ツボウツボカズラ
「オーイ! 誰かいないかぁー! 助けてくれー!」
私は頭上に向けて何十回目かの助けを求める声を発した。
無駄だと分かっていても。
無駄だと言うのは、此処が人がほとんど立ち入らない山の中だから。
首を吊るのに手頃な枝がないかと上を向いて山の中を彷徨っていたら、垂直に近い深い穴に落ちてしまったのだ。
穴の壁は壁の隙間から漏れ出てきているヌルヌルとした液状の物で覆われていて、這い上がる事ができない。
穴の中はジメジメしていて湿気に満ちている。
こんなジメジメしたところにいたら生きたまま腐ってしまう。
穴の底には水が貯まっていて、同じように穴に落ちたらしいタヌキやキツネの骨が沈んでいた。
私は水たまりに落ちないように気をつけながら底に近いところにあった出っ張りに座り、頭上に向けてまた助けを求める声を発する。
「助けてくれー!」
突然変異で生まれた巨大なツボウツボカズラ。
通常のツボウツボカズラは沢山の壺状の捕虫袋を地面に敷き詰める。
それに対し突然変異で生まれた巨大なツボウツボカズラは、多数の壺状の袋を落とし穴のように地中に埋め込んでいた。
巨大なツボウツボカズラは穴に落ちた獲物が消化液の中に落ちるのを、何時までも、何時までも静かに待ち続けるのであった。