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なろう世界の神様に転生しました。早く辞めたい。

「じゃあ、そういうわけで、君、神様だから」



そういうわけで、ではない。と瀬名は思った。


なんだよ、なろう系世界の神様って。


その言葉に、少年の外見をした神様がうんうん、と頷いた。


「わかるよ、まずなろう系世界ってなにかが謎すぎるよね」


「いやそこはわかってるんですよ」


わかっている。瀬名はオタクである。んな事は聞いてないのだ。


「じゃあなにに不満があるのさ」


「大ありだわ」


なろう系神様ってあれだろ、ごめんごめん、間違えて殺しちゃだめな奴殺しちゃったから、チート能力付与して異世界に転生させてあげるねっていうあれ。


「まず、絶対加害者になるのが嫌です。

次に、明らかに内容にそぐわない補填を渡す役なのも嫌ですね。

後、頭おかしい奴は混じってる所も嫌だし、国や世界をむちゃくちゃにする奴らばかりなのも嫌です。そこに生きてる人間が可哀想すぎて見てられない。


最後に、焼き増しテンプレ展開でも強制的に見守らなくちゃいけないのが、神様じゃないですか。本当に最悪です」


「君の気持ちはわかるよ。わかるとも。僕も同じ気持ち。」


強く頷くショタ神。


その瞳には慈愛の色すらある。

瀬名は体の力を抜いた。

なんだ、話せばわかる奴じゃあないか。


そんな瀬名を見つめ、口を開くショタ神。


髪のハイライトがぴかり、と輝く。


「ーーだから、この仕事、変わって?」


「ド屑ってよんでいいですか?」


ひでぇ、と嘯くショタ。もう神をつける気すらわかない。


「まぁまぁ、一旦話を聞いてよ。一応メリットあるんだしさ」


メリット?と首を傾げる瀬名。

なろう系小説の神様っていうのはかわいそうな存在なのだ。

神がでてくるプロローグを読み飛ばす読者が大半で名前がない事が普通。

呼び名は種族名(神様)である。


主人公君を、チートな能力で特別な存在、っていう状態にしたいがためだけの舞台装置。独断と偏見しかないが、それがなろう系神だと瀬名は思っている。


念のため、再度考え、うん、やっぱりそうだと結論づけた瀬名は口を開いた。


「メリットなんてあるわけないでしょ」


ちっちっち、と指を振るショタ。

整ってはいるがそのせいで余計に憎たらしい面だと瀬名は思う。


「それがあるんだな~。

君さ、好みの人間が活躍する話みたくない?」


固まる瀬名。


「えっ」


「正直さ。テンプレ展開がいやな訳じゃないよね。むしろ勝ち確定じゃないと読みたくないまである。

仕事で疲れてるんだから、帰りの電車でなんも考えず読める本しか読みたくない」


「た、確かにそれは…」


「なんの工夫もない焼き増し小説には飽きてるだけで、弱い主人公が強くて義のない敵を打ち倒す展開自体は室町時代からみんな大好きなんだよ。」


瀬名は冷や汗をかく。

なんでこんなにこいつは日本人に詳しいのだ。

おもわず共感をしてしまったじゃないか。


「……」


腕を組む神。


「要するにだ。僕らにとって問題なのは、あんまりに主人公に義がなさすぎじゃねって所なんじゃぁないかな。

憧れないっていうの?

自分しか救えない女の子を全て救いたいっていうハーレム主人公ならいい。

だけど、女の子にちやほやされてぇ!だけだと、欲望突きつけられてるだけ感あってむしろ不快っていうかさ」


神様の癖に、人間の気持ちがよくわかっている奴である。


瀬名は思わず頷いた。


そうだ。王道展開はすきなのだ。

名誉を重んじる騎士として姫を守り、最終的に幸せになる物語だとか、仲間を集めて巨悪を打ち倒す物語自体は大好きなのである。


ざまぁ、やり返しもその派生みたいなものだろう。


ざまぁ、やり返しが好きだというと、自分の人間性が悪いみたいな気持ちになるから言いにくいが、自分にとって超都合悪い悪をぼこるのは、当たり前だが気持ちいいのである。


現実には悪がはびこってるんだから、これくらいの趣味は許してほしい。


女性向け異世界恋愛ジャンルだって、登場人物が、軒並み恋愛脳すぎるのが嫌すぎるだけである。

不器用なまでに愚直な娘が、家の名誉と民のために手袋を投げつけて決闘を挑む話なら俺だって読みたい。


なんなら高貴な令嬢の名誉のため、代理で決闘に参加し、無実を証明する騎士になりたいくらいである。


おっさん趣味?知ったことじゃない。

好きなものに年齢も性別も関係ないだろう。


腐れテンプレに埋もれているだけでどこかには存在するはずなのに探せない、そういう小説を常に更新で探す瀬名は頷く他なかった。


「その点、神様ってのはお得だよ!

なにせ異世界を選ぶ権限があるから」


「異世界を選ぶ??」


そう、と神様は頷く。


「すっごい世界観は好みなのに、主人公が好きになれないとか、その逆とかあるじゃん。


僕らは来た主人公をみて世界を選べるし、なんなら多少主人公に調節を加えるという権限があるんだよね。」


「だ、だから…?」


神様はくふふ、と笑う。


「わかんないかなぁ。

例えばめちゃくちゃ義理がたくて、頑固だけど、いい奴……騎士道精神に溢れた男が来るじゃん?


記憶を消して、大事にしてる異世界に送れるってわけ。


そういう世界は神様からの干渉と相性悪いけど、幸運って形なら力を貸せるしさ」



ごくり、と自分の喉がなる。


え?もしかして、とショタを見る。


ショタは静かに頷いた。


「これから生まれるすべての作品の中でも最強の世界観に最高の主人公が生まれた上、後日談まで動く映像でみたい放題。


もちろん、面倒な設定だのなんだのをかんがえなくていいし、外見も多少選べるオマケ付き。


特殊な技能なんてなくても自分の作品がアニメ化した上、生活の事気にせず娯楽を吸えるってわけさ。


そうそう、元の世界も見られるからね。

好きな作品の続きも楽しめるよ」


「…まって…それって…同人誌…とか、は…?」

推し作家達の本やSNSを思い出し、唾を飲み込む瀬名。


「過去の作品から未来の作品まで観測し放題だよ。君の貯金からお金は払った方がいいと思うけど」


間髪入れず。

瀬名の喉から声が出た。


「やらせてください」


どうしても読みたかった作家の手に入らなかった作品。

それを読める権利に勝てるほど、瀬名の理性は強くはなかった。

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