表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/25

14th.DIVE Play off

 彼はもう、逃げも隠れもしなかった。

 私が彼を探そうと近場のビルの屋上に登ると、彼も遠くの屋上に屹立して私を待っていたのだ。もっとも、彼の猫背はそのままだったが。イマイチ緊張感に欠ける。

 私が彼のところまで行くと、彼は一言。


「ラストらしい舞台でやりあわないか」


 異存はなかった。




 彼がラストらしい舞台だとして連れてきたのはシンボルタワーだった。

 私がこのタワーに来るのはワルキューレの護衛ミッション以来初めてだ。あのときはロードラインで来たから分からなかったが、ロードラインのチューブがあんな高くにあることなど気付かなかった。

 チューブの高さだけでそんじょそこらの高層ビルを超越している。タワーそのものなんて、天辺は見えない。

 その高い構造物を支えるためのピラミッド型の基礎部分は異様に頑丈になっていて、その太さから空を支える柱なのではと錯覚しそうなほどだ。

 その正方形の基礎部分にある段々畑状のそこは各段に公園が設けられている。観光の目玉の他に市民の憩いの場としての機能も兼ね備えているようだ。

 そのような気の回し方といい、妙に建築理念に沿った設計といい、なんだか夢見がちな企画書の世界に飛び込んだ気分だ。

 ……このステージの製作者はこんなものを実現する気なのだろうか。

 見上げる空には遠近法で湾曲して見える塔。

 ちょっとこんなの実在したらいやだなと思った。

 傍らに立つ漆黒のエインが私に向き直り、告げる。


「対辺から敷地に入ってお互いを探して討つ、て感じで構わないな?」


 提案を吟味してみた。索敵接近攻撃の要素を試されるそれはヴァルハラらしくていい決闘方法かもしれない。


「うん。それは構わないけど……逃げないでよ?」

「いまさらそんなことしないよ」


 私の皮肉に彼は笑わなかった。


「じゃあ、俺が反対側に向かう。三分後に動きだしてやり合おうか」


 漆黒のエインはそう言ってタワーを回り込むように走っていった。山越えと同じような感じだ。

 ウインドウを呼び出す。もう四十分ほどダイブを続けている。そろそろ決着をつけないとマズイ。

 彼が向こうに向かってからきっかり三分待って、私は地面を蹴った。着地したのは三段目。

 各段は舗装道路に並木、ときどきベンチなどがあり遊歩道のような場所だが、段々なのでエインにとっては階段も同じ。ロードラインのチューブがあるところまで容易く登る。

 彼が向かいに見えた。どちらも行動が単純に過ぎたらしい。こんなに早く接敵するとは思わなかった。

 お互いを視界に認めるなり、私は銃を彼は大刀を構える。

 引き金を引くが、彼は大きく跳んでこれを避け、また壁に足を乗せた。

 そのまま壁を走る!

 ここの壁は一応斜面になっているので不可能でこそないが、おいそれと出来ることでもない。

 壁を蹴り、並木の幹を蹴って地面に足を着けず距離を詰める。

 変則的なその軌道に私は狙いを安定させることができない。撃った弾は片手間に弾かれ、また外れる。

 彼が大きく跳躍し襲い掛かってきた。私は一発撃つが立てた刀に弾かれる。次弾を待つ暇はない。

 私は横に飛び込み前転をして避けた。斬撃が背中のうえを通り過ぎる。

 足を突っ張って勢いを殺し、左手を突いて起き上がる。体勢を整える間もなく振り返り片手を伸ばして銃を撃った。

 至近からの一撃も彼は無造作に防ぐ。

 私は連射をせず、追撃に備えて身構えた。

 ところが彼は追撃をせずに身を翻す。その予想外の動きに私は一瞬動作が遅れる。

 彼は業務用の出入口を蹴破って中に飛び込んだ。タワー内で決着をつけたいらしい。

 私は内心で首を傾げる。ロードライン以上のタワー内にはオフィス等が入っており、割りと狭い空間のはずだ。そんなところでは彼の素早さが生かしきれないのではないだろうか。

 ともかく、私は彼を追うことにした。何か策があるのかもしれないが、トラップなどを仕掛ける暇はなかったはずだ。どうするつもりなのか興味があることは否定できない。

 業務用の出入口に空けられた穴をエインの豪椀で押し広げ、私は中に足を踏み入れる。

 内部はやはり広くない。だが、敷地が異様に広大だからだろう、通常の廊下よりは広く出来ていた。ここは業務員用の通路のようだ。一般の通路はまたもう少し広いのかもしれない。

 私は銃剣を背中のラックに戻し、ホルスターから投げナイフを抜いた。走る。

 のんびり見学している暇はないのだった。早く見つけなければ不都合がある。

 左右に雑多とモノが積まれた物置兼用状態の通路を走りぬけ、扉を開ける。その先はテナントのオフィスだ。大企業っぽい雰囲気を持たせた会社がオフィスを構えている。

 だがこのゲームはフィクションなので聞いたこともないテキトーな名前の会社である。ただヴァルハラのスポンサーの会社は例外的に実名を入れているようだが。

 私はナイフを構えてそこを走り抜ける。あの漆黒のエインは影も形もない。

 一つの扉を通り過ぎた直後、扉が炸裂する。

 振り返った私の視界にはワイヤを使って無理矢理な制動を掛け、クナイを左手に構える漆黒のエイン。その無機質にして鋭すぎる相貌は私を捉えていた。

 扉は炸裂したのではなく彼によって砕かれただけ。一つのオフィスに潜んで、私が通り過ぎて背中を見せるのを待っていたのだ。

 あっさりと隙を見せていた私は自身の迂闊を呪いつつナイフを構えて攻撃に備える。

 彼はワイヤを切ってバーニアも使い体勢を整えつつクナイを私のナイフに絡ませ、封じる。そうしながら鋭く踏み込んで右拳を唸らせた。

 私は身を捻ってそれをかわす。脇腹をわずかにかすめたが、負傷というほどにはならない。

 右腕を薙ぎ、彼の頭を裏拳気味に殴り飛ばした。彼の体は吹き飛んで先ほど飛び出したオフィスの中に突っ込む。

 私は右手を握って開く。その手に残っている手応えに歯噛みした。


「直撃の瞬間に跳んで衝撃を減らした? どこの漫画の超人よ……!」


 吐き捨て、ナイフを抜いて右手にも持ち、両手それぞれに構える。そのままオフィスの中に追撃をしようと突っ込んだ。

 オフィスの中は思いの外広く、真っ先に目につくのは向かいの壁代わりとなっている大きいガラス窓だ。外の景色が一望できる。

 右はすぐ壁となっており、左側に向かって空間が広がっているふう。そしてそこには机やパソコンなどがひしめいており、足場を安定させて戦うのは少々面倒なように思える。

 そのなかに、漆黒のエインは、

 居ない。

 私は反射的に身を翻しつつ踵で床を蹴り大きく跳び退いた。防御のためクロスに構えた両のナイフにクナイがぶつかる。

 着地したが、ふくらはぎが机にぶつかる。邪魔な机を私は後ろ手に殴り飛ばした。机が倒れ、パソコンが床に落ち、コードの類が引きちぎられ不快な重奏を奏でる。


「乱暴だな」


 クナイとワイヤを絡ませて角に足場を作り、天井スレスレに潜んでいた漆黒のエインがそう呟く。

 私は無言で戦闘体勢を整えた。

 彼は壁を蹴り跳躍、弾丸のように飛び出した。途中バーニアも用いて身を返し天井を蹴る。運動ベクトルに変化を加え、向かう壁を再び蹴る。

 私の目には迫りくる黒い影がバーニアの白い炎を見せながら左右に跳ねているように見える。

 彼は机に着地し、その机を反動で吹き飛ばしつつ再度跳躍。偉そうなことを言っておきながら同じことをやっている。

 肉薄した彼に手近な机からキーボードを取り、投げ付ける。その際コードに引っ張られてパソコンが一台落下したが気にしない。そのコードは落下のせいで千切れたのでむしろ運がいいと思うことにする。

 束縛なく飛ぶキーボードに彼は右ストレートを叩き込み、砕きながらも私へと弾き返す。そうくるとは思わなかった私は右に握るナイフでそれを薙ぎ払った。壊れたキーがいくつか体に当たる。

 無残な姿に一瞬で変貌した哀れなキーボードが床に落ちる、その瞬間に私達は切り結ぶ。

 クナイを左手に握るナイフで防ぎ、私はその腕を振りぬいて弾く。その動きを予備動作に代えて右のナイフを突き込もうとした。

 右手に握るクナイを弾かれた彼はその勢いを殺さずバーニアで足して旋回、そのついでのように私の振る右手首に左足首を重ね、後押しするように振り抜く。

 右の斬撃は流されたが、彼を見習ってその勢いを利用し回転、彼の着地点に左手のナイフで逆袈裟斬りを放つ。だが、彼は開脚し身をひねる。私の斬撃はその足の間を駆け抜けた。

 彼は着地と同時に蹴りを放つ。空振りした直後の私にかわすことは出来ず、脇腹に食らった。

 しかし彼も無理な体勢から放った蹴りだ。私は数歩後退するのみで耐える。

 彼は即座に追撃する。右フックに見せ掛けてクナイを射出した。私は後退してそれを避ける。

 横の机に突き立ったそれをさらに踏み込んだ彼が左手で奪うように取り、殴るような動作で斬撃を繰り出す。その切っ先はしっかりと私の首を狙っていた。

 私は右手を打ち下ろしてそのクナイを弾く。しかし彼は右手のクナイを振るい追撃を仕掛けた。

 顔面を狙ったその攻撃はくぐるようにしてかわす。ボクシングの回避動作だ。

 しかしなおも連撃は続いた。先ほどいなした左のクナイを再び振るい、今度は私の脇腹を狙って突き下ろしてくる。

 右手に握るナイフで防ぐなり私は乱暴に左手を突き出した。仮面のような顔面にナイフを突き込む。


「……っ!」


 息を呑む音が聞こえる。

 彼は大きく身を捻り逸らしてそれをかわした。頬をわずかに掠め、向こう傷としてはカッコイイ切り傷が出来る。しかし致命傷とは程遠い。

 彼は身を捻りついでに私の左足を払った。

 一歩後退りするのみで踏み留まるが、彼も体勢を整えている。

 一進一退。まるで決着がつきそうにもない。

 と、その瞬間彼が唐突に跳んだ。机を蹴り天井を蹴り、風のような素早い動きでオフィスから消える。

 彼も同じことを感じたのかもしれない。焦れた彼は状況の変化を求めたのだろう。

 それは賢い策とは言えないが、場合によっては状況を打開する妙策にもなりうる。警戒するに越したことはない。

 私はすぐに後を追う。ついでに椅子を一つ掴んだ。

 その持ってきた椅子を先に出口から投げる。念のため、というやつだ。

 だが変化はなく椅子が壁にブチ当たる騒がしい音がする。私が出るに合わせて襲撃するつもりではないらしい。

 四半秒の間にそう判断した私は壁に当たった椅子が落ちるより先に廊下へと飛び出す。また見失ってはたまらない。

 幸いにも彼の姿はすぐに見つかった。廊下の遥か先を走っている。

 ウォーリアスタイルのエインが彼に追い付けるわけがない。私は左手に握るナイフを振りかぶり、フリスビーの要領で投げた。

 続け様に右手のナイフも円盤投げのように振りかぶり投げる。

 スピードを犠牲にしてパワーを得たウォーリアの豪腕で投げたのだ、果たしてそのナイフは瞬く間に漆黒のエインに肉薄した。

 彼はそれに気付くや地面に体を投げ出して、ナイフをやり過ごす。その立ち止まった隙を狙い、私は床を鳴らして走りだした。

 右手にナイフを抜いておくのを忘れない。彼が起き上がろうとしたときに足止めを続けるためこのナイフを投げるのだ。

 だが、意外にも立ち上がった彼は逃げる気配を見せなかった。大刀を抜き、こちらを見据えて相対する。

 そのことを不思議に思わないでもないが、大したこととも思えない。私が逃げられないよう対策を打っていることを悟り、無駄なことを省いたというところだろう。

 距離が一気に詰まってくる。私はもう一つナイフを抜き臨戦態勢を整える。

 私は間合いに踏み込むなり半身に構え、大きく振りかぶって右手に握るナイフを振るった。その斬撃は軽く身を反らすだけでかわされる。

 次いで私はその腕の振りを予備動作に代え、ハイキックを繰り出す。これに彼は片手を差し出し、小手で防いだ。

 脚を下ろすなり踏み込み、右のナイフを突き込む。彼は大刀でそれを逸らし、防ぐ。詰め寄った私に対し一歩後退した。

 私は右手を引き戻しながら身を翻し、後ろ回し蹴りを放つ。延髄を狙ったその一打は、お辞儀するように屈んでかわされる。

 脚を地面に付けると同時、身を弾かれるように前に出し、左拳でアッパーカットを狙う。外した。


「クソッ……!」


 彼が毒づき、大きく跳び退く。連打に耐えかねたのだろう。

 だが逃がさない。

 私は左手に握るナイフを投擲した。右のナイフを左に持ちかえ右手でホルスターからナイフを抜く。

 彼は私が投げたナイフを大刀で弾く。即座に刀を返し反撃に転じてきた。

 上段からの斬撃。ナイフで払う。刃が上にくるよう刀を返して素早く突きを繰り出す。刀身をナイフで横殴りに弾く。

 すると彼は右手を柄から放した。そして、わずかに開いた小手の間からクナイを射出する。


「欝陶しい!」


 大刀を使っているからクナイは出ないものと思い込んでしまっていた私は叫び、多少慌ててそれを弾く。

 彼はその隙に跳躍した。

 壁を蹴り、天井を蹴って体を回転させる。バーニアも加わりその勢いはまるで独楽のようだ。回転軸は床と平行だが。

 何がしたいのか解らず、『呑気に』観察していた私はようやく気付く。

 彼の狙いは、回転しながら放つ斬撃であると。

 彼は猛烈な勢いで回転している。だから単に頭上から腹へと腕を振るだけの斬撃も回転することとなり、剣筋の読みがたい攻撃を放てることになる。その不規則な螺旋軌道を防ぐ手立ては私にはない。

 今私が握る両のナイフだけでそれを防がなければならないのだ!

 私の目の前で紫電一閃、彼の刃が閃いた。


「……くっ……!」


 右肩から腹まで、生々しく冷たい鉄の感触が駆け抜ける。その後をなぞるように溢れる痛み代わりの寒気を伴う『違和感』。

 それを頭で認識しないうちにリバイバルを実行。背骨のなかが空っぽになったかと誤解するほど背中を巡る悪寒は一瞬と保たず消え失せる。

 やみくもに構えた防御の隙間をかいくぐり、彼の斬撃は致命傷に近い負傷をこちらに与えた。場所が違えば、向きが違えば、タイミングが違えば私の首が刎ねられていたか重要な臓器を斬られていただろう。

 ゲームとはいえそうなっていたら恐ろしい。私は去ったはずの悪寒に背筋を震わせる。

 彼は地面に半ば這いつくばるようにして着地すると床を舐めるような低姿勢で跳躍する。私の脇を擦れ違い、途中で前回り受け身をとると立ち上がった。


「これでやっと対等か」


 彼は呟く。

 始めは意味を理解できなかったが、すぐに悟る。

 彼は陽子に負傷を負わされたのだろう。その際にリバイバルを使ってしまったに違いない。

 彼は体勢を整え、即座に床を蹴る。一気に肉薄して大刀を振り下ろした。

 私は一歩下がりつつ右手でその斬撃を受け流す。だが彼は必要以上に膝を折り身を落とした。

 正直隙だらけだ。私は手首を返して鋭利な刃を漆黒のエインに向けるとそのまま振り上げる。

 彼は床を蹴り横っ飛びに動いてそれを回避、同時に右腕を振って天井へとクナイを打ち込んだ。

 私は彼を向いて深く踏み込み、左に握るナイフを叩き込む。はずだったが、外した。壁を切り裂き穿つのみだ。

 私は上を振り仰ぐ。彼が天井を蹴って、これまでにない勢いで吹き飛んでいるのが見えた。

 彼は私の斬撃が届くより前に跳躍した。当然、私の斬撃が届くほうが速い。

 ところが、彼は天井に打ち込んだクナイのワイヤを握ると思い切りそれを引き、自身の体を己の腕力で跳ね上げたのだ。

 突然加速した彼を捕捉できずにナイフは壁を叩き、また途中で身を翻して足から天井に着地した彼はクナイの柄を足掛かりにして跳躍した。

 エレベーターホールまで跳んだ彼はそれを一瞥するなり、その仄かに黒い刀身を舞わせた。

 鈍い金属音。重々しいこすれるような不快な音。


「え?」


 不審から声が出た。

 彼はエレベーターの入り口を斬り、その暗闇へと身を踊らせた。

 私は出入口のうえにある表示を見る。エレベーター自体はこの階に止まっていない。

 ということは用があるのはあの縦長の空間ということか?


「あそこを次のラウンドの舞台にしたい、てこと?」


 独語する。それが最も有力なセンだ。

 こうして思考を流していても仕方ない。私は両手のナイフを握り直し、後を追ってエレベーターホールからビルを縦に貫く空間へと飛び込む。

 浮遊感ののちに向かいの壁に着地。壁には一定間隔で蛍光灯がついており、薄暗いが不自由するほどでもない。

 見上げる。蛍光灯の明かりが途切れる高さから察するに、これは基礎部分のみを行き来するためのモノなのだろう。

 塔の部分は特に何もないため別途に高速エレベーターが用意されたのだ。

 ところで……、あの漆黒のエインはどこだろうか。

 三十センチほどの小さな出っ張りに足を掛けているだけのこの状況では満足に周囲を見渡せない。あの漆黒を生かして暗闇に紛れて襲ってくるのだろうか。

 私は焦燥を感じつつも周囲を見回す。見失っても困るし襲撃を受けても困る。早く見つけなければ。

 と、上方で重々しいこすれるような音が響いた。それも何度も。

 見上げれば、闇に紛れて紅い輝きが壁に反射していた。彼だ。

 私は即座に足場を蹴り、周りに張り巡らされた鉄骨や鉄パイプ、先程のような足掛かりを蹴って飛び上がっていく。

 四角いこの空間に螺旋を描くような軌道で駆け上がっていたが、辿り着くより前に彼の前の扉が切り開かれる。

 先程から聞こえていた音はどうやらあれを斬る音だったらしい。足場が悪いから一撃で片を付けられなかったのだろう。

 蛍光灯があってなおも暗いこの空間に自然光が突如差し込む。漆黒のエインはその青白い光に浮かび上がり、やがて光のなかへと消えた。

 私は鉄骨を蹴り垂直に飛び上がる。右腕を大きく振って握るナイフを出っ張りに叩きつけると、私の身体はその中途半端な制動によって傾ぐ。

 左手を壁につけ、支点にして回転。ぽっかりと開いた出口へと足を掛ける。

 左手に握るナイフも思い切り横殴りに振って壁に叩きつけた。深く食い込んだそれはエレベーターの操作パネルを破砕していたが固定される。

 それを手掛かりに体勢を整え切れなかった身体を引き上げ、エレベーターホールへと転がり込む。


「乱暴だな」


 漆黒のエインはポツリと呟いた。彼はエレベーターホールの外れ、掲示板などの前に立っている。


「きみに言われたくない」


 紅蓮のエインは負け惜しみを言った。

 彼は苦笑し、その両手で握る刀に力を込めた。体勢を整え、壁に向かい一閃。

 ……このどこまでも莫迦らしい隙は突いてもいいのだろうか。

 あまりにも明らかすぎる隙にそんな疑問を抱いてしまうほど戸惑った。


「やっぱり、伊織は優しいな。フェアプレイ精神に満ちている」


 漆黒のエインはそう言って、笑った。間を置かずに今自分で作った大穴へと身を滑り込ませる。

 私は一瞬だけ呆けると、ホルスターからナイフを抜いて後を追った。そこはまたエレベーターの縦穴がある。執着しすぎだ。

 その感想はさて置いて、私もその穴に入り込む。

 基礎部分より上の一面が完全なガラス張りのここは高速エレベーターだ。上方から自然光が降り注いでおり、まったく暗くない。

 見回せば彼はここを上へ上へと昇っていた。何がしたいのだろう。

 まさか屋上まで行きたいわけでもあるまい、と考えてもしかしたらそうかもしれないと考え直す。

 確かに、雲霞を見下ろす摩天楼で闘うのも絵になるかもしれない。意外にロマンチストだ。

 なら、と私は視線を下ろす。その先にはうえからの光に輪郭を照らしだされた深い穴が口を開けていた。


 接戦、混戦、大乱戦。

 ようやっと笹田と伊織が戦い始めます。ですが、なんでしょうこの拮抗した争いは。息も吐かせぬ戦闘シーンを目指しているのですが、これでは面倒なだけなような気もします。

 おまけにまだまだ続きます。戦いが長いです。極限の状況が続きます。

 ええと……見所は一応バトルなので、楽しんでくれたら幸いです。次回もお楽しみに!(汗


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ