19話 4歳 収穫祭
毛皮と布を選びに行ったのは5日前。
僕はこの世界の暦のシステムを知らない。
しかし、毎年同じ日に収穫祭を行い、確実に晴れるらしい。
収穫祭の今日も晴れていた。
昼の食事を軽く済ませて、外で食べる物が入った籠を持つダニエラと一緒に外へ出る。
「ベックス様」
門で待っていたペドロとベニート。
ベニートは手に見覚えのある白い毛皮を持っていた。
「ベニート、もうできたの?」
「はい、こちらを着てもらえますか?」
「うん」
着こんでいる上着を脱いで、ベニートから渡された毛皮のマントを羽織る。
しかし、羽織っただけで袖もないからマントの内で、開かないように握りしめていた。
「ダニエラ」
「少しお待ちを、ベニートさんこれを」
「は、はい」
女性慣れしてないのかベニートは。
同じくらいの年齢のダニエラから上着と籠を渡されて、どぎまぎしていた。
こう言っては何だが、僕はダニエラを両親より信頼している。
過ごした時間が両親よりも長いからだが。
だからダニエラの夫が誰になるのか僕は今から心配している。
ベニートだったら悪くはないが、まだどういう人かをあまり知らないから要チェックだね。
考え込んでいるうちに、ダニエラはマントの留め具を付けてくれた。
円環と棒の簡素な留め具だ。彫刻が少しされているだけだから、今度があればここも選びたいな。
「どう、みんな?」
「お似合いです」
「とても似合っております」
「ベックス様、とてもお似合いです」
「あ、賭けのお金はもってきた?」
「はい」
「じゃあ、3人と合流しよう!」
意気揚々と屋敷を出たのだが、屋敷の近くで3人がいた。
屋敷の前、空地となっている場所では騎士が十数人いて、道には人がごった返している。
「ここでするの⁉」
「はい、昨年は少し離れた場所でしていましたが、ベックス様が見に来るとのことでここになりました」
「机と椅子も用意してますよ」
貴族ってのはすごいんだな。
3人と合流し、屋敷の前に用意された観覧場所で座り、模擬戦の開始を待つ。
「ベックス様よ、俺たち3人、第1階梯使えるようになったぜ」
「はやっ!」
文字の勉強が終わり、魔術の仕組みと図形、絵や記号を教えながら第1階梯を教えていた。
確かに季節は変わったが、夏は短いから随分と早い。
「だろ?」
「ルイサは何度も使って、倒れてました」
「おい、ガビノ!」
「アハハハ! すごいね。今は第2階梯練習してるの?」
「はい、ですけど危険な魔術なので川に向かって練習してます」
「そうなんだ。フェデリコとガビノも魔術を使って疲れた?」
「はい」
「30回ほど使うと眠くなりました」
「そうなんだ」
魔力量を早いとこ調べてみないとな。
どの程度の魔力量か分かると、相手によって逃げや守りに使う魔力量も逆算できるかもしれない。
「ベックス様、模擬戦だ!」
「あれ、賭けは?」
「最初は賭けをしません。模擬戦に出る騎士たちの技量を見てから賭け金が最も高い者は勝ち抜きを行います」
始まった模擬戦は武術を使わなかった。
12名の騎士が模擬戦を一通り終え、勝ち抜ける騎士に金を賭けて行く。
最も人気な騎士が勝ち抜きを行い、勝ち抜けば他の騎士たちへの賭け分を山分け。
勝ち抜けず敗れれば、負かした騎士に賭けていた人たちで山分けらしい。
僕の手元には見慣れない鈍色のコイン。ゲームではアイテムですらなかったものだ。
「俺は左腰リボンにする」
「首リボンにします」
「右足リボンです」
各騎士たちは見た目で分かるようにリボンを巻いている。
両手両足、両腿、腰の左右、胸と背中、首、頭。
「僕は背中リボン」
「分かりました。賭けてきます。ペドロさんとダニエラさんはどうします?」
「好きにしてくれ」
「ベニートさんのおすすめに賭けてください」
「はい!」
ベニートはダニエラと話すと、笑顔を浮かべて早足で向かった。
ペドロはその様子を微笑ましそうに見つめる。
陽はまだ高く、ダニエラが籠から出した食事に手を伸ばす。
バゲットのような少し硬い外側を越えると身の詰まったパン、それを手で分け、知らぬ間に置かれていたスープと一緒に食べる。
味の濃いスープは野菜のうまみが溶け出しており、それが素朴なパンと合う。
ああ、美味い。
子供舌じゃないのか味が薄くても気にならないが、パンと合わせるなら味は濃い方が良いよね。
平和を謳歌した僕は賭けを気にしていなかった。
日本であれば素朴だった食事だろうが、ここではそうでもない。
味が濃いのは裕福な証明みたいなものだ。
平和で裕福で幸せ者だ、僕は。
模擬戦をボーっと見ていて分からなかったが、僕が賭けた人は二番人気だったらしい。
そして、あっさり負けた。
僕は人を見る目を養う必要があるかもしれない。
勝ち抜き対象になった一番人気の胸リボンが、11人と連戦して勝利した。
劇的な勝ちはない模擬戦だったが、盛り上がりはすごいもので屋敷のメイドや執事もちらちら見ており、楽しそうだった。
言うべきじゃないのだろうが、いつ襲撃を受けるんだろう。
平和をそのまま受け入れて、楽しく生きたいよ、僕は。




