10話 友人たち
4歳の夏、貴族子息の僕に友人が出来た。
外に出始めて、近隣の人とも挨拶するようになった頃、同い年くらいのちびっ子3人組と出会ったのだ。
活発な女の子をリーダーとした3人で、ルイサ、フェデリコ、ガビノだ。
「おーい、ベックス」
「ルイサ、ベックス様は貴族の子供です。他人の目があるところでは様をつけなさい」
「おうよ、ダニエラ」
最近は外に出ると、店の並ぶ区画で3人が待っている。
3人は茶髪で似たような生成りの服を着ており、貴族は裕福だと自覚する。
「3人とも前みたいに手伝い無視してないよね」
「なわけねぇだろ。前は飯抜きだったんだからな」
「それならいいよ。フェデリコとガビノも問題ない?」
「はい」
「問題ありません」
活発なルイサが礼儀を知らないのはいつものことで、後ろで謝罪するように頭を下げるフェデリコとガビノは多少知っているらしい。
「ベックス様よ、今日はなにすんだ?」
「今日は魔術具店で商品を受け取った後、3人に文字を教えます」
「もじ?」
「面白くないけど、読めるようになると便利だよ」
「この前、名前の書き方おしえてくれたじゃねぇか。あれで十分じゃねぇのか」
「十分じゃないよ。平民を騙す商人や貴族は大勢いるからね」
ボリーキンでも割とそういう問題は起こるらしい。
貴族相手には父様が出て、商人相手には騎士が出て対応すると聞く。
平民には平民の、貴族には貴族の面倒があるんだな。
「じゃあ、まずは魔術具の店に行くぞ!」
「ルイサが用あるわけじゃないよね」
「ベックスさま、が行くんだろ」
「そうだよ」
「なら問題ねぇよ」
ルイサが先頭になって、魔術具のパンチョの店に行く。
入ると3人の子供にパンチョは驚いていたが、僕を見つけて分かったように頷いた。
「パンチョ、頼んだ商品が出来たと聞きました」
「ベックス様、こちらです」
渡されたのは僕の手首より少し大きい腕輪。
金属でできており、内側に刻印がされている。
「屋敷に戻ったら、試してみます」
「はい。私自身で1度使用してますから、問題ないとは思いますけれど、何かあれば言ってください」
「ありがとう。パンチョ」
受け取った腕輪を嵌めて、魔術具店を出た。
屋敷から少し離れた場所で文字を教えようと思ったのだが、ルイサの視線が腕輪から離れない。
と思ったら、後ろのふたりも同じだった。
「ルイサ」
「な、なんだ?」
「魔術具は知ってるよね?」
「ああ、それ持っておけば魔術が使えるんだろ?」
「違うね」
「違うのかッ⁉」
フェデリコとガビノも同じように驚いているのを見ると、割と知られていないと分かる。
平民の教育はほぼ親に任せられているだろうから、偏りはでるんだろうな。
「魔力の操作と1度は発動したことがある魔術じゃないと使えないよ」
「本当か。俺たちも使えると思ったのによ」
「魔術の勉強は面倒くさいからね。でも、文字を覚えると魔術の勉強が楽になるよ」
「魔術を教えてくれんのかッ⁉」
ルイサが食い気味に反応して、唾を飛ばしてくる。
後ろの2人も興味があるのか、ルイサと共にずいと近づいてきた。
「僕の父様と母様から許可が出て、3人が無闇に使用しないと約束できるならね」
「使っちゃダメなのか?」
「危ない魔術があるからね。それに人目を引きすぎても良くないからね」
「わかんないけど、そうか」
「そう。まずは文字の勉強からだね。行くよ」
屋敷から少し離れた場所の地面に文字を書いていく。
今では慣れたが、初めて見た時は英語の筆記体くらい読めないものだった。
日本語とほぼ同じなのに、文字だけ違うからだ。
基本的なひらがなのような役割を持つ文字を教えていると、屋敷の空き地に馬車が停まり、執事のような服装をした人が屋敷に近づいていくのが見えた。
しばらくして、アルバロが出てきて会話をすると、何かを渡して馬車に戻り、そのまま帰っていった。
「おい、ベックス様よ」
「うん?」
「これ覚えたら、魔術を覚えられるのか?」
「違うよ。この後に複数の意味を持つ文字を覚えて、さらに魔術に使う図形、絵、記号を覚えたら、魔術の勉強だよ」
「そんなにたくさん覚えられねぇよ!」
「今度、外に出る時は、文字の一覧をみんなに作ってくるよ!」
「今度っていつだよ?」
「3日後くらいかな」
「ベックス様は家で勉強か?」
「そう、休みはいつでも取れるけど、勉強しないとだからね」
3人とは陽が落ちる前に分かれて、屋敷に戻ると執務室に呼び出された。
父様、母様がいて、アルバロもいる。みんな神妙な顔つきだ。
いい話という訳にはいかなさそうだ。
「ベックス。公爵様からお披露目会の招待が来た」
「7歳のお披露目が、5歳になるんですか?」
「そうなる、ごめんな」
「ごめんね、ベックス」
「え? どうして謝るの?」
お披露目会には何かあるのか?
悩みすぎて眉間の皺が取れなさそうな父様は、ひと息吐くと話し始める。
「お披露目会を終えると貴族子女として認められてな。婚約の話が入って来るんだ」
「そうなんだ」
「ベックスはルイサちゃんが好きなんでしょう?」
「え? 違うけど」
「え?」
時間が止まったのかと錯覚するくらい、場を静寂が満たした。
「え? 貴族の子だよ僕。しかも長男なら平民の子とは結婚はできないよね」
「そうだけど、好きじゃないのかベックス?」
「3人ともいい友達だよ。今度遊ぶ時は本格的に文字を覚えさせようと思ってるからね」
神妙な顔つきの理由が、ただの取り越し苦労だと分かった。
過去の僕も心配性だけど、両親もだったとは。
まあ、婚約とか15、6歳で考えるつもりだから、気にしないでいいだろう。
「そ、そうか。5歳でお披露目会に出ることを伝えたかったんだ」
「うん。部屋で勉強してくるよ」
「あ、ああ」
「夕食にはすぐ来るのよ」
「はい、母様」
心配する両親を見て、うれしく思うとともに、平和を実感した。
穏やかな時間を守れるように、日々勉強と運動だ。




