第11話 私を捕まえたいんでしょう? 捕まえるといいわ
「やむを得ん」
ヒョウゴノスケがクルチアを庇うように前に進み出て、長剣をスラリと鞘から抜き放つ。 美しい銀色の刀身が月の光を反射して冴え冴えと輝く。 ヒョウゴノスケの剣は、イロハより下賜された剣。 戦闘貴金属ミスリルで出来ており、鋼鉄の鎧など簡単に切り裂く。 捕縛部隊はミスリルの剣とヒョウゴノスケの剣の腕前を恐れて、間合いの外で近づきあぐねる。
「ううっ、クズキリと戦うだと...?」「ちっ、厄介な」
「何をしとる。 後ろに回らんか!」
マサムネは隊員を怒鳴りつけながら率先してヒョウゴノスケとクルチアの背後に回り、その後に半数の隊員が続いた。
そのマサムネの前に、イロハが立ちふさがる。 手にはミスリル製の長剣が握られている。
「兄上、お考え直しください。 アーティファクト1つを巡って国を分裂させるなど愚劣の極み」
「それはこちらのセリフだ!」
叫び返しながら、マサムネも剣を抜いた。 刀身の色は金色。 戦闘貴金属エテルニウムを素材とする剣だ。 ノシメハナ王家に代々受け継がれる宝剣であり、今は長子であるマサムネが所有する。 エテルニウムは至高の金属。 ミスリルよりも硬くて希少。 エテルニウムの刃は大岩を豆腐のように貫く。
イロハは覚悟を決めて、剣を握り直す。
「くっ、もはや戦うしかない」
剣の腕前でも佩剣の格でもマサムネに劣る。 勝ち目は薄いが、せめて相打ちに持ち込みたい。 そうすればヒョウゴノスケがクルチアを落ち延びさせてくれよう。
✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩
今にも骨肉の斬り合いを始めようとする異母兄弟マサムネとイロハ。 その2人の間に、クルチアの声が割って入る。
「待って! 待ってください」
クルチアが声に込めた意志に無視できないものを感じて、マサムネもイロハもクルチアに目を向けた。 クルチアは凛々(りり)しい目で2人を見返しながら、思うところを述べる。
「お二人が戦う必要はありません」
マサムネもイロハも怪訝な表情。
「どういうことだ?」「何を言っている?」
「イロハ殿下は ―クズキリ殿も― 退いてください。 私が原因でノシメハナ王国が分裂するなどあってはなりません」
自分が原因となった内紛のせいで母国がベンガラ帝国に敗北するなど耐えられない。
「わかっているのか? 私が戦わねば君は捕まり―」
イロハの言葉をクルチアは一際大きな声で遮り、捕縛部隊に語りかける。
「私を捕まえたいんでしょう? 捕まえるといいわ。 ただし―」
クルチアは言葉を止め、凛々しい眼差しで捕縛部隊の面々を眺め回す。
「ただし、ただでは捕まらない。 私は熊殺しイナギリ・クルチア。 私を捕まえたければ、死ぬ気でかかってきなさい!」
そう言い放って、胸の前で竜鱗の篭手をガシンと打ち合わせた。




