第2話 住所・氏名・年齢・職業を記入しなさい
衛兵は、竜鱗に包まれるクルチアの両手に強い視線を注ぐ。
「君、篭手を岩から引き抜いたのか?」
「そーなんですっ!」
クルチアは少し不安になり確認を求める。
「私が貰っちゃっていいんですよね?」
衛兵は事務的に応じる。
「手続きがある。 一緒に来てもらおう」
手続き? ちょっぴり不安になりながら、クルチアは衛兵の後に続いて部屋を出た。
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クルチアは城の奥にある事務室に連れて行かれた。 衛兵は事務室にいた事務員に告げる。
「篭手の適合者が現れた。 連絡を頼む」
事務員は驚いた顔になったが、速やかに事務室を出ていった。
どこに何を連絡するの? 疑問に思うクルチアを衛兵は椅子に座らせ、書類の記入を求める。
「ここに住所・氏名・年齢・職業を記入しなさい」
「えー、どうしてですか?」
身元を明かすのを躊躇うクルチアを衛兵は面倒くさそうに促した。
「いいから早く書いて」
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「書けました」
クルチアが告げると、衛兵は用紙を手に取り記入事項を確認し始めた。
「名前はイナギリ・クルチア。 住所はノシメハナ郡カスミ村... 君は高校生なのか?」
「はい」
「女子高生が篭手を何に使うんだね?」
「えっと、鑑賞っていうか...」
「カンショウ?」
「眺めて楽しむことです」
「要するに使わないんだな?」
「いえ使わないのではなく鑑賞します。 装備したりも...」
「戦闘には使わないんだろう?」
「まあ、そうですね」
拳闘の試合や練習にも使えない。 このように硬い物で殴ると相手が怪我をする。
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そのとき、誰かが事務室に入ってきた。
「やあ君かい? 篭手を引き抜いたという女の子は」
クルチアは声の方を振り向いた。 衛兵とも事務員とも違う、良い身なりの男性だ。 年齢は20代半ば。 黒髪、黒目。 頬に余分な肉が無いスッキリした顔立ち。 頭髪は小ざっぱりと切り揃えられ、清潔感に溢れている。
衛兵が驚きの声を上げる。
「殿下!」
察するに、この男性はノシメハナ王国の王子らしい。
「その篭手を私にも見せてくれないか?」
クルチアは渋々とノシメハナの篭手を差し出し、王子はそれを受け取った。
「これがノシメハナの篭手か」
そして試着しようとしたが、篭手に手が入らなかった。
「やはりダメだな」
王子は苦笑しながらクルチアに篭手を返し、クルチアの個人情報が書かれた用紙をテーブルの上から取り上げた。
「イナギリ・クルチアか。 良い名前だね」
「どおも」
「この篭手をどうするつもりだい?」
「...愛でる予定です」
ちょっと言い方を変えてみた。 実際、"鑑賞する" より "愛でる" のほうがしっくりくる。 撫でたり抱きしめたり頬ずりしたり、もちろん装着したりもするのだから。
意外にも王子はクルチアの意向に理解を示した。
「あるいは、それがこの篭手の望みかもしれないな。 だから君を所有者として認めた」
「じゃあ、この篭手を私が貰っても...」
「無論だ。 篭手は君を選んだんだ。 それにそのサイズじゃ、もう大人の男の手は入らない」
クルチアは感激のあまり篭手をギュッと抱きしめる。 篭手の爪が、クルチアの白い喉をチクリと刺す。
「ありがとうございます!」
「だが願わくば、この篭手を戦闘に使って欲しい。 もしも強力なアーティファクトなら、愛でるだけでは国家的な損失だからね」
そう言い残して、王子は事務室を出ていった。




