態に用いる語として不適当です。

 また、笹田くんが貯金を貯めている背景及び彼の悩みが明かされました。正直何の意味もありません。

 次回、まだバトルパートに入れません(涙

 ですが次々回にはバトルが復活する予定です。次々回をお楽しみに!(謎

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