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24話 貴族家当主とは ヘルバシオ・アルタミラーノ

 □


「レイシャール。妹が言うには勉強や運動に熱心で物分かりの良い子らしいけど、ベックスは将来有望か?」


 ベックスとゴドフレドが去った公爵家の執務室では子供の話が始まった。

 レイシャールは、公爵であり義兄であるヘルバシオだから特に隠すことも無くベックスの話をしていく。


「はい。今は中級魔術を使えるようになりました。これからは武術を教えようかと考えています」

「何階梯の魔術だ」

「第6階梯です。第7階梯以降は勉強する気がないようです」

「まあ⁉ もう私と同じだけ魔術が使えるの?」

「ハハハハッ! うちの娘はすごい子供を持ったな!」

「手紙で聞いていたけど、辺境伯家は将来安泰だな」


 少し誇らしそうに話していたレイシャールだったが、ヘルバシオの言葉で軽く目を伏せた。

 目ざといヘルバシオはそれを見て、話を変えていく。


「それでだ。昨今の亜人の襲撃に関して、公爵領の森にはまったく見られなかった」

「こちらもです」

「西側の辺境伯家は、ラットマンの大量発生で対処に追われているらしい」

「聞きました。ですから最近は小競り合いが起こってないようです」

「小競り合いは分からないけど、徴税もきつくなったらしいから難民が来るかもしれないぞ」

「近くの村には来ているようです」


 疲れ切ったような顔のレイシャールにヘルバシオは笑いながら、話を続けていく。


「お前が王都に行かないから、まだ情報はあるぞ」

「はい。お願いします」

「王都の貧民街で変な薬が出回っているらしい」

「薬、ですか?」

「そうだ。薬を飲むとそれなしでは生活できなくなるらしく、とても安価で出回っているようだ」

「騎士たちが駆けずり回っているんでしょうね」

「そうみたいだ。レイシャール、そっちも駆けずり回るくらい忙しいのか?」


 ヘルバシオの言葉に「はい」と答えると頭を軽く押さえ、また目を伏せたレイシャール。

 顔を上げると、苦笑いを浮かべながら答えた。


「先ほどの難民もそうですけど、森に害獣が増え始めています。それに加えて、西の大陸人が森で迷っていることもあって、王都にはとても行けません」

「王もそれは分かってくれているから、気にするな」

「はい、ありがとうございます」


 ヘルバシオからの言葉に安堵したレイシャールだったが、問題が片付いた訳では無いから苦い顔は変わらなかった。

 ただ、最初の顔より表情は柔らかい。


「最後に、だ」

「はい」


 周囲を確認するヘルバシオを見て、レイシャールは苦い話が続くのかと気を引き締めた。

 妙に声を潜めているのが緊張感をレイシャールに与え続ける。


「領の闇組織がひとつ潰された」

「そういうこともあるのでは?」

「3年に1回くらいはあったんだけど、抗争らしいことも喧嘩くらいしか起こって無くてな」

「ということは」

「闇組織同士ではなく、他所の闇組織でもないってのがうちの考えだ」

「今、私に聞くということは、辺境伯領の者だと言いたいので?」


 戦う貴族と言われるほどの辺境伯が怒気を持って公爵を見つめる。

 しかし、ヘルバシオは涼しい顔でそれを受け流した。


「違うよレイシャール。どれだけ戦闘が出来ても君らは事を大きくしすぎる。暗殺だのは専門外だし面倒だろ?」

「はい、失礼しました」


 ベックス相手に父親をしている時とはまるで違い、剥き出しの闘志を見せ、それを反省するレイシャール。

 早合点が彼の悪い癖のようだ。


「そういう奴らがやった可能性あるんだよ。警戒はしておいた方がいい」

「わかりました。領の奴らに話を聞いてみます」

「そっちの闇組織じゃないと思うけど?」

「奴らはどこからか情報を持ってきますから、王都に行けない私の早馬代わりなんです」

「そうか、話は聞いておいてくれ。以上だ、今日は休んでくれ」

「はい。失礼します」


 頭を下げて、レイシャールが出て行くのを見送る4人。

 扉が閉まって、最初に動いたのはヘルバシオだった。


「はぁぁぁ。なんかまた強くなってるよレイシャール」


 椅子に姿勢正しく座っていたヘルバシオは、机にへたり込んだ。

 そんなヘルバシオに執事であるゴンザロは呆れながら職務を遂行する。


「坊っちゃま、そんな声を上げないでください」

「ゴンザロ、何でさっき怒ったんだレイシャールは?」

「当たり前です。武力のある者の仕業、それをわざわざ目の前で言ったのですから、辺境伯様は自分が疑われていると勘違いしたのでしょう」

「にしたって、怖いよ」

「しっかりせんか、バッソ」

「その呼び方やめてよぉ、父さん」


 レイシャールと話していた空気はまるでなく、駄々をこねる子供のようになったヘルバシオ。

 好々爺然としていたエルメネヒルドは、ただの親父となっていた。


「バッソ、レイシャールは疲れてただろう。少しは考えて話せ」

「そうよ、まだ若いのに辺境伯家を継がされているんだから」

「いや、それ俺もだよ⁉」

「ゴンザロー。バッソが疲れてるみたいだ」

「エルメネヒルド様、公爵様が子供になってしまいますから、遊ばないでください」

「はいはい。お前がさっさと公爵家を継いだ理由は分かるだろ、バッソ?」

「レイシャールとエルバのためだろ」


 ヘルバシオの対面に移動していた3人。

 エルメネヒルドは真面目な顔つきで話を始めた。


「そうだ。前々から言っているようにザラグア王国はまとまりがない」

「ああ」

「昔のように内戦もなくなって、小競り合いで交渉するだけだ。でも西の大陸の所為で面倒が増え始めた」

「港の辺境伯だろ」


 机に倒れ込んだ姿勢から、再度椅子に座りなおしたヘルバシオは記憶を探って答えた。

 港の辺境伯。西にある港を保有する辺境伯家。

 西の大陸と最もつながりの深い貴族家だ。


「ああ、王も気を付けてはいるようだけどな、間違いなくアイツらが面倒を引き起こす」

「なんでそんな確信があるんだよ?」

「お前も会えば分かる。奴らの腹の中に溜まった悪意がな」

「なんだよ、それ」


 ヘルバシオは全く理解できなかったが、その言葉に嘘を感じていない。

 エルメネヒルドの言葉から、嘘とは思えない圧を感じたからだ。


「王国が出来る前から土地の主として認められていたのは、各辺境伯家と王家だけだ」

「ああ」

「そこに西の辺境伯家はない。まだ新しい家だ」

「知ってるよ」

「他国からの技術と人材を真っ先に受け入れた領だ」

「港がある場所だから、そうなるのが良い方法だったんじゃないか?」


 ヘルバシオが答えるとエルメネヒルドはひと息ついて頷いた。

 疲れを滲ませているが、目はヘルバシオを見つめている。


「何かにつけて気を付けてくれということだ。分かったなバッソ」

「分かってるよ親父」

「坊ちゃま、父上と」


 心配すると父と当主になって忙しい息子、その指導と補助をする執事。

 傍らで母のヘッセニアは心配そうにふたりを見つめていた。


「はあ。エルバも来てくれたら良かったのに」


 違う。心配など特にしておらず、娘と再開できる時を待っていた。


「おまえ」

「あなた、なに?」

「い、いや……」


 やはり母は強いようだ。


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