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13th.DIVE 戦術

 最初に響いたのは手を打つような軽い音だった。

 ちょうど跳躍中だった私達は身をひねって警戒し、屋上に着地する。


「そこかぁ!」


 陽子が叫び右掌を周囲の一角に向け、空気を割る轟音を響かせ火炎弾を放つ。

 ここよりも低いビルの屋上に着弾したそれはそこを焼き払い破砕する。その爆発から逃れるように飛び出した影を私は見逃さなかった。

 私は腰のホルスターからナイフを引き抜きざまに振り返り、打ち下ろすように一閃させる。金属の澄んだ音を立ててそれを弾いた。

 床に落ちて跳ねるそれはクナイだ。

 私は彼とは違い順手でナイフを構えつつ呟く。


「私達が煩悶としてる間に移動してたみたい」


 前後を挟まれている。なんという迂闊か。

 陽子がいきり立ち叫ぶ。


「全く、つくづく迷惑だわあの娘!」


 肩のうえの空間に四つ火炎弾を生成した。胸を反らすようにし、それらを同時に解き放つ。

 高速で飛ぶ火炎弾は前方を掃射し障害物となるものを薙ぎ払う。

 その粉塵の幕を割って飛び出すのは白銀に輝く長剣を下段に構えた純白のエイン。ところどころが煤で汚れており、もう純白では無いかもしれないが。

 陽子は踊るように飛び出し迎撃する。

 大きく振った右手で宙を撫でた。その一瞬あとに燃え盛る炎が手の軌跡を描くように現われる。

 慎也くんの進撃はそれに阻まれるが、彼は拳銃を手に取り陽子を撃つ。

 炎など容易く貫く弾丸が陽子を襲う。彼女は飛び退きつつ視線に力を凝らし、弾丸を自身に到達する前に溶かす。

 私も援護しようとナイフを握る手に力を入れた。視界の左隅に影が見える。

 それと悟った私は、右手を置いて体だけ先にターン。振り向きざまに左下段に構えたナイフを勢い良く斬り上げた。

 漆黒のエインが背後空中から強襲を仕掛けたのだ。逆手に構えるクナイを切り下ろしており、ちょうど私のナイフとクロスにぶつかり合った。

 激しく散る火花!

 目の前に着地した漆黒のエインは股間の前に垂らす右手で握るナイフの切っ先を私に向け、肘鉄砲を狙いつつの二段攻撃を切り出した。なんと小癪な。

 肘は一歩引いて避け、喉笛を引き裂こうとするクナイはナイフを下から突き上げるようにぶつけて斬撃を逸らし、私はわずかに体を反らしてそれを避けた。

 互いに言葉を交わす余裕などない。少なくとも今だけは馴れ合うつもりはないのだから。

 彼は脇を締めて右小手からクナイを射出する。私はサイドステップを踏みそれを避けた。

 避けつつ構えたナイフを投擲する。彼のクナイは弾くには不足であることを悟り、彼は素直に大きく動いてそれを避けた。

 その隙に私は腰から銃剣を構える。彼の投擲したクナイを剣で払った。

 そのわずかな間に彼は体勢を整え、大きく踏み込んで腰に提げた大刀の居合い斬りを放つ。飛び退きつつ銃剣でそれを防ぎ、着地と同時に銃を構え放った。狙いとか急所とか考える暇もない。

 だが経験から自然に動いたのだろう、胸を狙っていたその弾を彼は容易くかわして肉薄する。そこに銃剣を突き出すが身をひねって躱され、逆に逆袈裟に斬られそうになる。

 私は慌てて引いた銃身でそれを防いだ。即座に手を返し逆に横薙ぎに剣を振るう。

 彼は大きく飛び退いて間合いを取る。

 睨み合いが続くが、膠着(こうちゃく)状態に陥っているのではなく、単に私も向こうも限界なだけだ。

 全く、彼は恐ろしい。今の戦闘だけで何度肝を冷やしたことか。

 ちらと横目で陽子の戦闘をうかがう。彼女は右腕をかばうように動いていた。

 驚くべきことに慎也くんは陽子に傷を負わせたらしい。もっとも、慎也くんとて左肩を負傷しているが。

 だが、陽子はなまじ魔術が強いだけにダメージを負いながら戦うことに慣れていない。下手にかばって余計な傷を負わなければいいが……。

 余計な心配をしている場合ではなかった。油断しているとこちらが先にアウトさせられる憂き目に遭う。

 彼女が心配なら、速やかに目の前の標的を排除して援護に回るべきだ。だが、一度見逃さなければならないことを思い出す。

 私は内心で舌打ちした。あの時はまだどこかで彼を侮っていたのだろう。彼が強いからといって自身に課した誓約を破る真似はしたくない。

 自分自身を裏切ってしまえば、あとに残るのは零落だけだ。


「…………」


 呼吸を整え姿勢を正す。集中力を高める。自分の呼吸に意識を向け、周囲の雑音(ノイズ)を排除する。

 集中力が十分に高まったと見るや、その矛先を前方に立つ漆黒のエインに向ける。その変化はあたかも鉄砲水のようで、鋭く強い意識の流れを肌で感じる。

 彼以外の全ての情報は私のなかで処理されず私を通り抜けていく。目指す心域は明鏡止水。

 彼以外の全てがなくなった。その感触があった。後に彼に聞いた話では、この時私からは確かな殺気を感じたという。

 私は地面を蹴る。銃を構え放った。彼はそれを大刀で弾き、そして私へと走りだした。

 一瞬で距離が詰まり、彼は私に斬撃を繰り出す。私はその進路に銃剣を置いて持ちかえた。

 彼の相貌のみの顔が驚愕に歪められた気がした。

 彼の斬撃は私が差し出した銃身に沿って撫でるように走り逸らされたのだ。難しいことではない。

 彼は斬るために刃を向けているだろうから、その向きを銃剣で横にずらし、刃の無い刀身の部分を銃身で押して刀そのものを逸らしただけだ。

 今から銃を構え直しても時間が掛かるだけだ。私は銃身をそのまま彼の顔面に叩きつけ、その間に左手を腰のホルスターに向ける。

 この人食いナイフならえぐりこむような斬撃が可能だろう。私はそれを間髪入れず彼の腹に叩き込もうとして、

 この時私は自身の動きに酔い痴れていた。だから、浮かれて集中がとうに切れていたことに気付けなかった。


『伊織! あたしはアレ使うから、退避して!』

「……分かった」


 私は斬撃を放たなかった。それは私の見逃すという誓約を果たすものであったため迷いはなかった。

 屋上を蹴り、隣のビルへと跳ぶ。着地した私は振り返り、銃を構える。

 私たちの通信を聞いたであろう彼は、危険であることを悟り私同様退避しようと跳躍する。それを狙って私は撃った。

 紙一重でかわす。彼はぎりぎりで気付いて身をひねったのだ。体勢の崩れた彼は着地に戸惑う。

 その隙を狙って私は銃を撃ちながら彼のいるビルのほうへと走る。跳んだ。私が離れる他に彼を陽子のもとから引き離さなければならない。

 彼は突然のことに回避をはかってしまう。退避すると思っていた私が突如攻勢に転じたのだから驚くのも無理はないかもしれない。

 彼は弾丸をかわし、ビルの隙間に下りた。裏路地に入ってしまえば確かに私の長銃では狙いにくい。

 私は銃を後ろ腰のラックに戻すとホルスターから投げナイフを二つ、抜いて両手に構える。

 彼を追って裏路地に飛び降りた。狭くて薄暗い。すれ違うことも出来ないほどの幅に左右の壁がそそり立つ。

 彼が角を曲がるのが見えた。私は地面を蹴って駆け出す。

 私が角を曲がると彼が私に気付き、腕を振るのに紛れてクナイを射出した。私は右のナイフで苦もなくそれを弾く。

 身を翻した彼はクナイを抜き右手に逆手で構える。弾かれたように素早く迫り、クロール泳法のストロークのような腕の動きで斬撃を振り下ろした。

 私はそれを右のナイフで受け流す。反動で一歩下がった。

 彼は斬撃ついでに身を深く沈み込ませ、連撃として下方から切っ先を喉に向けた突き上げを狙う。

 それを右に握ったナイフで払い、防ぐ。即座に反撃に転じ、左手で握るナイフを振り下ろした。

 彼は身をひねり背中を壁にぶつけつつもその斬撃をかわした。跳び退き、私の二撃目は壁を叩く。

 力任せに壁に食い込んだナイフを引き抜き、追撃しようと構える。だが彼の操る漆黒のエインは舞い上がった。

 壁を蹴って屋上に消える。私も後を追って跳躍し、ビルの窓枠に足を掛けて再び跳ぶ。私に壁を使って跳ぶなんて器用な真似はできない。

 私が屋上に着地すると、彼が向かいの裏路地に再び飛び降りたのが見えた。鬼ごっこをするつもりの無い私は跳躍し、一つビルを飛び越えて隙間に落ちる。

 壁に手と足をつけて勢いを殺しつつ滑り落ち、バーニアで体勢を整えてから手足を壁から離し、着地。

 目の前の角から現われた彼は回り込んでいた私に驚き、一瞬足を止める。

 襲い掛かろうとした私にクナイを打ち込む。それを弾く私の前で、拳で壁を押して体を動かし、身を返して走りだす。

 私は後を追った。彼の背に向けてナイフを投げる。

 回転しながら迫る凶器を彼は飛び込み前転をしてやり過ごした。即座に立ち上がり走る。

 狭い通路に苛々しつつも私は右手でホルスターから投げナイフを抜く。補助武器は使い捨てで、いくらでも補充してもらえる。

 と、角を曲がった前方がT字路になった。彼はどちらに曲がるかと身構えるが、

 どちらにも曲がらなかった。壁を蹴って反転、私の頭上を飛び越えて着地する。

 私は振り返りざまに彼を攻撃するが、彼は走りだすことでそれを避けた。

 角を曲がって私の視界から消える。私は彼の後を追い、角を曲がった。

 そこに彼の姿はない。

 また屋上に上ったのかと私は跳躍するが、彼の姿は見当たらなかった。


「……見失った……?」


 私はしばし呆然とし、唐突にナイフを地面に叩きつけた。それは突き刺さり、垂直に立つ。

 私は同じことの繰り返しに苛々して、思考と行動が単純になっていたようだ。故に彼は私を挑発してわずかな間を作った。逃げ切るだけの時間を稼ぐために。

 まんまとしてやられた。彼に私の心情をも掌握されてしまったのだ。

 後を追っているつもりが手のひらのうえで踊らされていた。滑稽なこと限りない。


「……クソッタレ」


 久方ぶりに毒づき、私は裏路地に飛び降りた。なんにしても早く見つけださなければならない。


 同じ標的に二度も出し抜かれるとは。この常にない失態は相手が人間だからなのだろうか。戦略が巧妙かつ心理戦まで交じってくる、非常に高度な戦闘ではある。

 それでありながら、彼は技術的には拮抗していながら私を圧倒する。彼は駆け引き上手なのだろうか。

 駆け引き上手といえば陽子もそうだ。以前にここで彼女と戦ったときは私が勝ちを拾ったが、それは彼女が好戦的で私の前から動かなかったからなのかもしれない。

 彼のように頻繁に逃げも選択し確実さを狙う戦術を採っていたら、果たして勝てたのだろうか。

 ふ、と小さく笑う。


「こんな弱気なところを陽子に見られたら、ぶっ飛ばされそう」


 彼女は威力不足が欠点のウィザードスタイルには考えられないような火力を出す方法を編み出した。その最大の威力は重火器にも匹敵する。

 ウィザードスタイルの魔術は、知識と経験によって裏付けされたイメージによって作られる。

 プレイヤーが出したいと思った現象をそのまま顕現させるのがヴァルハラにおける魔術。その『現象』はイメージにのみ依ったものだと威力が低いのだ。

 ただ、その現象を実在の兵器に仮託すると威力の増加ができる。例えば、『炸裂する火炎弾』より『手榴弾の性質を持つ火炎弾』をイメージして放つほうが威力が上がる。

 そしてそれは文字面だけでは意味がない。

 だから、『核兵器のような火炎弾』をイメージしたところで、それを実現した魔術は放ち得ない。

 ヴァルハラででもいい。その兵器の見た目、感触、威力、原理、特性を目で耳で肌で直接に実感しないと再現はできないのだ。

 実際に実感したそれをそのまま思い出し用いる。その感覚があってこそ強力な魔術が行使できるのだ。

 その点陽子はすごい。なんとこのためにビルの解体工事を見学に行ったのだそうだ。ダイナマイトを実感した彼女は、他にも色々と見て回っているらしく強力な魔術が行使できる。

 ただ、彼女いわく魔術でやるとどう頑張っても本物より弱いらしい。

 これはおそらくそんな調子であらゆる強力な兵器を体感してウィザードが最強になるのを防ぐため、ヴァルハラが威力にセーブを掛けているのだと思われる。

 それでも強すぎる彼女の火力は、多用ができない。ダイナマイトに限らず、ある一定以上の威力を求める魔術は皆そうだ。

 発動に条件が課せられたのである。

 もっとも、それを満たすことが難しいわけではなくハイリスク・ハイリターンが過ぎるために使いどころが難しいだけだ。

 条件とは、『魔法陣』の布陣。

 魔法陣は本人が望めば勝手に現われてくれる。もちろん自ら手書きで書いてもいいが、それは単に無駄な労働。

 手をかざして出ろと念じれば手の前に広がり、あるいは足元に布陣される。それだけでいいのだ。

 だが、一つ問題がある。

 魔法陣が効果を現わすには、プレイヤーは動きを止めなくてはならないのだ。 つまり、条件をわかりやすく言い換えれば『立ち止まること』なのである。

 立ち止まる一瞬で魔術が放てればいいが、そうはいかない。発動にはどうしても一、二秒ほど掛かってしまう。

 隙を作ってでも威力を取るか、隙を最大限なくして威力はあきらめるか。

 その選択がウィザードスタイルに求められる。別にどちらの選択のほうがいい、という事はないのだが。

 陽子は基本的に後者を取る。彼女の多彩な魔術を用いればそもそも威力に頼る必要がないからである。

 変則的に過ぎるウィザードを真の意味で使いこなしているのは、陽子だけだと私は思っている。

 そして今、彼女は立ち止まって最大火力で魔術をぶっ放しているはずだ。私に退避しろといったのはそれに巻き込ませないためである。

 私は勝手ながら慎也くんの負けを確信していた。彼のヴァルハラ知識は驚くべきものがあるが、同時にそのせいでウィザードにあれほどの威力を出せるとは思わないはずだからである。

 と、ウインドウが私の手元に現われた。回線が開き、通信が入る。

 どうしたのかと私は足を止めてウインドウを注視した。ヴァルハラの通信はテレビ電話まがいの通信と音声のみの通信と選ぶことができる。これは音声のみのものだった。

 なかなか喋りださない。声を掛けようかとした矢先に何か聞こえた。


『……、………』


 ノイズがひどく、とても聞き取れるものじゃなかった。だがそのノイズが収まると、かすかだが荒い息が聞こえてくる。


「陽子? どうしたの?」


 思わず掛けた声には、途切れがちの弱々しい声が返された。


『伊織……ゴメンね……』


 私は硬直する。何を謝るのだろうか。それを問いただす前に回線が途切れる。

 私は思わず叫ぼうとしてしまった。その衝動を押さえ込み、こちらから陽子を呼び出す。

 つながらない。つながらない。つながらない……。

 胸の奥底に重いものを飲み込んだような、嫌な感じが膨れ上がる。

 空からもはやその存在を忘れていたスクルドの可憐な大音声が響き渡った。


「プレイヤー陽子、アウト! 存命選手三名!」


 がつん、と頭を殴られたようだった。私の思考は一撃で白紙になり、何も考えられない。

 アウト。つまり彼女は致命傷を負ったということ。それはリバイバル回数が尽きたか、もしくは即死するような急所をやられたということを意味している。

 信じられなかった。彼女が負けるなんてこと、考えてもみなかった。

 彼女はそう感じさせるほどの技量を持っている。なのになぜ負けてしまったのだろうか。

 いや……そうか。

 もしかしたら彼らは二対一に持ち込んだのかもしれない。私をこうやって戦闘区域から引き離し、その隙に彼は戻ったのだろう。

 面白くない戦術だ。だが……、確かに有効な戦術である。

 またそれに引っ掛かった私はもっとも莫迦だ。

 あの時に見逃さず倒しておけば、こうはならなかったのだろうか。

 考えても仕方がない。私は深呼吸し、薄汚い裏路地の地面を蹴る。

 屋上に上がり、未来都市の破壊が激しい方向に向かって跳んだ。まるでミサイルでも落ちたのかというくらいひどい有様である。

 銃剣を構えて跳んでいると、煤で汚れた白っぽいエインが遠くに見えた。慎也くんだろう。

 彼は私に目を留めると、長剣を構えた。私はビルでワンクッション置いて彼の前に着地する。


「うぃっす、こうして戦うのは初めてだな。早速行くぞ!」


 長剣を上段に構えて斬り掛かってきた。私は銃剣でその斬撃を流し、踏み込んで彼の胸ぐらをつかむと両足を後ろから払って転ばせる。胸の鎧にちょうどいい隙間があって助かった。

 銃剣を返し、倒れた彼を串刺しにしようと突き下ろす。


「ぬぅわぁっと!」


 彼は悲鳴を上げつつも冷静に体を転がして私の突きをよけた。彼は手を突いて素早く立ち上がる。

 彼は長剣を薙いできた。私は銃剣で払いそれを防ぎ、踏み込む。右手を腰にやってナイフを引き抜き、同時に彼の胴に叩き込んだ。

 ……つもりだったが、慎也くんはギリギリで拳銃を取っており、私の斬撃はその拳銃を叩き斬っただけだった。

 彼は銃身が真っ二つになり使い物にならなくなった拳銃を捨てて飛び退き、間合いを取る。


「うぉゎぁぁ、危機一髪」


 エインなのに額を拭うポーズなんて取っている。おどけた人だ。


「まだきみの危機は去っていないけれど?」


 でも容赦しない。

 私は銃を向けて撃った。彼は慌てて身を反らし、また長剣で弾く。私は構わず可能なかぎり早く連射。

 撃ちながらじりじりと間合いを詰め、機を見計らって一気に踏み込む。

 長剣を銃剣で払い、さらに片足で蹴ってすぐには構えられなくする。その上で彼の懐に滑り込むと、銃を取り回し彼の顎に銃口を向ける。


「ゴメン」


 言って、撃つ。下方からの銃撃に彼は顎から頭蓋までを貫かれ吹き飛ばし、即死する。リバイバルを許されずアウトさせられた。騎士の体が掻き消える。

 先程までの戦闘の残響が少しずつ薄れて消えてゆく。途端に今自分が独りであることを痛感し、変な虚しさを感じた。

 友達を倒すのはあまりいい気分のモノではない。やはりヴァルハラはNPCエインを倒すだけのほうが健全だと思う。


「プレイヤー慎也、アウト! 存命選手二名! 一騎討ちね、双方頑張れ!」


 他人事に思ってるのが丸分かりの可憐な大音声が響き渡る。ここまであからさまだと怒る気になれない。

 だが、確かに彼女の言う通り……、


「残ってるのは、私ときみだけ……ね」


 私は低く呟いた。

 銃剣を構える手に力を込め、私は遠くに見えるバベルの塔……シンボルタワーを見上げた。


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