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12話 友人と勉強

 ○


 再度決意をして、酷い夢を見てから3日後、僕はたくさんの板をベニートとダニエラに持たせて外に出た。

 屋敷から少し離れた場所で待つ3人に手を挙げる。


 ルイサ、フェデリコ、ガビノ、みんな夢よりは幼い。

 夢では貴族院に通っているとの話だった。

 襲撃受けると、あんな状況になるのかな?


「おい、ベックス様よ」

「ん? どうしたのルイサ?」

「かあちゃんがあんまり、お前と遊ぶなって言ってきてよ」

「どうして?」

「他所の領地の奴らが平民と遊ぶ貴族子息だって馬鹿にするってよ」

「そう」

「そうなのか?」

「そうだけど、気にしなくていいよ」

「なんでだよ、迷惑なんだろ!」


 随分と母親から言われたのか、ルイサが気にするタイプなのか。

 分からないが、そこまで気にすることでもないと思っている。

 困るのは父様だろうし、侮られる噂が流れていると襲撃も簡単に進むと思わせられるだろう。

 それに噂で判断する奴が分かっていいかもしれない。


「馬鹿にさせておけばいい、僕はこんなでも一応辺境伯家の長男だよ。言ってくる奴らなんかいないよ」

「そうか」

「それより3人のうちで家が大きくて、場所があるのはだれ?」

「ガビノだ」

「これ置く場所ある?」

「あります」

「それなら、今から行くけどいい?」

「はい」


 ガビノを先頭にいつもなら左に曲がって店の並ぶ区画に行くが、右に曲がっていく。

 最初は見た目がしっかりした石造りの家が並んでいる。

 しかし、進むにつれて石造りではなく木と石の家が増え始め、ガビノが歩を止めたのは木造の家が並ぶ場所だった。

 中でも大きい家にガビノが向かっていく。


「少し外で待っててください」

「わかった」


 中に入っていくガビノを見送り、周囲を見ているといろんな人が僕たちを見ていた。全員が少し汚れた服を着ている。

 どういう人がここには多いんだろう。


「ベックス様、人が近づいてきます」

「うん?」


 手を握ったダニエラが警戒した様子で言うから見ると、ガタイのいいおじさんがいた。

 ここらの人らしく似たような服を着ている。

 少し臭うが、体臭ではなさそうだ。

 過去の記憶で、ある時期に畑の近くを通ると似たような臭いがしていたな。


「あんた、ベックス様か?」

「はい、ベックス・ムリーヨです」

「どうして、こんな場所に来てるんだ?」

「友人ガビノの家で遊びに来ました」

「そうか、どうして外に?」

「ガビノから少し外で待つようにと言われました」

「そうかい、なら汚いけど入りな」


 扉を開けた男は僕たちが入るように促してくる。

 事情を知ってそうなルイサとフェデリコを見ると、勝手知ったる風に中へ入っていく。

 僕がいない時はどういう遊びをしてるんだろう。


「ガビノの親ですか?」

「そうだ。ガスパールだ」

「ガスパール、よろしくお願いします」

「ああ、挨拶はいいから入れ」

「はい」


 大きな家だが屋敷よりは大きくない。

 扉の先には炊事場、食事場所、奥の部屋に続く扉があり、階段も見える。

 なるほど、2階建てだから大きく見えたのか。身長が小さいと物が全部大きいな。

 入るとルイサやフェデリコが上に行き、ガビノも恐らく上だと分かる。


「ガスパール、このふたりが持っているものを家に置かせてもらいたいのですが、いいですか?」

「その板か?」

「はい、文字が書いてある板です。いま3人は文字の勉強をしていますから、作ってきました」

「文字ねぇ。ベックス様、どうしてアイツらに優しくしてくれるんだ?」


 考えたことなかったな。

 どうして僕は3人に優しくしているのか。

 うーん?


「わかりません」

「分からないって……」

「友人に優しくするのに理由はいりません。悪意を持つなら理由はあるでしょうけど」

「ハハハッ、そうだな。わりぃな引きとめて、上いきな」

「はい」


 2階に上がると、3人は物置らしき場所で話し合っていた。

 籠に入った服、ほうき、靴、上着、いろいろある。

 きれいかと言われると、汚いほうだ。


「ガビノ、ここで勉強するよ」

「いいんですか、汚いですけど」

「気にしないからいい」


 そうして4歳児の僕による文字の勉強会は始まった。

 まずはダニエラが持っていた板の1枚を床に置いてもらう。

 板には、ひらがなに当たる文字がかかれており、3人とも馴染みあると言うように頷いている。


「覚えている人は手を挙げて」


 みんな勢いよく手を挙げて、自信満々だ。

 表情から最も自信のありそうなルイサを指名する。


「それじゃルイサ、右の縦の5文字を読み上げて」


 子供の脳みそは優秀で3日前に教えたことを問題なく読み上げることができた。

 右の縦の5文字とは、あ行、50音図だ。

 そもそも僕が話している言葉は日本語だと思う。


 ゲーム世界では吐息くらいしか表現されなかったキャラ達。

 英語ではフルボイスらしいけど、どうして日本語なんだろう。

 もしかして僕が話しているのは日本語ではなく、日本語だと錯覚しているだけ?


 心配性が急に出てきて、焦り始める。

 日本語だと思いながら話を進めればいい、それでいい。

 3人が読み上げると、ダニエラがさらに1枚の板を置く。


 そこには濁音、半濁音など表現できるだけの文字が書かれている。

 しかし、その読み上げもすぐに終わった。

 文字に一定のパターンがあるから、書きは無理でも読みはできるのだ。


 最後に大量の漢字と同じ役割を持つ文字を書いた板をベニートが置く。

 複数の板に小さく僕が知る限りの漢字っぽい文字を書いている。


「これは隣に読み方書いてあるから、覚えてね」

「何だよこれ。わけわかんねぇ」

「今までの文字と違いすぎます」

「……分からないです」

「今すぐじゃなくていいから。それよりさ、ガビノの父親は何の仕事をしているの?」


 昼に帰ってきたガスパールの仕事はなんだろう。

 いや、昼前だから帰ってきたのかもしれない。

 そもそも僕は平民が昼食を食べるのか、朝夕の2食なのか知らないな。

 ちなみに僕は3食だ。


「肥料回収者です」

「肥料?」

「ベックス様」

「ダニエラ?」

「肥料というのは人の糞尿のことです」

「へー、稼げるのかな?」

「そうですね。汚れる仕事ですが、必要な仕事なので回収者になれる者は羨ましがられます」


 ダニエラはそう教えてくれたが、ガビノは少し不満そうだ。

 汚れる仕事と言われたのが、嫌だったのかな。


「どうしたのガビノ?」

「羨ましがられるというのは違うと思います」

「え、そうなの?」

「はい」


 返事をしてガビノは黙ってしまった。

 俯いて視線が動かないのを見ると、嫌な事があったんだろう。

 ルイサやフェデリコを見ると、優しい顔で頷きながら教えてくれた。


「こいつ、他のガキからクセェって言われてんだ」

「そうなんだ」

「驚かねぇのか」

「うん、大人になったら誰も言わなくなるから、気にしないでいいよ、ガビノ」

「ほらガビノ。ベックスさまが言ってんだ、気にすんな」


 慰められるガビノは少し恥ずかしそうにふたりを見た。

 にしても、まさか屎尿処理で肥料を作るとはな。

 ゲーム世界だと思っていたが、似た別の世界とかじゃないのか?


 そう思えるくらいゲーム的な要素が魔術と武術しかない。

 貴族も平民も泥臭く生きてる。

 僕が襲撃で足を怪我すると、平民は正気を失って人を襲い、僕は主人公を待って戦闘する悪役になるのか。


「頑張るぞ!」

「なんだよ?」

「勉強だ、勉強!」


 勉強をより行うこと、体も持久走という全身運動を続けながら、想像通りの動きを出来るようになろう。

 体を柔らかくし、体に精密な動きをさせる訓練を追加して、ありとあらゆる状況に対応できるベックス・ムリーヨに僕はなるんだ!


次20時

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