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18話 これからの魔術と冬の準備

 ○


 酒と豆の祭りから季節は移り、秋になった。

 あれ以降、夢は見ていない。

 でも、身長が伸びて、怪我していた夢の僕に近づいていると分かる。


 だから最近とても不安だ。

 不安な中だが、良いこともある。

 昨年は外に出ることはできなかったが、今年は収穫祭を楽しめるようだ。

 父様と母様から許可は取れていた。


 ただ、1日目だけで2日目は屋敷でゆっくりしているようにと言われている。

 子供3人組にも伝えているから、当日は一緒に行動するつもりだ。


「ダニエラ、収穫祭は何する祭りなの?」


 騒がしさと楽しさを見ていただけだから、実際に何をしているかは知らない。


「おいしい料理を食べて、みんなで騒ぐお祭りですね」

「酒と豆の祭りと一緒じゃない?」

「いえ、一部の騎士が模擬戦をして、その賭けがあるんです。とても盛り上がりますよ」

「そうなんだ」


 最近は寒くなってきたから、外に出るにもたくさん着込むことになった。

 寒い中、じっとして模擬戦を見て賭けるのか。ちょっと憂鬱かも。


「ダニエラ、魔術の練習は?」

「魔力が減ったので今日は終わりです」


 アルバロとの魔術勉強は少し前に全て終わった。

 というのもアルバロが使える魔術は中級魔術までで、上級魔術は使えないからだ。

 第6階梯までが使えるらしい。


 僕は今、第6階梯の回復魔術を練習している。

 第5階梯の防御魔術は練習を続けて使えるようになったが、思っていたより使い勝手が悪かった。

 自動型随時発動で魔術と物理の防御魔術を使うものだ。

 僕の想像では使い勝手の良いものだったのだが。


「あれは、酷い魔術だった」

「ベックス様、何がですか?」

「第5階梯の防御魔術」


 僕の返答に、ダニエラは考えたくもないと言わんばかりに頭を振った。

 歪んだ顔を見れば、同意見なのは間違いない。


「試しで使い、仕事でミスをしてしまいました」

「そうだったね」


 あの魔術は自動で発動する度に、第2階梯の防御魔術の発動と終了を繰り返す。

 発動する度に第2階梯の防御魔術分魔力を消費する。

 とても燃費の悪い魔術だ。


「疲れて仕事にミスが増えて、交代して、メイド長に怒られました」


 思い出して俯いたダニエラ。

 いつもの明るさが見えず、雰囲気も少し暗い。


「ダニエラもそうやって落ち込むんだ」

「今まで上手くできていると思っていましたから」

「そっか」


 あまりの魔力消費でダニエラは仕事に差し支えるほどだったわけだ。

 だから第5階梯の防御魔術を使うくらいなら、第2階梯の防御魔術を発動したままで使い続けた方が消費は少ない。

 教則本によると上級魔術で途轍もなく複雑な防御魔術はあるが、使い勝手が悪そうだったから無視している。


 そうして悩んだ僕は考え付いた。

 良いものがないなら作ればいいじゃないか!

 魔術というのは新しいものを作ることも可能だ。


 一般的に広まった魔術が教則本に載っているだけで、新しい魔術というと僕が蛍光灯をイメージして発動した光の魔術が分かりやすい。

 火からではなく電気から明るさを求めた結果、光量が従来の光の魔術より強い魔術になった。


 今後の魔術勉強は第6階梯の回復魔術が発動できるようになること、新しい魔術の開発が主になるだろう。

 他にも色々としたいことはある。

 だが、襲撃を回避しないかぎりするつもりはない。


 心配性の僕が言っている、気を緩めた時こそ、問題が起こると。

 同意したくないが、忘れた頃にやって来るというのは聞く話だ。


「ベックス様、そういえば第6階梯の身体強化はできましたか?」

「出来たよ。動きが素早くなったからね」

「後は回復魔術だけですか?」

「そう」


 第3階梯と第6階梯の身体強化魔術は効果が違っており、第3は体が丈夫になり、攻撃に重さが加わるらしい。

 第6はそれに加えて素早さが身に付くという。

 防御魔術もそれくらい利点があればよかったのに。

 しばらく練習していると、扉をノックしてきたのはベニートだった。


「ベックス様、当主様が冬に備えて毛皮のマントを見繕ってくるようにと」

「あー、昨日の夕食の時に話したかも」

「午後からは少し冷えますから、今から向かおうかと思っております」

「いいよ、準備は?」

「できています」

「じゃあ、行こうか?」


 ダニエラに上着を着せられ、移動していくと門の前で厚着になったペドロが待っていた。

 腰に差した剣と厚着で身体が分厚く見えるから、威圧感があるな。


「よろしくペドロ」

「はい」

「どこ行くの、ベニート?」

「毛皮を取り扱っている店に行きます。そこで好みの毛皮を選んだあとに服飾店で裏地を選び、縫い付けてもらいます」


 ということは毛皮を外に布が内になるわけか。

 どのくらい暖かいんだろうな。今までは少し分厚い服に包まってたから分からないな。


 牧場に行く道を進んでいると、ベニートは迷いなく店に入っていく。

 後ろから僕も入ると、内装が屋敷と同じくらいしっかりしている店だった。

 珍しさから周囲を見ていると、毛皮が壁にかけられてある。

 色は白、黒、茶、まだら模様、色々だ。


「店主、連絡していたようにベックス様が冬のために毛皮を選びにきた」

「はい」

「今あるものから種類ごとに良いものを見せてくれ」

「わかりました」


 阿吽の呼吸でベニートの言葉にてきぱきと従う店主。

 ベニートはここを結構利用するかもしれないな。

 もしくは申し付けられてお使いに来てるのかも。


 店の机に毛皮が5枚置かれた。

 色と毛の質でしか分からない。

 茶、白、黒、こげ茶、黒の順に並べられており、毛の質が硬そう、柔らかそう、猫みたい、フワフワ、硬そうだ。


「こちらの茶の毛皮は森の深い場所にいる双口熊の毛皮です」


 また知らない生き物が出てきた。

 聞く限りは対になるような双口がある熊らしいな。


「白の毛皮は歯出猿の毛皮です」


 派手猿? 見た目が白なら派手だろうが。


「そしてこちらがこの店で最も価値ある毛皮、森の影の毛皮です」

「森の影?」

「はい、狩人たちからはソンブロスクと呼ばれています。入荷することはありますけれど、綺麗なものは稀です」


 フェデリコが言ってた動物だ。

 毛足の長い猫の毛皮にしか見えない。

 大きさは猫科の肉食獣より少し小さいくらいだろうか。

 人を攻撃していないだけ、ありがたいな。大きいから魔術がないと対抗できなさそうだ。


「こちらの茶の毛皮は円狸の毛皮になります」


 狸は丸いというか丸っこいけど、まるたぬきって。

 不思議な名前の生き物ばかりだな。


「最後の黒は翼猪のお腹の毛皮になります」


 毛が硬そう、一番硬そうなのがこれだ。

 これらのうち、どれかを身に纏う僕を想像していく。


「どれが一番暖かいの?」

「濃茶色の円狸でしょうか」

「触っても?」

「はい、どうぞ」


 5つの毛皮に触れて、僕は選びたくなかった白を選んだ。

 一番手触りがよかったからだ。

 フワフワそうだった円狸は、ごわごわだったから触っておいてよかった。


 選んだ白の毛皮をベニートが受け取ると、その大きさが異常なことに気付く。

 ソンブロスクも猫科の肉食獣くらいだったが、猿も人くらい大きい。


 毛皮を受け取って、近くにある店へ向かうと、ここも内装が屋敷くらいしっかりしている。

 貴族向けの店ってのは辺境伯領でも必要なようだ。


「こちらから選んでください」


 毛皮と同じようにいくつかの布が並べられて、僕が気に入ったものを使うようだ。

 同じように触らせてもらい、手触りが気に入った黒っぽい色の布にした。


「ベックス様、ありがとうございました」


 用が終わり店の外に出ると、ベニートが頭を下げてきた。

 意味が分からず、ジッと見つめていると事情を話してくれる。


「実は毛皮や布の選定を今回お任せしたのは、狩人や職人たちで少なからぬ諍いが起こったからなんです」

「諍い? どういうこと?」

「ベックス様がそろそろ冬に向けての服を新調する頃だと分かっていた職人や狩人たちが、商家を通じて屋敷へ売り込みに来ていたんです」

「そうなんだ」

「はい。当主様から決めさせれば良いと言われまして、こうなった次第です」


 商魂たくましいのか、命知らずなのか、分からないが面白い。

 避けようのない襲撃というものに向けて鍛える僕、危険はないけど他にも避けられないものがあるなら、それを楽しめるようにすればいい。

 成長するなら、それに合わせて必要になるものがあるだろう。


「いいね。僕が大きくなる度に似たような事してみようよ!」

「もっともよい商品を探すことですか?」

「そう、この領内の人だけが参加できるもの。他にも街があるんでしょ?」

「はい、しかし職人の腕が一番良いのはここです」

「街ごとに個数を決めて、それに向けて何かするとか」


 お金を掛けられすぎると一歩引いてしまうが、がんばりました、なら嬉しい。

 まあ、それを考えはしても現実にするのは僕じゃない。

 ベニートが上手くしてくれるだろう。


「父に話をしてみます」

「お金がかかりすぎると面倒になるから、やめてね」

「はい」


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