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25話 ベックスの悩み

 □


 目を覚ました時には僕以外全員起きていた。

 父様とアルバロは部屋におらず、ダニエラとペドロがいる。


「おはよう」

「おはようございます。ベックス様」

「ベックス様、おはようございます。さ、着替えて食事にしましょう」

「うん」


 ダニエラの手を借りて、着替えを済ませた。

 今日は子女交流する日と聞いている。

 いつから交流をするんだろう。

 疑問に思っていると、部屋の扉がノックされた。

 ペドロが対応すると、公爵家のメイドが食事を載せたワゴンを押して入って来る。


「ベックス様のお食事になります」

「はい」


 頭を下げてメイドが部屋を出ると、僕の前に食事が並べられていく。

 バゲット、スープ、肉。朝から豪快な食事だった。

 昨日は気にしていなかったけど、ここで心配性の僕が出てくる。


「これは毒見とかしてもらえるの?」

「公爵様から出された食事ですから、メイドのいる時に言えば問題になったかもしれません。ベックス様」

「そっか、ペドロ。毒見頼める?」

「は、はい!」


 過去の記憶によると、体重が多い人は致死量が多いらしい。

 女性のダニエラよりも、騎士をしていて体の大きいペドロの方が毒だった場合、助かる可能性が高い。

 妙な知識持っている過去の僕は、一体何をしている人だったんだろう。


 ペドロが恐る恐る食事を手に取って、ひと口ずつ食べた。

 何度も噛んで苦しそうに飲み込んだ。


「バゲットが、硬いです」

「そう。ありがとう」


 ペドロに続いて僕も食べると、確かにバゲットが硬かった。

 良かった点は日本で食べたフランスパンくらいの硬さだったこと。

 平民の食べている黒パンほどじゃないから、パン単体で食べられる。

 食べ終えると、父様とアルバロが帰ってきた。


「ベックス、すぐにメイドが来るからダニエラを連れて、案内に従い交流してきなさい」

「はい」


 想像以上に早く交流会へ行くことになった。

 父様が説明すると、すぐに扉がノックされて案内のメイドがやって来る。

 ダニエラを連れて、メイドの案内に従うと少し騒がしい部屋に着いた。

 メイドがノックをして扉が開かれる。


 中には椅子に座る6人の子供とお付きのメイドや執事がいた。

 どの子供も僕より少し大きい。

 案内のメイドが椅子まで指定して僕を座らせた。


「よし、みんな集まったね。さあ、まずは自己紹介だ」


 どういう並びなのか僕の隣には公爵子息のゴドフレド様がいる。

 始まった自己紹介は覚えようと思ったのだが、覚えられたのはゴドフレド様ともう1人だけだ。

 というのも、もう1人が辺境伯領の隣の貴族家だったから。

 名前はギジェルモ・バハモンデ男爵子息。僕よりも1歳年上だ。


 交流会で気付いたことがある。

 それは黒っぽい髪色の人がいないことだ。

 赤毛、茶髪、金髪でほぼ占められており、ギジェルモは暗めの金髪で区別しやすい。

 それに今、ここには僕の年上しかいなくて、少し助かっている。


 下手な返答をしても、幼いからでどうにか済ませてくれるからだ。

 まだ下手な返答はしていないが。

 最後に僕が自己紹介してから、各々がしていることの話になった。


「私は今、武術と魔術の勉強をしていて、最近ようやく冷たい水が出せるようになったんだ」

「すごいです」

「私はまだです」


 ゴドフレド様の出来るようになった魔術の冷たい水は第4階梯だ。

 第1階梯の水を出す魔術に「冷たい」という条件を付けるのが第4階梯魔術。

 ゴドフレド様がいつから勉強しているか分からないが、話を聞く限りダニエラはやっぱりすごそうだ。


「私はいま、第2階梯です」

「そうか。ベックスはどうだ?」


 ゴドフレド様に話を振られたが、過去の僕は上の者を立てるようにと考えた。

 その考えには今の僕も首を縦に振らざるを得ない。


「第2階梯を勉強しています」

「そうか。魔術は図形や記号を覚えるのが面倒だからな」

「はい、難しいです」

「みんな手印で魔術を覚えたか?」

「はい、私は第3階梯の身体強化を覚えました」


 話を聞いていくと、どうやら貴族子女たちは魔術をひとつは手印で覚えているようだ。

 彼らが身に着けているものをジッと見ていくも、刻印魔術を使えるような魔術具を着けていない。


 手印に関しては、もうすこし慎重に覚える魔術を選んだ方がいいと思うんだがな。

 身体強化は第6の方が使い勝手はいいし、遠くに飛ばす魔術なら魔術具の方が属性を変えやすい。

 でも、このくらいノリで決めた方がいいのかな。


「ベックスは、どういう魔術を覚えたい?」

「回復魔術です」


 僕がそう答えると、貴族子女どころか、そのお付きすら優しい顔になる。

 かわいいものを愛でる視線は居心地があまりよくない。

 もしかして、無理だと思われているのか。


「それなら毎日勉強しないとね」

「はい」

「諦めずに勉強を続けないとですね」

「分かりました」


 どう考えても無理だと思われているようだ。

 まあ、僕もただの5歳が相手だと同じような対応をすると思う。

 そのくらい回復魔術はむずかしい。


 仕方ないな、と考えているとメイドがゴドフレド様に何かを伝えた。

 しばらく会話が止まり、誰もがゴドフレド様を見る。


「そろそろ昼だ。部屋に帰って食事を済ませてくれ。午後からはこの部屋で椅子に座らず好きに交流しよう」

「はい」


 全員の返答を確認すると、ゴドフレド様が最初に出て行く。

 爵位を考えて、次に僕が出た。

 部屋に戻ると、父様とアルバロがいて笑いながら出迎えてくれる。

 知らない人たちといると多少は気を張っているようで、扉が閉まると肩が軽くなった気さえした。


「どうだったベックス?」

「知らないことをたくさん知ったけど、聞きたいことがあるの父様?」

「食事をしながらにしよう」

「はい」


 並べられた食事を父様が食べ、僕も食べ始める。

 襲撃を警戒しすぎているような気はするな。

 毒見もしないのだから、毒殺はないのかもしれない。


「ベックス、質問というのは?」

「父様は手印で魔術を覚えたの何歳?」

「魔術を使えるようになって、すぐだから6歳だ」

「何を覚えたの?」

「光の魔術だ」

「覚えられる魔術は少ないけど、後悔はなかったの?」

「いや、後悔してる」

「そうなの?」


 当たり前のことのように言われて、聞き間違えたのかと思った。

 後悔してるんだ。


「そうだよ。暗いところでは重宝するけど、戦闘する時、簡単に使える魔術がないからね」

「他の子供たちは初級魔術を覚えているようだったから、僕もひとつくらい覚えさせた方がいいと思ったんだ」

「ベックス。お前はまだ覚えさせていないのだから、もう少し悩みなさい」

「分かりました」


 よかった。

 父様が後悔しているなら、間違いなく貴族子女たちも後悔するだろう。

 でも、覚えていなくて後悔することもありそうだ。


 僕みたいに襲撃受ける未来が確定しているなら、覚え込ませてもいいのではないだろうか。

 いや、防御魔術の刻印と拡声の刻印でどうにかなると信じよう。

 襲撃を切り抜けても、それ以降の人生があるんだから。


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