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「死んで国宝を返せ」と求められた少女。生き延びるため、国をひれ伏させる英雄を目指す  作者: 好きな言葉はタナボタ


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第4話 くま②

マー坊の叫び声が遠ざかるのを聞いて、クルチアは妙に気持ちが落ち着いた。 これでよし。 熊のエサになるのは自分1人でいい。 だが―


「簡単にエサにはならないわよ!」


凛々しい眼差しに苛烈な光を浮かべ、胸の前でノシメハナの篭手をガシンと打ち合わせる。 そして拳闘の構えへ。 左の手足を前に置き半身はんみの姿勢。 膝を軽く曲げて、体を小刻みに揺らす。


クルチアは緊張に乾いた唇をペロリと舐めた。


「ふふ。 巨大熊と素手で戦う馬鹿なんて私くらいじゃないかしら」


言ってるうちに熊が至近に迫った。 4足歩行のまま、クルチアめがけて右腕を振り回す。 パワフルで素早い。 直撃すれば体を吹き飛ばされ、爪が当たれば大惨事だ。


(クッ、でもかわす!)


熊の攻撃は速度は速いが、弧を描く。 拳闘の各種パンチに比べて大振りだ。 鍛えられたクルチアの目なら躱すのは可能である。 クルチアは攻撃を躱しざま、気合の呼気と共に熊の顔面めがけて素早いジャブを繰り出す。


「シッ!」


噛みつかれる恐れがあるから、素手なら怖くて顔を狙えない。 が、今クルチアの両手は竜鱗に守られている。


クルチアの鋭いジャブはドンピシャリで熊の鼻面を捉えた。


熊は悲鳴を上げて動きを止める。


「ウガッ」


獲物の思わぬ反撃に面食らった。 鼻から血を垂らしている。


             ✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩


このように出だしは好調だった。 しかし、その後の5分間の攻防で、両者の力量の差が明白となった。


熊は依然として鼻血を垂らすだけ。 クルチアのパンチ力では鼻にしかダメージを与えられない。 他の部分は厚い脂肪と筋肉、それに重厚な骨に守られている。


一方クルチアは満身創痍(まんしんそうい)。 直撃こそ免れているが、左の脇腹を少し食べられ、左の肩を引っ掻かれた。 左半身の衣服は血に赤く染まり、左腕は力なく垂れ下がっている。 肩をやられ腕が上がらない。 もうジャブを打てない。 小さな引っかき傷は無数にあり、衣服もボロボロだ。


ジャブを奪われ窮地に追い込まれたクルチアは、乾坤一擲けんこんいってきの一撃を狙う。


(こうなれば狙うは熊の口の中。 次に噛みついてきた時に―)


考えてるうちに、その時が来た。


「ガウッ!」


足が止まったクルチアに、熊が口を大きく開けて襲いかかってきた。 狙いは再び左の脇腹。 大量のヨダレを垂らしている。 さっき少し齧ったクルチアの脇腹の味に味を占めたのだ。 脇腹の肉は、赤身の柔らかさと脂身の旨みを兼ね備えるという。


「ふんッ!」


気合の鼻息と共にクルチアは、ノシメハナの篭手に包まれる右手を熊の口の中に突っ込んだ。


(お願いノシメハナ!)


竜鱗が熊ごときの牙に噛み砕かれるはずはない。 だがもし篭手が期待通りの硬さでないなら、クルチアは手首から先も熊に食べられてしまう!


             ✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩


熊は口の中に突っ込まれたノシメハナの篭手を噛み砕こうとする。 クルチアは生きた心地がしない。 自分の右手の辺りからガチガチと恐ろしい音が鳴り響く。


篭手を噛み砕けぬと知り、熊は顔を振ってクルチアの右手を口の中から吐き出そうとした。 しかしそれをクルチアは許さない。 これが唯一の勝機なのだ。


「うおぉおー!」


クルチアは雄叫びを上げ、右手を熊の喉の奥深くに突っ込んだ。 右手は握っていない。 拳ではなく貫手ぬきてである。 鋭く尖るノシメハナの篭手の先端は、熊の喉の奥へズブズブと突き刺さった。


「ウオッ、ウオッ」


熊は苦悶の声を上げ、口の端から血まみれの涎を大量に垂れ流す。 篭手の爪が喉に多数存在する血管を傷つけた。


             ✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩


そこからのクルチアと熊の戦いは、まさに血みどろの死闘だった。 クルチアは左腕を使えず、出血多量でフラフラ。 熊は傷つけられた喉の負傷と出血により、呼吸困難とショック状態。 動作が明らかに鈍く、ヨロヨロしている。


両者は共に頼りない足取りで戦い続けたが、やがてズシーン。 熊は呼吸困難が極まり、窒息して倒れた。


クルチアは呆然とその場に立ち尽くす。


「ハァハァ。 熊... 死んだの?」


出血多量で呼吸は荒く、頭がぼーっとしている。


どれだけそうして立っていただろうか、横合いからクルチアに声を掛ける者がいる。


「クルチアちゃん、そのクマ死んでるのかい?」


シンゴだった。 後ろにマサヒロもいる。 クマの姿が見えなくなって十分な時間が経ってから、恐る恐る樹の上から降りてきたのだ。


「わかんない」


「俺、ちょっと村に知らせてくるよ」「俺も」


シンゴとマサヒロは血まみれで意識が朦朧とするクルチアをその場に残し、村へ向かって駆けていった。


「もう...」 ハァハァ 「大丈夫だよね」


クルチアはクマが死んだことにして、その場にへたり込んだ。

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