6話 外出と魔術具
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礼儀作法の確認が終わり、数日経って屋敷の門前に僕はいた。
今日はようやく屋敷の外に出る。
初めて外出する僕にはダニエラ以外に人が付くことになった。
1人目はアルバロの息子でダニエラと同い年らしい、ベニート。
ひとつ気になる点があるとすれば、アルバロと同じ赤毛で似た顔つきに緊張した顔は似合わないことだな。
2人目は騎士のペドロ・ドラード。
茶髪に革鎧、剣を装備した父様よりも小さいが大きい人だ。
ここにダニエラが加わって4人で街へ向かうことになった。
「ベックス様、我々の言うことをしっかり聞いてください」
「はい」
「ダニエラと手を繋いでください」
「はい」
「どこに向かいますか?」
ペドロから聞かれるが、そもそも知らないからどこも何もない。
「街を適当に歩きます」
「分かりました」
ペドロは門を開いて、僕を先に促して後ろを歩き始めた。
護衛って面倒なんだろうな。
ベニートは隣にいて緊張し、落ち着かないように見える。
初めましてで護衛やお守りをするわけだから、簡単じゃないか。
ダニエラ以外、不安の残る人たちと僕は初めて外に出かけた。
ムリーヨ家の領地ボリーキン。そこで最も栄えている屋敷のある街ラスモント。
門が開かれて、外に出ると土がむき出しの道と空き地が広がっている。
他の貴族が来るなら、ここだけでも舗装した方がいいと思うが、それよりも優先することはあるんだろう。
「おはようございます!」
「お、おはようございます!」
後ろからの声に振り返ると、威圧的な鎧を身に着けて、槍を持っているふたりがいる。
門衛だと思うが、平民から嫌われそうなくらい威圧的な鎧だ。
腹筋の造形、両肩の狼みたいな肩当、兜は熊みたいなのを模している、威圧感十分だ。
貴族はもっと派手な鎧を着るのか?
「おはよう!」
手を振りながら挨拶をすると、振り返してくれる。
問題ないのかそれは?
ただ、その対応から結構平和なことが分かった。ピリピリしていたら手を振り返さないだろうし。
屋敷の近くにある空き地を抜け、2階建ての建物が並ぶ道に入っていく。
人通りが増え、僕を見ているのが分かる。
父様たちは平民とどういう付き合いをしてるんだろう。
「ベニート、近くには何がありますか?」
「この道を進んだ先には農地が、左手側には牧場があり、その途中に騎士の武器を作る店や魔術具の店があります。右手側には住宅があります」
「左に行こう」
「はい」
大きな道を曲がって進むと、店が並ぶ区画に着いた。
武器、魔術具、ほかにも服や毛皮を売っているようだ。
今回は僕の心配性を少しでも和らげるために、魔術具を買いたいと思っている。
買えるかは分からないが。
「魔術具の店に入ろう」
店はそこそこの大きさだが、商品は棚に固定して取れそうにない。
持ち逃げされるから固定してるのだろうな。
「店主、こちらにいるのはベックス・ムリーヨ様だ」
「おお、レイシャール様の子供ですね」
「はじめまして、ベックス・ムリーヨです」
「おおぉ、ご丁寧にどうも。店主のパンチョと言います」
アルバロと歳が同じくらいのガリガリの店主だ。
ローブを着た魔術師という見た目をしているのは、分かりやすくていい。
それに人当たりもよさそうだ。
「ベックス様、商品を見ますか?」
「はい、パンチョ。見せてもらえますか?」
「分かりました」
パンチョは机にいくつかのアクサリーと小さな杖を置き、大きな杖を立てかけた。
見たことなかったが、これらが魔術具のようだ。
「第1階梯の魔術が使えるのは指輪と腕輪です。第2階梯からこの小さな杖になります」
魔術具には魔術を発動するための図形、絵、記号が刻印されていて、刻印魔術とも呼ばれている。
ただ、この魔術具を使うのですら、最初は詠唱をする必要があるらしい。
魔術って便利で面倒だ。
「第4階梯以上の魔術はこちらの杖になります」
「どうして急に杖が大きくなるんですか?」
「刻印の数が増えるからですね。そうは言ってもこの杖の大きさになると3つくらいは刻印できます」
「そうですか。触ってみてもいいですか?」
「はい」
指輪と腕輪を手に取って、じっくり眺めていく。
見た目はとてもシンプルだが、触った時にざらつきも無い。
アクセサリーとしても普通に使えそうだな。
「腕輪で自分の声を大きくする魔術具はありますか?」
「ないですけど、作ることはできますよ」
「本当ですか⁉ どのくらい声を大きくできます?」
「ベックス様の屋敷からここまで声が届くようにできます」
「! それを作ってください」
「ベックス様」
ベニートが口を出してくる。
しかし僕にとって、これはとても重要なことだ。
「なに?」
「以降の交渉は私が行います」
「え? 交渉あるの?」
「はい、貴族相手に割増料金を請求するのが王都では流行っておりましたから」
「そんなことしません!」
パンチョは心外だと声と態度で示すが、ベニートは気にした風もない。
ずいぶんと慣れているように見えた。
パンチョにとても失礼だが。
「よく分からないけど、普通に買ってくださいね」
「はい」
心配性を落ち着かせるための魔術具は拡声器だ。
これを持つと、僕は助けを求める手段を得る。
人がいない場所で襲われたらダメだが、人のいない状況はほぼないと思う。
外に出るだけで、3人が付くくらいだからな。
話を終えたことをベニートが知らせてきて、店を出た。
「どこに行きますか?」
「牧場!」




