表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろうラジオ大賞6

ベランダの草原

作者: 壊れた靴

 気持ちの良い晴れの朝だ。

 いつものようにベランダのプランターに向かう。ごく小さな家庭菜園ながら、手塩にかけた野菜たちが育っている、はずだった。

 いや、野菜たちが育っていたことには違いない。が、野菜たちに紛れ、手の平サイズの鹿の幼獣が一頭、人参の葉を食んでいる。

 寝ぼけているのだな、と目を閉じて深呼吸し、再度目を開く。鹿は消えない。

 自家製の野菜に非合法な成分でも含まれていただろうか、と冷や汗が流れる。

 一旦落ち着こう、と普段通りに朝食を摂り、仕事に向かう準備を整える。流石に自家製の野菜を食べる気にはならなかった。

 深呼吸を繰り返し、意を決してプランターを覗き込む。

 鹿は消えることなく、土の上を呑気に歩き回っている。

 仕事に向かう気分になど到底なれないが、鹿が見えること以外問題はない。帰ったら消えていることを祈りつつ、仕事に向かった。

 集中することなど全くできなかったが、終業と同時に帰宅する。

 プランターには鹿が無防備に眠っていた。恐る恐る指先で触れてみる。鹿は起きることなく、指先にその体温を感じた。

 翌朝になっても鹿は消えない。昨日と同じく、呑気に人参の葉を食んでいる。

 下手にその体温を感じてしまったせいか、プランターから取り除くことも出来ず、このままにしておこう、と対応を諦めた。

 そう決めてしまえば、気持ちは幾分楽になった。家庭菜園からの収穫は望めなくなったが、ペットだと思えば悪くない。

 数日が経った。鹿は消えるどころか著しく成長し、立派な角を生やしている。

 プランター内は時間の流れが速いのか植生も大きく変わり、丈の短い草が生い茂って、もはや草原の様相を呈している。

 プランターを覗くという、朝の日課に変わりはない。見るものが植物から動物に変わっただけだ。

 その朝はいつもと様子が違っていた。鹿はプランターの隅で硬直し、その視線の先には一頭のライオンがいた。鹿と同じく手の平サイズである。今にも鹿に飛び掛かりそうな気配だ。

 プランターの中に酸鼻な光景が広がるのは御免だ。とりあえずベランダに転がっていた物で、ライオンと鹿を隔てるように仕切りを作る。

 鹿は安心したのか狭くなった草原をゆっくりと歩き、ライオンは苛立ったように歩きまわる。

 ライオンは飢えてしまうだろうか、と冷蔵庫から豚肉を取り出す。

 指先程の大きさの肉を切り出しながら、結局のところ、自分以外の生き死にを考えるのは愛着によるものだな、とぼんやりと考えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ