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14話 魔術と心配性

 ○


 夏になり、記憶が戻ってから2度目の酒と豆の祭りの日が近づいた。

 昨年は外に出られなかったが、今年は礼儀を学んだことで外に出られる。


 しかし、大人のための祭りだから子供は特にすることがないらしい。

 でも、少し暗くなってから外に出て、3人と集まる予定を立てていた。

 その所為でペドロに迷惑をかけるから、いつか酒をプレゼントするつもりだ。


「ベックス、明日は祭りの時、外に出るんだろう?」

「はい、父様」

「屋台で食事はしてはいけないよ」

「うん。屋敷から持っていくよ」

「分かった。ダニエラ、ベニート、ペドロには迷惑をかけるからお礼を言っておきなさい」

「はい」

「危ないと思ったら、すぐに腕輪の魔術を使って助けを呼ぶこと、分かった」

「わかってるよ」


 どれだけ言っても足りないとばかりだ。

 親にとって子は、そういう心配してもし足りない対象なんだろう。


「もう心配し過ぎよ。防御の魔術は手印で覚えてるんでしょう、ベックス?」

「ううん、母様。詠唱だよ」

「どうしてなの?」

「第5階梯の自動型随時発動の防御魔術を覚えるつもりだから」

「わかりました。なにがあっても3人とは離れないように」

「はい。母様」


 このような会話をしたのが、昨日の夕食時だ。

 今日は酒と豆の祭りの日。


 午前中は中級魔術の第5階梯、防御魔術に取り組んでいる。

 魔術は条件が追加されるほど、難しくなっていく。


「初級魔術も難しかったのに、中級魔術はもっと難しいね」

「ベックス様、初級魔術は条件がほぼないから簡単なのだと、ナバスさんが言っていましたけど」

「でも、第1階梯で火を出せるのに、第4階梯はそれを熱くするだけだよ?」


 火に温度を上げるという条件が加わるだけ。

 温度を上げるだけで難易度が別物になる。


「えーと、ここです。本に書いてあります。刻印魔術を見れば一目で分かるとあります」

「どう違うの?」

「えーと、付けられた条件が初級魔術の刻印よりも複雑で、大きいものだから、だそうです」


 温度を上げるだけで、初級魔術より大きくなるのか。

 それなら初級魔術は魔力消費がずいぶんと少ないわけだ。


 そもそも魔術は即時、遅延、自動型の発動形態3種類から枝分かれして、一時、随時、常時の発動状態がある。

 初級魔術は即時型一時発動がほとんどで、すぐに効果の現れる魔術が多い。

 中級魔術は即時型、自動型で一時、随時、常時発動がほとんどだ。


 その中でも第5階梯の防御魔術は自動型随時発動。

 必要になれば自動的に、物理と魔術のどちらも防御できるらしい。

 まだ発動できたことがないから、教則本とアルバロ曰くだが。


「そうでした、ベックス様。私は手印で第2階梯の防御魔術を覚えましたけど、ダメでしたか?」

「いいと思うけど?」

「では、どうしてベックス様は覚えないのでしょうか?」

「手印で簡単に覚えられるのは限りがあるから、少しでも簡単に覚えられるのをいい魔術にしておきたいんだ」

「そうでしたか」


 魔術は発動するのに詠唱が必要だ。初めての魔術の場合は絶対に詠唱が必要になる。

 ただ、それ以外にも方法はあり、刻印、手印、指書、無詠唱というものがある。


 声を発せない状況では刻印、手印、指書、無詠唱を使う。

 しかし、魔術を即座に発動したい場合は、刻印、手印に限られてしまう。


「魔術具を増やした方がいいのかな」

「お金はかかりますけど、手印よりは簡単ですね」

「ダニエラも魔術具、持つ?」


 刻印魔術は指輪、腕輪、杖、ほかにも様々なもので出来るが、魔術を刻んだ物が必要になる。


「いえ、まだ手印だけでいいです」

「指書や無詠唱もあるからね。でも、そのうち何か欲しいね」


 指書魔術は詠唱を文字や図形、絵、記号を魔力で宙に書き、発動させるものだ。

 無詠唱魔術は黙読のようなものだが詠唱より発動までに時間がかかる。


 ダニエラや母様が言っていた手印とは、決まった動作により決まった魔術を発動させることだ。

 手印と言っているが、実際は体の動きも含めた動作だ。


 覚えさせられる数は自分次第だが、日常生活で使わず、もしもの状況でできる動作という制限がある。

 それでいて動作と魔術を脳みそに自己暗示するように覚え込ませるから、実際は多くて5つくらいしか覚えられないらしい。


「そういえば、ダニエラは第4階梯の魔術はどうなの?」

「出来ました。今は第6階梯の回復魔術を覚えているところです」

「え、防御魔術は?」

「昨日、できました」

「すごいね!」


 あれ? うちのメイドすごいのでは?

 回復魔術といえば、ゲームの話で納得できることがあった。

 第6階梯の回復魔術は深い傷すら即座に塞ぐことができるらしい。これも教則本とアルバロからだ。


 ということは、ゲーム世界で何度も攻撃してダメージエフェクトで血が出ているのに、倒れないボスは魔術で即座に傷を塞いでいるのでは、と思っている。

 体力ゲージだと思っていたものは魔力ゲージで、回復魔術を使って魔力が減ることで怪我を治せず倒れるのではないか。

 だから、ゲームで体力を削り切った後に急所攻撃のQTEでボス撃破となった、と考えている。


 ここまで考えて、心配性の僕は魔力量というのを知りたがるようになった。

 ゲームでベックスがボスとして出てくるのは、中盤。

 武器を強化し、ステータスを強化すると倒せなくはない敵になる。

 もちろん、クソボス要素の弾幕アクションの突破次第だが。


 最終ボスのレイシャールと比べると体力は低いから、魔力量が父様よりは少ないと分かっている。

 魔力量をどうにか調べる方法はないか。

 悩んでいると、ふと浮かび上がった考えから更に心配性が問題を生み出した。


 防御魔術を使うことはできるが、どのくらい強度か分からない。

 もしかすると、騎士の一撃を防御できないくらい弱い可能性がある。


「ベックス様?」

「うん?」

「考え事をされているみたいですけど、どうかされました?」

「ダニエラは魔力が少なくなる時ある?」

「はい。魔術を使うと減っていき、少し疲れます」

「そうなんだ」

「ベックス様はないんですか?」

「うん、毎日魔術を使ってるけど、減る感覚が分からない」


 どうやら魔力量はダニエラよりも多いと分かった。

 ただ、どのくらいで減るのか分からない。


 教則本やアルバロ曰く、魔力量は体調や体が鍛えられているかによって変わるらしい。

 健康で動ける体、尚且つ心も健康であれば万全の状態ということだ。


「ダニエラ、防御魔術試したいから、騎士に攻撃してもらってもいい?」

「そうですね……許可を頂きに行きましょうか?」

「うん」


 執務室に向かい、アルバロの返答で入ると父様とふたりで忙しそうに書類に目を通しているところだった。

 酒と豆の祭りのためだろう。


「父様、お願いがあるの」

「魔術の練習かい?」

「うん。防御魔術が実際に使えるのか試してみたいんだ」

「実際に使えるというのは、攻撃を防げるのかということだね」

「うん。そこで騎士に攻撃させたい、けど、いい?」


 僕の言葉に動きを止めて、アルバロを顔を見合わせる父様。

 互いに顔を見ながら、上手い返事を探しているように見える。


「ベックス。騎士は守るために訓練をしているから、守る人相手に攻撃したくはないんじゃないかな?」

「そうですよ、ベックス様」

「でも、防御の魔術が使いものにならなかったら、助けも呼べないよ」

「うーん。そうは言ってもな」


「お願いします」


 勢いよく頭を下げると、唸った父様はパンッと手を合わせた。


「分かった。少し待っていなさい。ダニエラ、ベニートを呼んできてもらえるか?」

「はい」


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