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13  アウリス様のお屋敷へ

「……本当に来ちゃった」


 城と同じぐらい煌びやかなアウリス様のお屋敷の一室で私は呟いた。

 大泣きした次の日にはアウリス様はお屋敷へと招待してくれた。

 犬を亡くして心を痛めている私と同じ気持ちになっているのが辛いのだろう。

 気を紛らわそうとしてくれているのはわかり、やっぱり優しい人だと思う。

 そのアウリス様は現在姿が見えず、私の前に座っているのはアウリス様と同じ顔をした美しい御婦人だ。

 アウリス様のお母様が私のお相手をしてくれている。


「まぁ、まぁ。あのアウリスが女性を招待するなんて、奇跡だが起きたわ!ねぇ、フェルナン」

「本当でございますね。奥様」


 アウリス様のお母の伯爵夫人が実家から連れてきたという執事がお茶を入れながら頷く。

 アウリス様と違いお母様はニコニコと微笑んで私にお茶を勧めてくれた。


「さぁ、色々お話を聞かせてちょうだい。アウリスとはどうやって知り合ったの?あの子少し変でしょう?毎日魔法ばっかり、子供の時から魔法魔法、頭がおかしくなるわよ」


「知り合うというか、仕事でお世話になっているだけで……。今回は、実家の犬が亡くなってしまって。そうしたら犬を見せてくれると言って下さりお邪魔をしてしまいました」


 庭先で犬を触らせてくれるぐらいかと思ったが、まさか客として迎え入れてくれるとは思わず私は萎縮する。

 縮こまっている私にアウリス様のお母様は青い瞳を見開いた。


「まぁ、ご実家の犬が亡くなったの?それは辛いわね。あのアウリスが人の痛みを理解することができるなんて、フェルナン今日は記念日よ」


「そうでございますな。奥様」


「それで、アウリスとはいつ結婚をするの?時期だけでも決めておかないと、準備をするのが大変でしょ」


 まさかの言葉に私は飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。

 咳き込むことをなんとか乗り越えて首を左右に振った。


「とんでもございません。私なんかがアウリス様となんて考えたこともございません」


 心の奥底ではできたらいいなーとおもうが身分が違う。

 貧乏男爵家の私と伯爵家のアウリス様と結婚ができるはずない。

 それもエリート魔法騎士だ。

 必死に首を振る私に伯爵夫人はニコニコとしたままだ。


「あのアウリスと会話が続く女性なんてミユールちゃんぐらいなのよ。身分とか気にしているのならそんなの我が家は関係ありませんからね」


「は、はぁ」


 なんて答えていいか分からず困っているところに、アウリス様が部屋に入ってきた。

 相変わらずの無表情だが私と向かい合わせに座っている伯爵夫人を見て一瞬眉を顰める。


「余計なことを言っていないだろうな?」


 どちらにいった言葉か分からず私は反射的に首を振ってしまう。


「言ってませんよ」


「お前じゃない、母上だ」


 厳しい瞳を向けられても伯爵夫人はさらりと受け流してお茶を飲んでいる。


「好きな子をお前って呼ぶような息子で、母は悲しいわ」


「……好きな子……」


 絶対に違うと思いながら思わず私とアウリス様が呟くと伯爵夫人は目を輝かせた。


「あら、気が合うのね。2人同時に呟くなんて」


 アウリス様は母親と話すのを諦めたのか私に視線を向けた。


「我が家の犬だ」


  アウリス様が言うと空いたままのドアから茶色の犬が二匹部屋に入ってきた。

 一匹は中型犬で、もう一匹は小型犬だ。

 どちらも毛がふさふさしており、中型犬は我が家にいた犬とそっくりで私は声を上げた。


「わぁ、この犬そっくりです。可愛い」


 懐かしさが込み上げてきて椅子から降りて犬に手を伸ばす。

 しかし犬わ私に興味を示さずアウリス様の足元でウロウロしている。

 アウリス様に撫でて欲しいとアピールしている犬は私のことは無視だ。


 実家の犬は私の姿を見るとすぐに飛びついてきたのに。

 同じ見た目をしている犬なのに、無視されている状況にがっかりしてくる。

 そんな気持ちが伝わったのかアウリス様は犬を引き連れたまま私の側まで来た。


「触っていいんですか」


 ワクワクしながら聞くとアウリス様は無表情に頷いた。

 茶色い中型犬の犬はアウリス様を見上げたままだが私がそっと尻尾に触れると存在に気づいたのか振り返った。

 私を認識すると犬は尻尾を振って撫でてくれとしゃがんでいる私の足に頭を押し付けてくる。

 犬が寄ってきてくれたことに感激をしながら恐る恐る両手で犬の頭を撫でた。

 実家にいた犬と同じフワフワした毛を撫で回す。

 犬も嬉しそうに尻尾を振ってされるがままになっている。


「可愛いー。名前はなんていうんですか」


 私が聞くと伯爵夫人が答えてくれた。


「その犬はリオよ。こっちの可愛い子がノアちゃんよ」


 小さい犬のノアはいつの間にか伯爵夫人の膝の上に乗っている。

 実家の犬を思い出しながら私はリオに抱きついた。


「可愛い」


 自分の生活の中に犬が居たらどれだけ幸せなことだろう。

 実家の犬とお別れすることができず落ち込んでいたが、少しだけ気分が持ち直してくる。

 わしゃわしゃと犬を撫で回している私をアウルス様は無表情に見下ろしていたが突然胸を抑えた。


「どうしました?」


 私は今何も考えていない。

 むしろ嬉しいなと思っているのに、不思議そうな顔をしている。


「いや……」


 アウルス様は不可解な顔をした後に、なぜか自分で納得したようだ。

 自分の胸を何度か撫でた後、小さく呟いた。


「あぁ、そういうことか……」


 全く意味がわからないが、私の感情のせいではないようだ。

 いつも無表情でわかりにくいが、怒っているわけではないようだ。

 自分で納得しておいてその後困惑している様子を横目で見ながら私は犬を撫で続けた。

 わしゃわしゃと撫でている私を伯爵夫人は微笑みながら見つめている。

 そしてアウルス様に声をかけた。


「……アウルス。話を進めようと思うの、いいわね」


 なんの事かわからないが妙に緊張感がある言い方をする伯爵夫人にアウルス様はかすかに眉を上げた。

 なぜか全てが腑に落ちた様子のアウルス様は頷く。


「母上のお好きなように」


「自分の事でしょう、いいのね。私はやると言ったらやるわよ」


 なぜか喧嘩が始まりそうな強い口調の伯爵夫人驚きながら様子を見守っているとアウルス様は諦めたように頷く。


「構わない。母上の言う通り、この世には偶然はないようだ」


 何の話かさっぱりわからないが、それを聞いた伯爵夫人は満面の笑みを浮かべた。

 その笑顔は美しく、きっとアウルス様も心から微笑めば美しいに違いない。

 いつかアウル様の笑顔を見て見たいと思った。



 

 

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