28話 ゴドフレドの挽回
少し申し訳なさそうにしているゴドフレド様。
上位者が自ら挽回の機会を欲しているのだから、下の者は受け入れるほかない。
ここまで素直な人が意見を言われたくらいで怒るとも思えないから、ギジェルモは勘違いか、よほどの理由があったんだろう。
「はい、行きたいです」
「私も見に行きたいです」
「うん、それなら行こう」
ゴドフレド様が馬車を叩くと、ゆっくりと動き出す。
どこに行くか御者には言っていないが、問題ないようだ。
僕が手に持つ指輪を見ていると、ゴドフレド様が息を吐いた。
顔を上げると頭を押さえて、再度俯き、悩まし気な表情になる。
しばらく待っていると、ゴドフレド様は顔を上げた。
「すまなかったな、ふたりとも」
「いえ」
「謝ることでもありませんよ、ゴドフレド様」
「いや、私が魔術具の性能を詳しく知らなかったからだ。ただ、今から行く武器屋は家の騎士が別で作ってもらうほどの武器を作ってくれるから、良いもののはずだ」
自信ありそうだから、本当に間違いないらしい。
にしても謝罪をするとは思っていなかった。
すっきりした顔つきだから、心のもやもやが謝罪で晴れたのだろう。
「騎士の方はどういう武器を使うんですか?」
「ベックスはあまり知らないのか?」
「はい。片手剣以外に使いますか?」
「片手剣が基本だ。亜人や害獣を倒す平民は両手持ちの武器が多いと聞く」
「そうなんですか。その武器屋には色々な武器があるんですか」
「ああ。私は分からないけど、いろいろな作り方をしていると聞いたことがある」
「楽しみですね」
「ああ」
良い雰囲気になった馬車内は自然と静かになった。
雰囲気の中心はゴドフレド様だから、満足したのがよく分かる。
馬車が停まったのは静かになり、しばらく経ってからだった。
降りる前から、鎚を叩く音がかすかに聞こえてくる。
「ここだ」
自信ありそうな、どや顔で示した店は大通りから外れた場所だが、他の店よりも大きかった。
建物が綺麗かと言われれば、そんなことはないけど、質がいい店なんだろう。
騒音で大通りから外れているのかな。
護衛が入り、ゴドフレド様が入っていく。
かすかな音から少し大きくなった鎚の音を聞きながら、僕とギジェルモも入った。
中は店のスペースが狭く、奥の扉の先にある製作スペースが大きいのだろう。
「イニゴ! ゴドフレドだ!」
呼びつけと名乗りで入ったゴドフレド様。
圧倒的上位者としての態度に、日本人としての僕がそれは出来ないと白旗を上げた。
貴族としては必要かもしれないが、ここまでは出来ないな。
狭い店のスペースには机が置かれていて、他には何もない。
「はい、はーい。ゴドフレド様、うるせぇですよ!」
奥の扉から出てきたのはムキムキのおじさんだった。
生成りの上下に革のエプロンをしていて、強面に無精ひげが目立つ。
「イニゴ、友人たちに良い武器を見せてやりたくてな」
「公爵子息様のご友人ですかい?」
「はい。ベックス・ムリーヨです」
「私は、ギジェルモ・バハモンデです」
「すげぇな、辺境伯様と男爵様の子供か」
笑いながら無精ひげを撫でるイニゴ。
体が異常に大きいから、笑いながら髭を撫でると強面と相まって一般の人には見えない。
案の定、ギジェルモはその姿に怯えていた。
それよりも名前を聞くだけで爵位まで分かるとは、さすが公爵家御用達。
「さあ、紹介は済んだ。武器を見せてくれないか?」
「んなこと言ったってよぉ。変なのと半端な武器しかねぇですよ」
「お前の言う半端は半端じゃなくて、出来上がりに納得できないだけだ」
「だから半端なんだよ。納得できねぇからそこそこの値段でしか売ってねぇです」
この微妙な言葉づかいで許される間柄の店主イニゴ。
それだけ腕がいいのだろうが、武器の良し悪しは分からないからな。
「それでいいよ。あと変な武器と色々な種類の武器を持ってきてくれないか?」
「おう、少し待ってな、です」
店の奥に入っていくイニゴを見送ると、うれしそうにゴドフレド様はこちらを振り向いた。
誰が見ても、喜んでいるのが分かる笑顔から、この店に来ることそのものが目的だったと分かる。
たぶん僕たちに謝罪というのもあったが、自分が来たかったのも大きな理由なんだろう。
「粗野なヤツだけど、その腕は間違いなく領で一番だ」
「豪快な人でしたね」
「納得できないというのも職人らしさがあって、武器を見るのが楽しみです」
怯えていたかと思えば、変人らしさで元気を取り戻しているギジェルモ。
ギジェルモの言葉が嬉しいのか、ゴドフレド様も笑顔をより深めている。
あまり貴族として扱わない、豪快な大人がうれしいんだろうな。
少し待っていると、いくつかの武器を抱えたイニゴが扉から出てきた。
「持ってきた、ですよ」
机の上に並べられたのは、5つの武器。
片手剣が2つ、それより少し長い両手剣、メイス、斧だった。
軽々と持ってきていたけど、どうみても軽々とはならなさそうな武器だ。
見た目通りの力強さがあるらしい。
「私たちは触れずに見るだけだ」
「はい」
「わかりました」
僕は鞘にも納まっていない片手剣を見ていく。
同じような形のものが2つ並んでいて、微妙に長さの違いがあるくらいしか分からない。
短い柄と大きなポンメル、釣り合うような太い剣。
見ただけじゃよく分からないな。
「イニゴ、この剣は違いがあるの?」
「おお、ベックス様。違いはあるんです」
「長さ以外に?」
「はい。もちろんです」
じっくり見ていると、段々と細部の違いが見えてくる。
ベックスの肉体は過去の僕と違って、出来がいい。
グリップの革紐の巻き方が違ったり、ガードが剣身と一体だったり、違いが分かって来る。
片方は剣身と柄が分離する高価なもので、もうひとつは全てが一体型の安価な剣だ、恐らく。
「イニゴ、こっちの方が安い」
僕は一体型の剣を示してイニゴを見る。
待ってましたと言わんばかりの顔をして、悪い笑顔のイニゴ。
「残念でーす。こちらの方が高ぇです」
「どうして?」
僕の中の常識は逆だけど、実際は違った。
この世界の常識を身に付けないと、これから先は困るだろう。
「その前に、どうしてベックス様はこちらが安いと、思ったんです?」
「ひとつだけで出来ているから」
「なるほど。しかし惜しい。こっちは素材が高ぇです」
作業量でしか考えていなかったが、素材の違いがあるのか。
ゲーム世界では武器の強化素材しか知らないけど、そもそも素材がファンタジーなものなのかもしれない。
「なにの素材なの?」
「南の辺境伯領で採掘された鉄です」
遠い場所の金属だと輸送費がかかるんだろう。
それにくわえて、鉄の含有量が高いのかもしれないな。
良い金属が採れるのは南の辺境伯領のところなんだろう。
片手剣を見るのをやめて、両手剣、メイス、斧を見ていく。
僕の背より長い両手剣は刃が細く、少しでも扱いやすい重量にしているようだ。
素材の違いは見ても分からないから、諦めよう。
メイスは一体で出来ており、質の低さが表面に出ている。どう見てもイニゴは作っていないだろう。
顔を窺うと、強面がニヤリと僕を見ていた。
身長の差、筋肉量の差、圧倒的に生物として負けている。
背筋が伸びて、恐怖で体が震える。




