*姉の妄想
「彼、カッコイイわね」
「え? ああ、うん。そうだね」
家への帰路、車の中で姉が助手席で発する。
「よくあんなカッコイイの捉まえたわね」
「……偶然だよ」
どうも姉の言い回しは首をひねるものがあるがスルーした。
「で、どこまでいったの?」
「!?」
予想だにしなかった問いかけに、ハンドルをとられて危うく事故りそうになった。
「ちょっと! 危ないじゃない!」
「ご、ごめん……そんなこと言うから」
「あら、違うの?」
「今まで俺にそんな素振りあった?」
「可愛い弟を変な女に取られるくらいなら彼のような男性に寝取られた方がいいわ」
「どういう論理?」
さらりと今とんでもないこと言ったね姉さん……時弥は呆れて溜息を吐き出した。寒い冬空に心まで寒くなったような気がして生ぬるい笑みを浮かべる。
──家に到着し、時弥はようやく落ち着く事が出来た。リビングでこたつに潜り込みバラエティ番組のかかっている液晶テレビを眺める。
こたつの上に置かれているみかんに手を伸ばし皮を剥くと、無言で向かいにいた父が手を差し出した。
「……」
時弥はその手に皮を剥いたみかんを乗せて再びみかんを手に取る。
年末らしい時間を過ごしカウントダウンの様子をテレビで見つめて年を越えると家族で「あけましておめでとうございます」と挨拶を交わした。
「行くよ」
おもむろに姉が立ち上がり時弥を見下ろす。
「行くって……どこに」
「初詣」
「こんな時間から?」
「こんな時間だからでしょ」
茜は白いコートを着こんで時弥のオーバーをハンガーから外し手渡す。
「……」
相変わらず俺に選択権は無いのね。と小さく溜息を吐いてオーバーを受け取り立ち上がった。