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2nd.DIVE ワルキューレ

 ガチャ、と何かが外れるような音がして視界に光が少しずつ戻っていく。夢から覚めたような感覚に戸惑い、状況把握に少し時間を掛けてしまう。


『ヴァルハラご利用ありがとうございました。今回のプレイデータはデータカードに保存されております、なくさないようご注意ください。カードをお受け取りのうえ忘れ物の無いよう、お気を付けください』


 そのアナウンスで我に返った。ゲームセンターで仮想現実ゲームをしていたんだ。

 今更ながら、あの世界が作り物であったことが信じられない。それほどまでにリアルな世界だった。

 発行されたデータカードを受け取り、傍らの慎也を見る。彼も機体から起き上がり、カードを片手に眠そうな顔を緩めていた。


「早くどいて」

「えっ、悪い……」


 背後から声を掛けられ慌てて座席を立つ。

 下がって見れば、肩甲骨を隠すくらい長く、漆黒の艶やかな髪が目についた。その長髪少女は俺と同じ高校の制服を着ており、五百円を投入して座席に座るところだった。

 慎也が近くにきて渋面で耳打ちする。


「おー、コワ。なんなんだアイツ?」


 俺はデータカード読み込み中と表示されたスクリーンをちらと見て、首を振った。


「知らん。なんか飲んで休憩しようぜ」

「うーす、オーケー」


 慎也はデータカードを熟練の手品師のように手を振って何処かにしまうと自販機に向かった。俺は苦笑して、普通にポケットにしまい後を追う。

 自販機でコーラを購入し手頃なベンチで休憩する。エインで暴れた感触が抜けておらず、奇妙な違和感が残っていた。


「ふぃー。お前のエインスゴかったなあ」


 慎也が隣に腰掛け、飲料をちびちびと飲む。ちなみに彼が買ったのはアップルジュースだ。

 適当に返事しつつコーラを飲む。

 慎也は天井を仰ぎ、嘆息した。


「あー、俺は何にも出来なかったなぁ」

「慎也のエインだって性能的には俺と同じだ。戦略か相手か、もしくは舞台が悪かったんだろ」


 フォローを入れてやる。

 確かに舞台によっては本来の性能をろくに出せないエインも居る。今回のビル街は俺のエインにとってやりやすい場所だったと言えるだろう。

 慎也は曖昧に頷く。おそらく次のプレイを頭のなかでシミュレーションしているのだろう。

 俺はカードを取り出して眺める。ヴァルハラのデータカード。笹田春樹の名が半角カタカナで打ち込まれている。他にエインのスタイルとタイプや武器も書かれていた。ダイブ回数が一回。かなり詳細に情報が書き込まれている。


「そうだ。なあ慎也、窓口で武器設定しようぜ」

「おっ、そうだな!」


 慎也が飛び起きて立ち上がった。アップルジュースを一気に飲み、むせ、咳き込みつつ空き缶を捨てる。

 そのさまがあんまり莫迦らしくて笑いながら、俺はコーラのペットボトルの蓋を閉める。


「んーで、ヴァルハラ窓口ってどこだ?」

「あれじゃないか?」


 復活した慎也に俺は仮想現実ゲームブースの中心に立つ巨大な柱を指差した。三、四人が両手を広げてようやく囲めるくらいの太さだ。

 ヴァルハラ筐体の後ろのあたりに液晶画面の小窓が作られていた。そこには耳に引っ掛けるタイプの片耳イヤホンもある。液晶は一つだが、三人まで一辺に操作できるらしい。

 俺たちはそこのスロットにデータカードを差し込んでみた。ヴァルハラの宣伝をしていた液晶がロゴを出し、映像が切り替わる。

 俺たちはイヤホンを耳に引っ掛けた。


『ヴァルハラ窓口へようこそ。こちらではエインヘルヤルの設定変更、武器作成、データ閲覧ができます』


 イヤホンから声が聞こえた。聞き覚えのある声だと思ったら、液晶画面にガイドキャラクタらしいワルキューレが現われた。


「おっ、可愛いなワルキューレちゃん!」


 莫迦慎也が鼻のした伸ばしてのたまう。

 呆れた俺の前でワルキューレが口元に手をやり、しおらしく微笑んだ。


『ふふ。慎也さん、ありがとうございます』

「うおー、ワルキューレちゃんに名前で呼ばれた!」

「静かにしろ莫迦野郎」


 興奮して叫びかけた慎也の頭をひっぱたいて、画面を改めて見る。ワルキューレと目が合ったような錯覚をし、俺は顔を逸らすついでに液晶周辺の説明文に目を走らせる。

 イヤホンの根本についたマイクで音声入力するようだ。独自に研究開発したこのエキスパートシステムは限定された話題においてほぼ完璧な会話を可能とするらしいが、その情報に間違いはないようだ。


「武器作成がしたいんだが」

『承りました。慎也さんも武器作成でしょうか?』

「うはー、そうそうですそうなんですよ!」


 また叫びだした慎也を肘鉄砲で黙らせる。ワルキューレがくすくすと笑った。

 機械と頭では分かっていてもコミュニケーションだって成立するので、そのタイミングで上品に笑われるとなんだか恥ずかしくなってくる。


『では、春樹さんから武器作成を始めましょう』


 言って、俺の大刀が画面に現われ、ワルキューレが端に退いた。画面の中心で大刀がくるくる回る。


『プレイデータから算出されたベターステイタスに変更しますか?』

「へぇ、そんな器用な真似ができるのか……さすがワルキューレちゃん!」

『ありがとうございます』


 慎也が真面目なコメントしたかと思えば結局アホ丸出し。ワルキューレもニッコリ笑顔で慎也に返す。


「ベターステイタスって、そんなものどうやって算出されるんだ?」


 ゲームらしからぬサービスに感心してるのは俺も同じで、思わずそう尋ねていた。

 ワルキューレはともすれば疑っているようなその質問に気を悪くした様子もなく、笑顔のまま対応する。


『プレイヤーのスタイルやタイプ、補助武器との組み合わせによって算出された初期性能に、プレイヤーのプレイ時の動き方や戦術、性格、思考、ルーチンなどを基に算出された、よりそのプレイヤーに合った性能に近付けるのです』


 途中からなにが何だか分からなくなったらしい慎也は手放しで称賛し、ワルキューレがニッコリと対応する。それを横目に俺はワルキューレに尋ねた。


「そんなの、一回や二回のプレイで求められるものなのか?」

『いえ。あくまでベターな性能にしか出来ません。しかしプレイを重ねるほどによりプレイヤーに合った性能になっていきます』


 スゴい、としか言いようがないと思う。俺は曖昧に相槌を打ち、その処理を頼んだ。少し待つとその結果が出る。


『長さを二センチ縮小し、重さを増しました。柄を長くし、重心を少し上げました』


 そんなリアルな変更を教えられてもよく分からないのだが、なんとなく強くなったような気がする。

 礼を言うとワルキューレは微笑で応え、大刀を回しながら尋ねてきた。


『修飾を変更しますか?』

「そうか、そんなのも出来るんだったな。頼むよ」

『承りました。どんなふうにしましょう?』


 笑顔で尋ねてくるワルキューレに、俺は言葉に詰まった。急に言われてもそういうものは難しい。


『大雑把な抽象的希望でもこちらで映像化しますよ』


 抽象的というのもまた複雑な。とりあえず強そうにと言おうとした俺の機先を制し、慎也が口を挟んだ。


「なあー、遅ぇよ。代わりにオーダーしてやる。ワルキューレちゃん、なんかこう……笹田っぽい感じに修飾して!」

『まあ。それはとても難しい注文ですね。頑張ってみます』


 驚いたふうに口元に手をあてたが、ワルキューレは結局それで作業を始めてしまった。処理中の文字が液晶を踊る。

 俺は傍らの慎也を横目に見た。目が合った慎也はなにやらたじろぐ。


「わっ、な、なんだよっ。遅いから悪いんだろ!」


 俺は諦めて嘆息した。時間が掛かっているのは確かだ。ヴァルハラが武器作成のためにわざわざ別窓口を用意した理由が分かる。

 丁度処理が終わった。生まれ変わった大刀が画面の中心でくるくる回る。


『完了いたしました。これでよろしいですか?』


 ワルキューレが画面の端でニッコリと微笑んだ。

 仄黒い大刀は乱刃の刃文を見せ、鍔と柄は漆黒。柄には紅い緒が申し訳程度に垂れている。

 それは俺の漆黒のエインに似合いそうで、悔しいが格好良かった。


「……承認」

『承認。データカードに上書きしています……ありがとうございました。補助武器も変更しますか?』


 ワルキューレが笑顔をたたえて尋ねてくる。慎也があからさまに苛立った目をしていたため、俺はベターステイタスに調整してくれとだけ言った。


『データカードに上書きしています……ありがとうございました。さて、慎也さん、お待たせしました』

「うおぅ、待ってたぜこの時を! ワルキューレちゃん、サイコーの武器を作ろうぜ!」


 騒ぐ慎也に苦笑して、俺は一歩離れる。それを見越したかのようにスロットからデータカードが出された。

 俺は慎也の邪魔をしないよう囁くように礼を言い、カードを取ってイヤホンを外した。

 ベンチに腰掛け、飲みかけのコーラで喉を潤す。ふと見れば、ヴァルハラが一台使用されていた。

 スクリーンでそいつの動きを見る。初心者は先達の動きを学んで上達するのだ。

 そのエインは紅蓮。猛る炎のような狂暴なフォルムは、どこか牙を剥く獣を連想させる。

 スタイルは多分ウォーリア(速度はないが機動力と出力、武器の扱いに長ける)で、タイプはスピード。主要武器は銃剣のようだ。

 ステージは住宅街。その紅蓮のエインは屋根を跳躍して駆ける。その後を追うように無数のNPCエインが周囲を飛び跳ねる。

 紅蓮のエインが腕を振るった。両手に銃剣を構え、マズルフラッシュが次々と閃く。

 反動を利用して半回転する。屋根を踏み、再び跳んだときには三体のエインが脱落していた。

 どうやら一撃でそれぞれの急所を的確に撃ち抜いたらしい。そうでなければ弾数と脱落したエインの数が合わない。


「参考にはならないな」


 俺は呟いた。あんな絶技はいくら見たって真似できるはずがない。

 紅蓮のエインは飛び掛かってきたエインの腕を蹴り斬撃を逸らすと、身をひねって銃剣でそのエインの喉を切り裂いた。

 落ちるエインを足掛かりに態勢を整え、他のエインの斬撃を払って返す刀で面を断つ。その斬撃の勢いを利用してさらに敵エインを二体撃つ。

 その動きは屋根から屋根の一飛びの間になされた。

 着地の隙を狙った攻撃もバーニアスラスタを用いて強引な体勢でかわし、身をひねって銃剣でそのエインをカウンター気味に撃ち抜く。

 凄絶の一語に尽きる。

 圧倒的な数の差をものともせず、エインを次々と倒していくその姿はさながら武神の舞だ。武神と言うには紅蓮のエインのフォルムは荒々しすぎるが。

 しばらくしたのちに敵エイン全てを撃破したらしい、ミッションクリアの表示が出てカバーが開いた。標的の殲滅がミッションだったらしい。

 カバーが完全に開き、身を起こしたそのプレイヤーの姿を見て俺は数秒硬直した。

 肩甲骨を覆い隠すくらいの長い髪は黒くて艶やか。驚くほど真っすぐな髪の彼女は近所の公立高校の制服を着ていて、例にもれずスカート丈を短くしている。

 俺たちの後にヴァルハラをプレイした、あの辛辣な少女だ。彼女はあれ程の技量の持ち主だったのか。

 意外に思いつつも俺は表情に出さず、平然とコーラを口に含んだ。ガキっぽい対抗心だとは思うが、感心していることを知られたくない。

 と、慎也がデータカードをヒラヒラさせながら歩み寄ってきた。


「おーす、笹田。待たせたな。さあヴァルハラ二回のプレイと行こうぜ」

「ん、ああ……。ああ、そうだな、行こうか」


 驚いた俺から悟ったわけでもないだろうが、慎也はあの長髪少女に気付いた。

 彼女はこちらに気付かなかったのか、颯爽とヴァルハラ機体を後にする。


「ああん? なんだ、あいつ。俺たちがやめてから結構経ったのにまだやってたのか。まあいいや、早くやろうぜ」


 慎也は言いおわると笑って、嬉々として少女が使ってないほうのヴァルハラにコインを投入した。

 後を追った俺はなんとなく内心でひるみながらもコインを投入し、彼女が使った後の座席に腰掛ける。

 肘掛けのスロットにデータカードを入れ、カバーを閉じるボタンを押した。

 視界が闇に閉ざされ、二度目のダイブをする。




 どこかの異様に広いホールに俺は立っていた。身体は既に漆黒のエインのものだ。

 赤い絨毯なんて初めて見た。足踏みしてみる。毛足が長いのだろう、なにかフワフワしている。

 辺りを見回した。まるで城の中だ。学校の体育館より広いかもしれない。

 壁の柱にはキャンドル、天井には豪華なシャンデリア、正面には二階くらいの高さにテラス。人が集まればダンスパーティーでも出来そうだ。


「うわぁ、スゲェ広い!」


 いつの間に現われたのか、慎也が傍らに居た。やはりきざな、たてがみを持つ純白の騎士。

 嫌味の一つでも言ってやろうかと思ったが、それより先にウインドウが表示された。またも標的の破壊だ。

 見回せば、テラスに円環がついた毒々しい紫色のエインが立っている。あれが今回の標的だろう。

 早速打ち倒そうとクナイを準備していると、


「んな? 笹田、危ない!」


 慎也が俺の背後に長剣を振るった。振り返れば、兵士のような恰好をしたエインが倒れている。標的の証たる円環はない。

 まさかと思い周囲に目を走らせる。悪い冗談のようだ。

 辺りには兵士エインがゾロゾロと現われていた。

 不気味な面覆いがキャンドルの明かりを照り返す。


「ああ? くそっ」


 慎也が補助武器の拳銃を持ち、連射して端から撃っていった。

 兵士は一撃で倒されていくが、慎也の射撃はお世辞にも巧いとは言い難い。そのうえ兵士の動きは遅い。


「雑魚キャラか」


 俺はそう結論を出した。

 連射の利かないクナイで掃射しつつ、早口で慎也に耳打ちする。


「慎也。雑魚はほとんど無視していいだろう。俺かお前で雑魚を牽制し、片方で標的のエインを倒そう」

「ほう。うん、任せた」


 短く言って、慎也は床を蹴った。長剣を抜き、テラスへの道をふさぐ兵士達を薙ぎ払う。

 てっきり慎也自ら標的を狙うだろうと思ったがあっさり譲られたので驚きつつも、自分で提案したことなので慎也が切り開いた道を駆ける。

 右袖に手を突っ込むような動作でクナイを手に持った。右手に持ちかえ、逆手に構える。

 跳躍、テラスへ一気に向かう。標的のエインは動かない。

 不思議に思っていると、眼下で影が動いた。見下ろせばこちらへ猛然と向かってくる黒いファイタースタイルのエイン!


「ッ!」


 反射的にクナイで防御しようとするが、その程度で防げるはずもなく刺突してきた相手に左肩を切り裂かれる。

 相手の腹を蹴って距離は作ったものの、体勢を整え切れずはいつくばるような不様な格好で着地する。

 クナイを捨てて大刀を抜き、周囲に群がる兵士を切り払う。

 ヴァルハラのストレス計算という奇怪なダメージ計算方式が俺に牙を剥いた。

 ヴァルハラは仮想現実。当然ながら怪我などしないし、痛くはない。だが、ゲーム内で負ったエインの負傷は『違和感』、『喪失感』といった曰く言い難い感覚が痛みに取って代わる。

 プレイ中、この感覚をプレイヤーは痛み同様に忌避し恐怖してしまう。その感覚がある場所をかばったりしてしまうなど、苦痛と同じ結果を引き起こす。

 ヴァルハラはこのストレスを感知し、一定以上になるとゲームオーバー。強制アウトとなる。

 そして、任意のタイミングで三回までこの感覚を帳消しに(『リバイバル』と言う)することが出来る。

 従来のゲームで言えば三回までリトライ出来ると似たことだが、違うのはリアルタイムでリバイバルすることとヴァルハラではダメージを負えば負うほど必然的に回避行動が取れなくなるということだ。

 変なところがリアルというヴァルハラの、変なところとはここだろう。

 俺は感覚を確かめ、まだ痩せ我慢が通じることを確認するとこのまま続行することにした。もう少し怪我したらリバイバルしよう。

 大刀を構える。仄かに黒い刀身の向こうには黒いエインが短剣を構え走っていた。距離が詰まる。

 エインが短剣を薙ぐタイミングで、俺は全力でバーニアスラスタを吹かす。

 押し倒されたかのように上体が傾き、敵の短剣は空を切った。脚と脇のバーニアを駆使して倒れないように体勢を直そうとする。その動作はさながら地面を滑るようであり、

 俺は滑るように相手の背後を取った。


「くたばれ……!」


 俺は身体をほとんど寝かせたまま右腕だけで大刀を振りぬき、敵エインの胴を真っ二つに切り離す。

 背面のバーニアスラスタを全開に吹かすが体勢を直し切れず、俺は左肩から床に倒れた。悪寒が左肩から背筋、脳髄を貫く。

 怪我した部位から倒れこんだのだから当然だが、嫌なものは嫌だ。

 思わず俺は三回しか使えない『リバイバル』を使用してしまった。

 嘘のように一瞬で違和感に似た感覚が消え失せる。


「なあおい、大丈夫か?」


 慎也が兵士を三体同時に切り裂き、立ち上がった俺に駆け寄った。

 俺は苦笑する。標的のエインを倒すどころかリバイバルしてしまった。ひどい失態である。

 辺りを見回したところ、兵士エインは減る様子をまるで見せない。どうやら標的のエインを倒すまで無尽蔵に出てくるようだ。

 と、慎也が拳銃で撃った兵士を押し退けて黒いエインが再び現われた。その姿を認めた慎也は拳銃をしまい、立ち向かう。

 俺は巻き込まれないよう距離を取りつつ兵士を切り払い続けた。横目で慎也をうかがう。

 慎也は長剣をぞんざいに構えつつ、楽しそうな声を放る。


「へん、俺とやろうってのか?」


 敵エインは当然言葉を無視して短剣を構え、慎也に肉迫する。慎也は無造作に剣を振って牽制し、深く踏み込んだ。

 敵エインが短剣を振る、その腕を勢い良く斬り上げた。バーニアスラスタを吹かし、鋭く横に回り込む。

 純白の鎧が動き、たてがみが遅れてなびく。そして白銀の刃が走った。

 胸より上を断ち切られた敵エインは倒れる。

 そのエインの亡骸を見下ろし、長剣を肩に担いだ慎也は不敵に呟いた。


「ふぅ、まあこんな感じだな」


 それを見届けた俺は大刀を一閃、周囲の兵士を切り払うと跳躍した。大刀を握ったまま右腕を標的のエインに向け、クナイを放つ。

 見事、眉間のあたりを貫いた。

 そして銃声。仰け反っていた敵エインが身体をくの字に曲げ、倒れる。見れば慎也も拳銃を抜き、撃ち放っていた。

 純白の騎士と目を合わせる。俺の偽りの身体である漆黒のエインは、顔がのっぺりとしていて紅い相貌しか顔のパーツがないため表情は表れないが、俺は笑みを浮かべた。


「ミッションクリア……」


 この快感は嘘ではない。

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