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3 アウリス様に殺される

「それが、私の感情が共有されてからアウリス様が変なんですよ」


 困ったように言う私にマリア姫とソフィーの瞳が輝いた。


「やっぱりアウリスはミユールのことが好きだったのかしら?」


「違います。私の感情が気持ち悪い、いい加減にしてくれって1人で怒っていました。すごく怖いんですよ」


 私は巻き込まれただけなのにアウリス様に勝手に言いがかりをつけられて思い出すとイラっとしてくる。

 私は何も悪くない。

 マリア姫はニヤニヤ笑いながら机の上で頬杖をつきながら頷いている。


「あーなるほど。アウリスが怒るとか面白いわね。見てみたかったわ」


「顔が整っていて魔法騎士様だから迫力がすごいんですよ。殺されるかと思いました。フランシス様がとりなしてくれてなんとか逃げて帰ってきました」


 額の汗を拭っている私にソフィーが冷たいお茶を出してくれる。

 マリア姫様の机の上にも彼女のお気に入りの紅茶を置いてソフィーは頷いた。


「普段無関心な人が怒ると怖いものね。でも私も見てみたかったわ」


 他人事だと思っていい加減なことを言うものだと私はため息をついた。


「アウリス様が魔法を解除する方法を生み出すまで私はなるべく平穏に生きようと思います」


 私が宣言をするとマリア姫は興味なさそうに頷いて回収してきた書類に目を通してサインをした。

「せいぜい頑張りなさいな。ミユールには難しいと思うけれど」


「大丈夫です頑張ります」


 マリア姫は顔をあげて私に美しい笑みを見せる。


「いいことを教えてあげるわ。その魔法ね、死ぬまで消えないそうよ」


「えぇぇ?嘘ですよね、嘘って言ってほしいです」


 だから禁忌になったのかと絶望的な気分になり私は悲鳴をあげた。

 マリア姫は面白そうに笑いながらも溜まっていた書類にサインをしていく。

 仕事を始めた姫様をみて私も書類の整理をしようと力なく机に向かったところでドアがノックされた。

 マリア姫の執務室へやってきたのはフランシス様だ。


「何か事件でもあったかしら?面白い話なら聞くわよ」


 マリア姫がニヤリと笑ってフランシス様にいうと、彼は困ったように私を見る。


「面白い話じゃないんだけれどさぁ、アウリスの頭がおかしくなりそうなんだよ。ミユール嬢さっきから感情豊かに過ごしていない?」


 控えめに言われて私は首を振る。


「とんでもないですよ。気をつけて過ごしていました」


「いいえ、怒ったり驚いたりしていたわよねぇ」


 私の声に被せるようにマリア姫が口を挟んでくる。

 確かに少し驚いたかもしれないが、禁忌の魔法の話を聞かされれば誰だって驚くだろう。

 フランシス様は軽くため息をつく。


「やっぱりな。ミユール嬢の感情がアウリスに伝わって、あいつかなりイライラしていてさ。このままだとやばいから平穏に過ごしてほしいんだよ。研究にも影響しているようだ」


「私だって困っていますよ」


 私には何も影響はないが、感情が共有されているのは気持ちがいいものでない。

 マリア姫は面白そうに微笑んでいる。


「ミユールはきっとアウリスに殺されるわね」


「そんな物騒なことを言わないでくださいよ」


 まさかそんなこと起こらないだろうと私は首を振った。

 フランシス様は頷いている。


「ありえるな。アウリスの頭がおかしくなりそうだから。自分以外の感情が流れてくれば誰だって嫌だろうが、他人に関心がないアウリスだからな」


「他人に興味なければ感情が流れて来ても無視しているんじゃないですか?」


 私が聞くとフランシス様は肩をすくめた。


「そう思うよね?でもあいつイライラして胸を抑えて今にも爆発しそうな感じだよ。あんなアウリス初めてみた」


 あははっと声をあげてフランシス様は笑った。

 私はとても笑える気分ではない。


「そうね。ミユール、殺されないように気をつけなさいよ」


「そんなこと言わないでくださいよ。不安になるじゃないですか」


 アウリス様と同じ黒い騎士服を着ているフランシス様をゆっくり見つめる。

 彼の腰にある銀色の剣が目に入った。

 我慢できなくなったアウリス様があの剣で私を斬り殺すかもしれない。

 絶対にありえない妄想とは思えず不安で呼吸が苦しくなる。

 様子を見ていたソフィーが私の前で両手を振った。


「ほら、不安になるとアウリス様が殺しにくるわよ。深呼吸をして感情を平坦にしないと」


「そうだった」


 大きく息を吸って吐いてを繰り返して不安な心を落ち着かせる。

 深呼吸をくり返して気分を落ちつけて私はフランシス様に視線を向けた。


「大丈夫です。平穏に過ごしますから、絶対にアウリス様には魔法の研究を頑張ってくださいと伝えてください」


「ミユール城に言われなくてもアウリスは死に物狂いでやっているよ。だけれど一つ最悪のことを伝えないといけない」


 真剣に言うフランシス様にマリア姫がニヤリと笑う。


「ふふん、禁忌の魔法を解除するにはどっちかが死ぬしかないってこと?」


 フランシス様はギョッとして頷いた。


「そ、そうです。ご存知でしたか……」


「私を誰だと思っているのよ。さぁ、面白いことになってきたわねぇ、アウリスはいつミユールを殺しにくるかしら」


「やめてくださいよぉ」


 マリア姫がいうと冗談に聞こえない。

 私は心底不安になっていることに気づいて首を振った。





「うっぅ……」


 その日の夜、私はうなされながら目を覚ました。

 夢の中で怒り狂ったアウリス様が私を斬り殺す夢だ。


「……リアルな夢だったわ」


 アウリス様は無表情に剣を抜いて私を正面から切りつける夢だ。

 日中にアウリス様らしくない言動を見たせいで不安感から悪夢を見たのだ。

 マリア姫から禁忌の魔法を詳しく聞いたのも良くなかった。

 恋人同士でも殺し合いになる可能性があるのに、興味がない人の感情が共有されれば殺したくなる気持ちもわかる。

 ましてや普通の人ではなく魔法騎士なのだから。

 魔法の訓練と騎士として剣の訓練を欠かさず行っていることは知っている。


 躊躇なく人を殺すことだってできるはずだ。


 田舎から出て来て数年。

 コネで城で働くことができマリア姫の専属侍女にまで頑張ったのに訳のわからない魔法の事故が原因で命を取られるのかと悲しくなってくる。

 いっそのこと田舎に帰ろうかと思ったが、今更帰るのも嫌だ。


 何もない田舎、早く結婚しろという両親、兄は昨年結婚して家業を継いでいる。

 田舎に帰ったところで自分の居どころがないことが想像できてため息をついた。

 男爵家と言っても田舎すぎて権力も何もなければいい縁談話も来ない。

 このままマリア姫の侍女として暮らしていくのも悪くないと思っていたのに、禁忌の魔法でアウリス様と契約が結ばれてしまい今後どうなるのだろうか。

 右手首の内側に浮き出ているアザをそっと見る。

 一晩経てば消えているのではないかと期待をしたが、くっきりと浮き出ている。


「あぁ、困ったわ」


 

 


 

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