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32話 お披露目会と光の魔術

 大広間には多くの貴族たち、その中に父様の顔も見える。

 軽く会釈して僕はお立ち台に歩き出した。

 お立ち台までの途中、大人の爵位を示す腰巻がよく見え、そこで僕の身長が想像以上に低いと再確認してしまう。


 父様と母様は身長が高い方だから、僕もそのうち成長するだろう。

 台に着き、会釈してから上がり、胸を張る。自信ありそうな笑顔も崩さない。

 これは礼儀作法ではなく面子を考えてのものだ。


「私の義弟、レイシャール・ムリーヨ辺境伯の長子です。さ、自己紹介を」

「はい!」


 台の上で大広間にいる貴族たちを見渡す。

 子供たち7人の親以外にも、縁者が来ているのか13人以上いる。

 父様の心配そうな顔は見慣れているからか、僕にはひときわ目立って見えた。


「皆様はじめまして、辺境伯レイシャール・ムリーヨが長子、ベックス・ムリーヨと申します」


 挨拶をしながら、貴族がする礼をしていく。

 左手を胸の中心に当て、右手を開いて前に出す。左足はそのままに右足を後ろへ引いて、頭を下げる。


「5歳でお披露目となりましたけれど、こうしてゴドフレド様と同じ日にお披露目できたこと、嬉しく思います。ありがとうございます」

「いやぁ、素晴らしい挨拶だった、ありがとう」


 公爵様が笑いながら拍手をすると、参加している貴族たちが続いてくれる。

 父様の顔が誇らしげなのを見ると、僕の挨拶は問題なかったようだ。


 会釈をして台から下りようとしていると、公爵様に止められた。

 知らない風を装って逃げようとしたが、それは無理なようだ。


「少し待ってくれ。さあ、最後に得意な魔術、いや安全な魔術を発動してもらえるかな?」

「はい。光の魔術を。『発光体は電気、形状は球、指先で即座に光れ!』」


 発動のために魔力を操作していると、この魔術が蛍光灯くらいの明るさだったことを思い出した。

 だからといって、発動しないのは問題だろう。諦めて魔術を発動した。

 伸ばした指の先で蛍光灯と似た光の球体が出現する。


「光の魔術か?」

「明るいぞ」

「新しい光の魔術だ!」


 これは、諦めて発動できなかった方が良かったかもしれない。

 周囲の貴族たちの反応が予想以上に良いが、いい予感はまるでない。


 しかし、それを顔に出すわけにもいかず、思惑通りという顔をする。

 自信に満ちた顔が出来たのか父様を見て確認すると、満足そうに頷いていた。

 再度、礼をして僕は台を下りていく。


 子供たちの列に並ぶと、騒がしさが落ち着き、しばらくしてゴドフレド様が入ってきた。

 余裕のある面持ちで名前を呼ばれると、手を挙げながら答えている。


 スーパースターの風格を7歳にして持ち合わせているようだ。

 そんなゴドフレド様が挨拶を終えて、発動した魔術は火の魔術だった。


 指先からゆっくり宙に飛んだ火の球が、軌跡を残して弾けていく。

 小さな花火のような魔術だ。


 静まり返った大広間が自然と起こった拍手の音に包まれる。

 ゴドフレド様は手を挙げて、台を下りると僕の隣に来た。


「ゴドフレド様、素晴らしい魔術でした!」

「ハハハ、ありがとうベックス。見世物として魔術だけどね」

「いえ、素晴らしかったです。そのうち僕にも教えてください」

「分かったよ」

「ありがとうございます」


 僕は今まで襲撃を生き残ることばかり考えていたから、魔術に対して遊びの考えが少なかった。

 でも、この魔術を覚えて遊びながら理解を深めれば、新しい魔術の開発が上手くいくかもしれない。


 新しい視点が欲しかったから、遊びの魔術という良い対象を見つけた。

 これから魔術の勉強が捗りそうだ。


「さあ、子供たち。親の所に行き、お披露目のあいさつがどうだったか聞いて来なさい」


 公爵様の言葉に返事をすると、子どもたちは好きに動いて両親の所へ向かって行く。

 僕も父様の所に向かうと、笑いながら迎えてくれた。


「ベックス、挨拶、魔術どっちもすごかったな」

「よかったです」

「しばらくしたら、公爵様に挨拶して、他の参加者から挨拶を受けることになる」

「はい」

「今のうちに軽く食事をしておきなさい」

「はい」


 立食形式だから各テーブルには食事を取り分ける使用人が付いている。

 僕の身長よりも少し低いテーブルを見ていき、切り分けられたパンを見つけた。


「パンを4つ貰えるかな?」

「はい」

「パンに合うものはどこにある?」

「あちらのテーブルにあります」

「ありがとう」


 小さな皿に載せられた4つのパンは相対的に大きく見える。

 仕方なくパンを食べてから向かおうとしていると、視界の端にいつものスカートが入った。


「ダニエラ。お皿持ってて」

「はい。ベックス様」


 パンに合う肉料理を取り分けてもらい、ダニエラを連れて父様がいる場所に戻る。

 食事をしながら周りを見ていると、周りの貴族たちはこちらを窺っているようだった。

 恐らくは公爵様への挨拶をいつすればいいか窺っているのだろう。

 辺境伯家が行けば、それに続いて挨拶して、次は辺境伯にあいさつをするわけだ。


「ベックス、ゴドフレド様以外に仲良くなったのは、どこの子だ」

「バハモンデ男爵家のギジェルモです」

「服が茶色の子か」

「はい、魔術具がすきな面白い子です」

「いい相手だ。うちの隣の領だからな」

「他の人は父様知ってますか?」

「ああ、挨拶に来るから先に言っておくか」

「お願いします」

「ああ」


 父様は7人の親たちの素性を教えてくれた。

 僕、ギジェルモ、ゴドフレド様の親を除いた5人だ。


 話を聞いていたが、特別覚えたくなるような内容はなかった。

 どの領も少し遠くて、関係性がほぼないらしい。

 それでも北の公爵であるアルタミラーノ家の派閥という仲で覚えているようだ。


 そこで僕は初めて貴族派閥というものを思い出した。ゲームでも似たようなものがあった。

 ゲーム主人公の敵対派閥がムリーヨ家を旗頭としたものだったはず。

 これまた結構な場所に僕はいるようだ。


 たしか、北派閥とか言われていたような気はするな。

 ゲーム主人公の派閥は特に語られていなかったが、そこら中の派閥や組織と関わるから所属はしてなかったと記憶している。


「ここにいる貴族以外とも家は交流があり、対立らしいものもない。多少小競り合いがあるくらいで、亜人の対処や領内を治めるのに忙しいからな」

「そうなんですね」


 父様の言葉を僕は全く信じられなかった。

 隠し切れていない苦い顔で話し始めたのを見てしまったからだ。

 小競り合いなのか、亜人の対処なのか分からないけど、貴族は忙しいらしい。

 亜人に関してはルイサたちですら知っていたからな。

 忙しいみたいだ。


「それを食べ終えたら、挨拶に行くよ」

「はい」


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