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8th.DIVE シンボルタワー

 地下鉄の駅から出てみれば、その駅舎はデパートと直結していた。華やかなショーウインドウと対照的に閑散とした通りは哀愁を誘う。

 ふと見れば、看板があった。ロードライン……なんだろうか。伊織に目で尋ねるが、彼女は首を振る。

 だが俺が背中と膝の裏に腕を通して抱えているワルキューレが口を出した。


「あのチューブを走る車じゃないですか?」

「……なるほど、たしかにラインだしな」


 うん、と俺は頷く。納得するだけして、近くにあった板が斜めの机のような、地図が描かれたボードに目をやった。現在地とシンボルタワーとの位置関係を見ようと思ったからだ。

 ちなみに手を離して二の腕で支えられていたワルキューレは体勢を維持できなかったのか、おずおずと首に腕を巻き付けた。美少女に抱きつかれ、ちょっといい気分だ。

 なんの気なしにボードに手を置いた直後、ボードから何かが現われた。何かと思って警戒すると、それは三次元マップだ。街の全景が見えている。

 まるでなにかのオブジェのようだ。中心にバベルの塔を抱いて、そこから広がるように高低に差がある建物が広がっている。地下も大体上下対象のように見える。そしてそれらの建築物を取り巻くように管――おそらくは地下鉄とロードラインのチューブ――が散らばっている。

 面倒な地形だ。ボードの脇に描かれた各地のアクセスを見ると、ここからシンボルタワーへはあのロードラインを使うのが一番早いらしい。第14線に乗るそうだ。

 ふと思い出してボードから手を離す。立体映像は数秒後に消えた。よくできてる。

 俺は手元にウインドウを呼び出して、残り時間を確認した。思わず溜め息が漏れる。


「あと十五分ない。急いだほうがよさそうだな」


 俺は振り返って伊織に告げた。伊織は頷き、走りだす。俺は後を追う。

 ロードラインの看板を顎で示しながら、俺は彼女に提案した。


「ロードラインを使おう。タイムアップしたら意味がない、多少の危険に構う暇はないと愚考するがいかが?」

「承認」


 短く答えて伊織はロードラインの案内看板に沿って走る。やがて乗り場らしきところに来た。

 レンタカーとの看板の下に車が無数停まっている。それ以外のルートからも車が上がってきてチューブに入って行っていた。

 伊織は迷わず他のルートからくる車のルーフに飛び乗り、投げナイフを突き立てて体を安定させる。

 レンタカーを使ってもいいだろうに、我らが戦姫はそれを強奪するだけの時間も惜しいようだ。

 俺も真似をして後続車にクナイを突き立てる。体のしたに庇うようにワルキューレを寝かせた。

 チューブに入ると同時に車が異様な浮遊をして高速になった。どうやらこのチューブはリニアモーターのリアクションレールの役割を持つようだ。

 速い速い。周囲の景色がカッ飛んでいく。バベルの塔がぐんぐんと近づいてきた。さすがは未来都市だ。


「すごい速いな」

「はっ、何がですッ?」


 呟くが、ワルキューレは裏返り気味の声で聞き返してきた。俺の体が邪魔で見えないのかと思い、笑って説明する。


「周りの景色がすごい勢いでカッ飛んでる。これはリニアモーターカーみたいなモノらしいな、異様に速いぞ」

「は、あ、そうなんですか。すごいですね」


 歯切れの悪い返事を訝って見下ろしてみると、顔を真っ赤にしたワルキューレがカクカクと頷いていた。寝ているせいで散らばっている髪が艶めかしい。

 気が付けば、今の体勢は俺がワルキューレを押し倒してるみたいじゃないか。仕方ないとはいえ体なんか思い切り密着してるし。

 一度意識したが最後。いくら意識すまいと思ってもヒトハダの暖かさと柔らかさが気になってしまう。複数の意味で、仮想現実で本当によかったと思う。


「……あ、そろそろ着くみたいですね」


 ワルキューレの言葉に反応してアサッテを見ていた顔を安堵とともに前に向ける。チューブの終わりらしき建物につながった穴が見えた。そこに向けて少しずつ速度を落としている。

 その壁はシンボルタワーの基礎部分だ。どうやらもう着いたらしい。

 減速し、チューブから屋内に入るといきなり戦闘が始まっていた。伊織が投げナイフを手に多数を相手取って奮戦している。

 俺はワルキューレを左腕で抱えると乗り場で徐行する車のルーフからクナイを引き抜き、飛び降りざまに敵エインを斬った。


「伊織、大丈夫か!?」

「左腕が……。援護してほしい」


 伊織が右手で敵エインを薙ぎ払いながら言う。俺は慌てて彼女より左側の相手を引き受けた。大分楽になるはずだ。

 ワルキューレをかばいながらクナイを乱射し、敵を倒していく。地下鉄と違いここの連中は未来都市ステージと激しく時代錯誤した刀剣を武器としているのがありがたい。

 半円を組んで進行方向をふさぐ敵エイン達の一人に右足を振り上げ回し蹴りを食らわせ、クナイを顔面に打ち込む。そして脚を下ろさずそいつの腹を蹴り飛ばし他のエインにぶつける。

 敵がその死体を押し退けた隙を突いて、その眉間にクナイを射出する。

 右脇からエインが襲ってくるが、ルーフから引き抜いたまま逆手に握るクナイでそいつのサーベルを受け流し、延髄にクナイを突き立てる。

 執着もせずクナイを放すと、相手の体が倒れそうになる。右腕を差し出して胸を掴み、そいつの体を受け止めると力一杯引っ張る。

 正面から刺突してきた相手の前に出して盾にした。刺されたエインの体は一度だけ痙攣し、沈黙する。

 邪魔な体を押し退け、返す手で武器を引き抜こうとしている敵エインのど真ん中に腕を向け、射出。クナイが胸に突き立った。


「伊織?」

「……片付いた」


 俺が尋ねると、伊織がエインを斬り倒して答える。

 俺は左腕で抱えたままのワルキューレを下ろし、膝を突き左腕を押さえる伊織に駆け寄った。ワルキューレも心配そうに紅蓮のエインの横顔をうかがう。

 俺も彼女のそばにひざまずき、怪我の様子を見てみた。小手の装甲をえぐるように傷がついている。


「リバイバルは?」


 俺が尋ねると、伊織はゆるやかに首を振った。


「まだ動ける。もう使うのはもったいない」


 強気に言うが、左腕を押さえる姿は痛々しく、強がっているのは明らかだ。

 俺は少し呆れて言った。


「……意地張らずにリバイバルしたらどうだ。それじゃあ両手武器の銃剣が使えないだろ」

「平気! そのための補助武器だし。きみがあんな大怪我でわたしたちを守ったのに、先達のわたしがこの程度で音を上げるわけにはいかない」


 伊織の言葉は、意地を張らせてほしいという嘆願に他ならなかった。俺は呆れるが、仕方ない、口出ししないことにする。

 伊織は莫迦ではない。つまらない意地でゲームオーバーなんてことはないはずだ。本当に必要なときは迷わずリバイバルするだろう。

 そう信じて、俺は立ち上がった。先を見やる。

 扉の向こうに清潔感があるが無機質な通路が光を満たして待っていた。


「行こう。時間も残り少ない」


 伊織は頷き、駆け足で扉に向かう。ワルキューレがそのあとに続き、俺がしんがりを走る。

 あまり広くはない通路を駆け抜ける。三人の足音がどたどたと反響してやかましい。

 紅蓮のエインの後ろ姿をうかがう。その走りはやや左腕をかばうようで、俺は敵が出た際に即座に対応できるよう、左手にクナイを構えた。

 やがて俺たちは広間に出る。伊織は周囲の地形などをうかがうが、俺は観光名所にありがちな案内板に目を走らせた。こちらのほうが楽に整理された情報を得ることができることを駅舎の時点で理解していた。

 それによれば、屋上まで上がるには目の前の高速エレベータに乗るしかないらしい。その旨を手短に二人に話すと、そろって不安そうな素振りを見せた。


「また一本道……待ち伏せされてそう」


 伊織が弱音を吐くが、俺はすでに高速エレベータのボタンを押した。振り向いて、不満そうな伊織に告げる。


「道がそれしかないなら行くだけだ。邪魔する奴が居たならねじ伏せるのみ」


 ヴァルハラをやっていると、考え方が乱暴になるらしい。俺は漆黒のエインの無表情に隠して薄く笑みを浮かべた。

 ワルキューレをエレベータに押し入れる。伊織も一瞬迷ったのちに、乗り込んだ。

 最上階へ向かうボタンを押す。エレベータがゆっくりと上がっていき、加速。下に押しつけられるような圧力はじきに消えた。

 四角い箱のなかは不気味な沈黙が下りる。窓から見える瞬く間に広がっていく絶景を見て心を動かすほど俺たちに余裕はない。


「どうせ敵は来るだろうから、俺は屋根にでも上って警戒してる。ワルキューレを頼む」


 俺がそう言うと、伊織は俺と目を合わせて頷く。


「うん。無茶しないで」

「そっちこそな」


 俺は彼女の左手を差して笑って返した。整備用の穴から屋根によじ登る。

 このエレベータはすごい速さで上昇している。壁に手を伸ばせば、ヤスリのように削ってくれるだろう。地下鉄の天井と同じだ。

 ウインドウを呼び出し、残り時間を確認する。あと七分。


「このまま、敵がこなけりゃいいけどな」


 気が急くのを感じながら俺は遥か上方の目的地を見上げた。

 天辺に近づいてきた頃。

 鉄を蹴る音が上方から微かに聞こえた。

 俺は立ち上がり、クナイを構える。気のせいならいいが、思い過しでなかったとしたら面倒だ。

 ――と、


「な、うわぁあああ!」


 突如雨あられと降り注ぐ銃弾!

 足元で跳弾の音を響かせながら火花がはじける。思わず腕を上げて頭をかばった、その隙間から相手の姿を見た。俺はやつを討とうと握ったクナイを構える。

 ぶち、と耳元で何かがちぎれる音がした。体中に沸き上がる不穏な感触。

 俺の堪忍袋の緒がキレた音ではなかった。それは、エレベータのワイヤが弾丸に射抜かれて切れた音だった。

 ガクン、とエレベータの上昇が止まる。摩擦で火花を散らしながらワイヤが引き上げられ、同時にエレベータが落下を始める!


「う、嘘だろ!?」


 窓から見える下界は遥か下方だ。この高さから叩きつけられたら絶対に死ぬ。

 エレベータが落下し、体がわずか浮かぶ。俺はエレベータと引き離されまいとクナイを打ち込もうと腕を振る。

 エレベータが急に止まり、半端に浮かんだ俺は寝呆けてベッドから落ちたときのような衝撃を受けた。


「……痛ぇ」


 俺はつい呟くが、体は痛くない。でも心はイタい。

 虚しい気分で俺は立ち上がる。おそらくエレベータが緊急制動したのだろう。そんな安全装置があるなんて、さすが未来都市。

 そんなことはともかく、俺は上を振り仰いだ。幸いにもそれほど落下したわけではないらしい。

 敵エインがバーニアを吹きながら降下する。カン、と乾いた音を立てて壁ぎわにめぐらされた鉄パイプを足掛かりに立つのが見えた。

 なるほど、このエレベータの回りは鉄骨や鉄パイプにおうとつや支柱が溢れていて、実は足場に事欠かない。

 この場所は俺のエインが得意とする地形かもしれない。俺は相手が次の行動を起こす前にと跳躍した。

 鉄パイプを足場に跳躍、鉄骨を蹴って方向転換、クナイを壁に打ち込み、ワイヤーアクションで相手の真上に回り込む。

 即座にクナイを真下に射出。敵エインの脳天を貫いた。


「口ほどにもない」


 カッコつけて呟いたら、カン、と乾いた音が複数鳴った。顔を上げてみれば、軽機関銃を構えた敵エインが三体。


「……うそーん」


 変なテンションの俺は莫迦みたいなことを呟き、鉄パイプを蹴る。その一瞬後に敵の掃射が鉄パイプを砕いた。

 鉄骨を蹴って跳躍する。敵エインも各々足場を蹴って次々と飛び交う。

 俺は大刀を抜いた。バーニアを吹かし、回転して一閃する。だが当たりはなし。

 俺は鉄骨に足を掛ける。敵エインたちは連携して、飛ぶ奴と撃つ奴が交互に役割を持つ。そのお陰で着地の隙を突くなどの芸当が出来ない。

 俺は舌打ちして、鉄骨の上を走り、跳躍する。敵の掃射が俺の後ろを襲い、追い立てる。

 バーニアを吹かせて体を反転させ、鉄パイプを蹴った。クナイを先ほど立っていた鉄骨に打ち込み、ワイヤーをロック。俺の体に強引に制動がかかり、半円を描いて方向が変化する。相手の銃弾が虚しく空を切った。

 だが、相手は銃を素早く構えなおし、再び俺を狙う。休む暇もなくワイヤーを切って跳躍した。


「くそ、避けるだけで精一杯か」


 毒づいていると、銃を構えようとした敵が一体体勢を崩して倒れた。その隙を見逃さず、もう一体の射撃をかいくぐり、跳躍していた敵を切り落とす。即座に跳躍、壁を蹴って二段跳びをし、クナイを打ち込んで最後の一体も葬る。

 鉄パイプに着地して下を見た。紅蓮のエインがワルキューレを片手で抱えてエレベータのうえに立っている。伊織が投げナイフを投擲して一体を屠ってくれたようだ。


「ありがとう、助かった」

「どういたしまして。それよりどうする?」


 俺は彼女らのもとまで下りた。ワルキューレを受け取る。

 ワルキューレは荷物扱いに不貞腐れていたが、場合をわきまえていて文句は言わない。運び手が俺になってからも我慢してもらうしかない。

 伊織と目を合わせ、俺は上を示した。


「他のルートに行く時間はない。このまま鉄パイプとかを足場に上っていこう」


 俺は言うなりバーニアを吹かして跳躍する。壁を走るかのように鉄パイプや鉄骨を蹴って上っていった。

 伊織が俺を追い抜く。荷物があるとやはりウォーリアスタイルにも追い付かれるようだ。


「わたしが先行する」

「ああ、任せた」


 紅蓮のエインは頷き、バーニアを吹かしてより高く跳躍した。俺も出来るだけ急いで後を追う。

 と、腕のなかでワルキューレが苦しそうにうめいた。どうしたのかと見てみると、顔が真っ青だ。


「どうしたんだ? 顔色が悪いぞ」


 時間も逼迫しているので足を止めることも出来ず、跳躍しながら尋ねる。ワルキューレは気丈に微笑んでみせたが、つらさを隠し切れていない。


「気にしないでください。気圧の変化で調子が悪いだけですから……。すぐにクリアするのでしょう?」


 そんなものまで忠実に再現しているのか。そのくせエインには影響が無いなんて、ワルキューレを苦しませるための設定みたいだ。

 当然そうではなく、高地での気温の変化その他を再現するための措置だろうことは理解している。しかし釈然としないものもどこかに感じていた。


「……ああ、もう少しだ。悪い、もう少しだけ辛抱してくれ」


 芸の無い励ましに、ワルキューレはそっと微笑む。

 俺は一段一段の距離にもどかしさを感じながらも確実に渾身の力で鉄骨を蹴る。

 バーニアスラスタを吹かすが、もともと姿勢を整える程度の火力しかないため気休めにしかならない。エインは何かのマンガのようにスラスタだけで飛び回ることなど出来ないのだ。

 ウインドウを呼び出す。残り時間は……一分を切った!

 俺は舌打ちして、鉄骨を歪ませるほどの力をこめて跳躍する。

 と、天井に穴が開いた。突如降り注ぐ上からの日差しに俺は戸惑うが、足は鉄パイプを捕らえた。バーニアで姿勢を整え、再び跳躍する。


「……春樹! こっち!」


 伊織が穴から顔を覗かせて叫んだ。俺は彼女を目にし、目測で距離を測った。

 いける!

 鉄骨から跳躍し、壁で二段跳び。さして役に立たないと分かっていてもバーニアを吹かして、伊織に手を伸ばす。伊織も穴から身を乗り出し、手を伸ばした。

 ヴァルハラに慣れてきた俺の経験が告げる。


 ――届かない、と。


 目測での測定は経験が確実だと言っていた。だが、今の俺にはワルキューレという重しが付いているのを失念していた。

 いくら彼女が人の尺度で軽くとも、抱えるとなれば重荷となる。その重さによる跳躍力の減衰の計算が出来なかったのだ。

 俺の体は上昇することを止め、落下を始めた。しかも真上に跳躍したため、落下コースもそれに沿っており、再び壁ぎわに張り巡らされた足場を捕らえるのに十秒ほどかかる。

 それは致命的な十秒だ。

 バランスが崩れ、体が仰向けになる。

 間に合わない。そう悟った俺に、声が叩きつけられた。


「クナイ! 撃って!」


 伊織が手のひらを差し出して叫ぶ。俺は彼女の意図を悟った。

 俺のクナイをつかんで、ウォーリアの豪碗を生かして引き揚げようということだろう。俺は腕を振ってクナイを穴に向かって打ち上げた。

 紅蓮のエインがワイヤーを握り、手首を返して手に巻き付け、体勢を整えた。


「あぁぁぁあぁあああああああああっ!!」


 伊織が空を引き裂く雄叫びを上げた。圧倒的な力に俺の肩はもげそうになり、首は体の移動についていけず鞭打ちになりかける。ワルキューレも俺の胸に額をしこたまぶつけて痛そうだった。

 そして、伊織も。

 無茶な力を入れたせいでワイヤーは彼女の手を割って食い込んでいる。それでもなお彼女はワイヤーを引き揚げようとしていた。

 その甲斐あって俺の体は弾かれるように跳ね上がり、鉄骨に足を掛けた。万全を期してもう一跳びしておき、跳躍!

 穴が小さすぎる。ぎりぎりの広さの穴、そのど真ん中を通過できなかった俺は左肩をへりにぶつけ、半ば脱臼しかける。リバイバルする間も惜しんで俺はバーニアを吹かし体勢を整え、シンボルタワーその頂上に着地した。

 到達地点は正方形の頂上の中心。そこが白く光っている。そこにワルキューレを入れたらミッションクリアだ。

 俺は地面を蹴り、もはや使い物にならない両腕で抱き締めていたワルキューレをそこに……、


「間に合えよ、クソッタレ!!」


 押し込んだ!

 急に放されたワルキューレはバランスが取れずに尻餅をついた。白い光はもう消えている。

 手元に出しっぱなしだったウインドウを眺めた。

 すでに停止したカウントダウンが赤い数字で表示されている。今表示されているその数字は丸っこい。


「3秒……かよ」


 土壇場で間に合った。安堵した俺は全身の力が抜け、背中から大の字になって倒れこむ。両肩の寒気をともなう違和感が食い千切らんばかりに襲い掛かってきた。

 こんなに死に物狂いになってなにかをやったのは生まれて初めてだ。命が賭かっているかのような張り切りようだったと思う。

 空が近い。それこそ手を伸ばせば届きそうだ。

 手を伸ばす気力もなく見上げていた視界に影が掛かった。見れば、伊織だ。


「遣り遂げちゃったね」


 字面とは裏腹にその声は満足気だ。俺は横たわったまま素直に頷く。


「ああ。あと、ありがとうな。伊織のお陰だ」


 伊織は緩やかに首を振って答えた。

 俺は苦笑し、彼女に拳を突き出す。


「……ミッションクリア」


 この緊張感は、ただの嘘ではありえない。


 未来都市ステージ後編です。いきなり余談ですが、当初(六話掲載時)この話は七八合わせた一話分の予定でした。長すぎたのでやめました。

 さらに余談ですが、本文中のエレベータの安全装置はとっくに存在します。笹田のアホを表現するために感心させました、あしからず。

 さて! この話はストーリーの転換期と言ってました。次辺りから過渡期になります。バトルが大幅に減ります。悲しいです(謎

 ともかく、次回以降のノンバトルはさておき、それ以降に発生するであろう派手なバトルをお楽しみに!(何

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