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タイトル未定!  作者: ゆらぎ二等兵
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部隊名:大罪旅団

Mamma mia!!

なんてこった、死んでしまう。

――末期の共和国、全盛期の帝国。

 強大な軍事力と二十を超える植民地を持っていた共和国にそれまで何でもなかった帝国に蹂躙された時に誰かが放った皮肉だ。

その言葉は共和国の現状を的確に表しているだろう。

 帝国との開戦からすでにおよそ四年半の月日がたっていた。

 開戦以前、簡単に例えるならばまだ戦場で騎兵が猛威を振るっていた時代。

 共和国は世界の三分の一の土地を有した。

 巨大な工業力と軍事力を持っており戦神と呼ばれるほどの英雄がいた時代。いつだって血を流すのは兵士だけだった。

 共和国が世界の法であり戦争なんてしようものなら共和国の敗戦はあり得ないと一部の属国の国民が言いだしたほどまでだった。

 そして、帝国との開戦。初戦での大敗北。次戦での敗走。

それまで、道でしかなかった属国の帝国に、共和国が大岩だとすればただの砂利でしかなかった帝国に共和国は大敗北した。

 自国の絶対的勝利に自惚れていたこともあったかもしれないが一番の敗北の原因は工業の発展の差だ。

 それまでの戦いは騎兵が主力だった。旧世代の剣と弓代わりに攻守両方に対応できるマスケット銃が使用され歩兵はリンチにされた。

 しかし、実際のところその戦法は無力だったのだ。

 実際、帝国初戦では地の利と兵士の人数の差もあってか勝利は共和国側にあったが武器の差において負けたのが原因であろう。

 ひそかにマスケット銃を旧世代の遺物と知らしめたライフルの生産に帝国が成功したのだ。

 もちろん、いちいち装填のかかるマスケット銃よりライフルのほうがはるかに優れているのは明らかだ。

 猛威を振るっているはずだった騎兵とマスケット銃の哀れな兵士たちが蹂躙されるのはそう時間はかからなかった。

 そうして、共和国の発展の遅さに気づいた植民地が離れていくのも時間はかからなかった。

 もはや、共和国と他国との差は追いつきようのないものになっていた。

 従来の戦法を重んじていたこともあってかやっとのことで軍にライフルが配備されるも、依然として軍事力の差は塞ぎきれなかった。

 そうして呼ばれたので強国の皮を被った弱小共和国。末期の共和国だ。

 そんな、共和国で行われているのが数人の軍部の人間で行われる《定例食事会》という名の軍事関連の話し合いである。

 普通の話し合いと違うのは人数の少なさも相まって階級問わず個々の発言が反映されること、毎日のメニューの変わらぬ食事が付いたことだけだった。

 もちろん、財政の乏しい共和国が故に美味しいとはだれも感じてはいなかった。

 その中の比較的新しい顔ぶれシュピーゲル少佐は豪華絢爛な部屋に反した陰鬱な表情を浮かべていた。

 この《定例食事会》では情報流出防止のためにも入れ替わりは少ない。

 普段ならば長年軍人として経験の積んだ人間が出席するが、新人のシュピーゲルがこの食事会に出席できたのはその几帳面な性格にあるだろう。

「それで、戦線の状況は? シュピーゲル少佐」

 その言葉を放ったのは右目に眼帯を付けた老人――ガーネットだった。しかし、老人を思わせない気迫を彼は持ち合わせていた。

 そう、彼は共和国軍作戦総司令本部の大将であった。白髪混じりの茶髪のやや長いその髪を後ろで纏めた髪型。まるで、老紳士の様な姿。

「はい、対帝国戦線は帝国軍による中規模の戦闘が行われた模様です。しかし、共和国軍は刻時〇九〇〇までに鎮圧。ですが、急襲によって多少の戦線の後退が行われました」

 淡々と話される戦線報告には実際は数千人が死んでいる。だが、卓上では兵士を弔うよりも残った兵士の処遇について話し合われていた。

 所詮、前線の兵士など作戦本部の机にある駒でしかない。それが、ガーネットの考えだ。

 狂人と言われようと国民から憎まれようと彼は平然と業務を行う。なぜなら、戦場で戦う兵士に人情を入れると戦線が後退するからだ。俗に言う戦線至上主義である。

「では、引き続き前線上昇に勤しんでもらおう。傷口は早急に塞がねば。無期限林間訓練中の第八師団が健在だったはずだが」

「待て、ガーネット」

 ガーネットの発言を止めたのは少し低い声の通った女性だった。シュピーゲルの向かいに座る女性。しかし、その巨大な体格と服越しでもわかる筋肉を持つ彼女の名は――エルマ。階級は同じく大将だ。

 博識多才な知識を有しているガーネットに比べエルマは前線をよく知っている実践型だ。

 前線の兵士を駒としてみなし作戦を立てるガーネットと違いエルマは兵站を重視している。なにせ、彼女自身が長年戦場にいたからだ。

 戦場の地獄を経験しているからこそ彼女は兵站を重視している。

「何か問題でも? 第八師団は比較的新しい師団だが………戦役はあげている」

 敵が出す次の一手を次の手を予想し最適解を見出すガーネットだがその時、その時に応じて臨機応変に対応するエルマ。

 このような対極したドクトリンを有している軍人ならばお互いを嫌うことが殆どだ。

 しかし、お互いの意見をぶつけ合い時には片方の意見を飲む。その繰り返しによって二人は信頼を築いてきた。

「考え直せガーネット。貴様は兵士を数値として数えている。兵士は盤上に転がる駒でも数値でもなく人間だ。まずは、兵站を重点的に置き鉄道を用いて物資を補給するのが最適解ではないか?」

「だが……ノコノコ物資を運んでいるときに帝国は黙っているか? それこそ、兵站ばかりに重視し後退する戦線を口を加えて眺めればいつしか帝国の前線は鉄道にぶつかれば物資の供給は止まり、ボイコットが起こるだろうな」

 ガーネットはほんの少しの塩だけの味付けの具なしパスタに入ったフォークをエルマの方向に向ける。そして、それを彼女の方向へ投げた。

 もちろん、銃弾が降る戦場を生き抜いてきたエルマにとって避けることは容易だ。掠ることさえもしなかった。

 そのまま軌道を変えることなく真っすぐ飛んでいきエルマの席の奥のダーツボードの中央に刺さった。

「だからといって、第八師団だけを投入すればそれこそボイコットは免れないぞ。しかも、第八師団といえば、つい先日師団長が戦死した。それ故に、戦力の低下は明らかだ。敵機関銃に大切な共和国の的を提供するつもりか?」

 どこのツボにハマったのか失笑しだすガーネット。それに向かってフォークのお返しに空のボトルを投げつけるエルマ。

 手慣れた様子でそれを掴むとボトルをさかさまにしてもうないことを確認する。そして、近くの男に追加のワインを要求した。

 ちなみに、これで二人合わせて十四本目である。

「なら、あの部隊でも投入するか?」

 八本目のワインのコルクを開け高さのあるコップに注ぐと一気にそれを飲み干す。ガーネットが気づかない程度に顔を赤くしてエルマに問いかける。一方のエルマは瓶にワインを注ぎゆっくりと口に含んだ。

 ちなみに今二人が飲んでいるのはけして美味しくはない。普通の人間ならば一口飲んだだけで立ちくらむ強力なワインだ。僅かなブドウ風味のアルコールに近い。

 アルコール度数七十三度である。

「……悪いジョークだろうガーネット。奴らを投入…まあ、今の状況なら妥当か」

 ポツリと漏らしたガーネットの言ったあの部隊。

 それについての意味が分からずパスタをすべて食べ終わったシュピーゲルが口を開く。

「力不足ながら、質問よろしいでしょうか?」

「どうした? なにか意見があるなら言ってくれ」

 問われたシュピーゲル。シュピーゲルはコホンと咳をして酔い覚ましの水を注いでそれを飲み干す。

「…………恥ずかしながらこの小官、あの部隊についての情報を持ち合わせていなく………」

「そうか………貴官はまだ知らなかったか」

 あの部隊の知識がないことから必然的に彼は質問する。

 彼自身のポリシーとしてなるべく多くの物事をしったほうが出世への都合がいいのだ。しかし、言ってみて次に後悔する。

 なぜなら、二人は重い顔をしていたからだ。

「長い話になるだろう。おい、君たち席を外したまえ」

 近くにいる軍人ではない男たちに「ご苦労」とすべての皿をもって立ち去ってもらう。

 そして、なにかを我慢しきれないかのようにポケットから煙草を取り出すとガーネットは吸い始めた。

「さて…………君は、《大罪旅団》という部隊を知っているかね?」

「一応、軍大学の方で噂程度にはなりましたが…………噂通りなら精鋭二個大隊程度を一人で撃破した、という異常な戦役は非現実的だと小官は考えております」

 二個大隊とは共和国陸軍ではおよそ六百人から構成される。それ故に、圧倒的数量の差のため一人で撃破したというのは明らかに不可能なのだ。

 敵からすれば一発脳天に当てたら勝利である。まさに、非現実的で不可能な噂である。そのため、軍大学時代のシュピーゲルはその噂を馬鹿らしいと鼻で笑いあくまで噂として覚えておいた程度のことだった。だからこそ、虚偽を述べないガーネットが言う本当だったということに驚きを隠せなかった。

「が、奴は――《大罪旅団》はやりおった。貴官も習ってであろう。共産派の連中の親衛隊が一夜にして死体となったあの事件を」

 そこで、シュピーゲルは絶句をするしかなかった。なぜなら、共産派の親衛隊とは明らかに不可能な訓練で有名な部隊だ。共和国と帝国を隔てる巨大な山脈で一か月のサバイバル訓練を行うという鬼畜で理不尽なソレ。

 軍事演習を一回行うと三十の死者が出る。

 そして、同時に悪いうわさもある。

「まさか、その親衛隊をその部隊は《大罪旅団》は撃破したんですか?」

 食い気味に問いかけるシュピーゲル。その問いかけに対しガーネットは呼出煙を見上げながら立てに頷く。

「共和国北部の雪山にて演習を行っている二個大隊ほどの親衛隊を何の前触れもなく親衛隊構成員一人が倒れる。そして、駆け寄った一人がまた撃たれ、流石におかしいと思ったころにはもう遅く、朝日が昇るころにはすでに親衛隊は消滅していたらしい。まあ、あくまで瀕死状態の生き残りに聞いた話だが」

「そして、その親衛隊を壊滅させたのが――」

 ガーネットは胸元から手帳を取り出すとパラパラとページをめくって一枚の写真を取り出す。そこに映っていたのがひどく可愛らしい少女だった。共和国では珍しい黒髪の少女。

 そこで、シュピーゲルは気づく。

「まさか、この少女が大隊を消滅させたと…………?」

 シュピーゲル自身、消滅させたのは兵士然の屈強な男だと考えていた。しかし、いたのは少女だ。まったく、筋肉質でもない一人の少女。それによって、大隊の消滅。

「その通りだ。奴が、この少女が単体で消滅させた。そして………」

 ガーネットはその視線をエルマに向ける。同情の目でもなく憎みの目でもなく見つめた。

「その少女が………いや、化け物が死刑になる前日、エルマが、お前がこんなことを言いだしたんだ」

 数秒の沈黙。それを解いたのはエルマの言葉だ。

「ああ、私が、私がその少女に問いかけたんだ。『衣食住の提供はしてやる。陸軍に入らないかと』」

 シュピーゲルは数秒間絶句した後すぐに首をエルマに向けた。コップの中に浮かぶワインを飲み干すとエルマは続ける。

「なあ、シュピーゲル? 使える奴は使え。そう、貴官も習ってきただろう? それと同じだ。犯罪者であろうと親衛隊を滅ぼした戦闘の化け物だ。殺しておくのはもったいない。しかも、この少女でもまだましなほうだ。《大罪旅団》にはこれ以上の化け物がいる」

 場にはふさわしくない失笑を口元に緩ませるエルマ。その行動がシュピーゲルにとってはその化け物と呼ばれる少女たちのように恐ろしく見えた。


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少し共和国本土の話を入れました。

やや難解です。理解していただければ嬉しい限りです。

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