戦争では実に非力なものでした。
投稿には全く慣れていません。暖かい目で見ていただければ結構。
「爆撃だあぁぁぁあぁぁ」
不意に、前方から声がしてその意味に気づく余裕もなく爆風が襲う。
爆風が五感を刺激する。急な音と光、匂いは人を無力と知らしめるものだ。私はまるで、冬眠の最中に起こされた小動物の様に縮こまる。
幸い、爆撃は行軍中の私のいる部隊の数メートル遠くであったため被害はなかったが。
それでも、本格的に戦争が始まっていることを知らしめた。
ああ、もう戦争が始まっているんだなぁと。
それから、数十分。目的地に向け行軍していると何度も爆風が降り注いだ。
途中私のすぐ近くで爆発をしたものもあったし運悪く当たって軽いが怪我をした奴も出始めた。
それでも、軽傷ということで行軍を続けているとふと先頭が止まる。
「貴様ら、仲良くできたのもこれで最後と思え。ここが、わが共和国が誇る塹壕《対帝国前線》だ」
そして、談笑中だった首を声の聞こえるほうに目をやるととんでもない光景が広がっていた。道理でかなりうるさかった面々が急に黙ったわけだ。
そこは、戦場に、地獄に来たということを知らしめた。
天気は暗かった。午後にしてはやけに暗く分厚い雲が覆っているようだ。匂いも違った。行軍中はさして気になる匂いはなかったがこの戦場の近くに来ると異臭が漂う。
鉄の匂いだったり土の匂いだったりとにかくそれらが全部混ざった最悪の悪臭。
全身が骨の髄から恐れていた。
当たり前だ。眼下では人殺しが行われているからだ。
ライフルで射殺して、銃剣で脳を貫いて、衣服で首を絞めて、ナイフで首元を裂いてその理解できない程に狂った兵士同士が殺し合いをしている。
「あぁ……………あぁ」
声にすらできないようだ。隣の、マーリンが目を開き足は小刻みに揺れている。汗も滝のようにでているようだ。つまり、恐怖の状態なのだ。
そう、これから、私たちもこんな運命になるという恐怖。
「お前ら、ここがお前らの新しい寝床だ。歓迎しよう。そして、生き残ることを願っている。以上、配置に着け」
「「「「「「「「はっ」」」」」」」
あっけに取られている暇もなく私たちは塹壕に飛び込む。尋常じゃないほどの異臭だ。吐いたやつもいる。私もその一人だ。
「痛っぁ」
視界が百八十度ほど回転する。何に躓いたのだろう?
悪臭ただよう泥水に顔から突っ込んでしまった。口の中に入ったものを吐いて外に戻しゆっくりと後ろを確認する。
「………………⁉」
それは、人であったものだった。
確かに、人型だった。しかし、目玉は無残にも刳り抜かれ死んでいるようだ。異臭は半端なくただ、心中を支配していたのは恐怖だった。
「あ…………あぁ」
帰りたかった。ただ、それだけ。そして、周りが志願しているからと言って志願した数週間前の自分を切り刻みたかった。殺しかった。
周りを見渡せばあるのは死体と疲労困憊し、生きているのかと疑うほどの兵士だった。それも、全員が全員、四肢と頭が付いているわけではない。
砲弾に吹き飛ばされたのだろうか?
顔面がないやつもいる。腹の中の内容物が全部流れ出た奴もいる。
私は再び吐いた。誰のかもわからない吐瀉物と汗と涙の中に私のも追加される。
「小隊長、前の第三梯団が支援要請中。どうしますか?」
「こいつら新兵を向かわせる。……………呆気に取られているお前ら。喜べ、最初の任務だ。目の前の第三梯団が苦戦中だ。援護しろ」
何をすればいいのか、分からない新兵部隊に初の任務が来る。
まだ、塹壕に入って十分だぞ。
なのに、落ち着きこの新しい寝床に順応する時間すら与えてすらくれない。
まあ、それが戦場というものか。なんて、余裕の思考を持っているはずがない。これは単なる思い込みだ。
怖い、死にたくない。恐怖で思考の全部が埋まっている。なにより、突撃なんていやだ。こんな戦場で死にたくない。死にたくない。助けて、誰か。くっそ……。
「おい……………おい、次だ。次に俺たちは突撃するんだ」
揺さぶられてようやく現実に戻る。
そうだ、落ち着けるはずもないが思考の半分くらいは考えるんだ。目のまえの光景に広がっているのは人の殺し合い。ああ、やっぱり考えるなんて無理だ。
「助けてママ。俺は、死にたくない。助けて」
左隣のマーリンが泣き始める。同志だ。私も泣きたい。
少し、塹壕から頭を出せば撃ち抜かれそうだ。それ故に、握っているライフルをもっと強く握りしめる。銃の打ち方はよく分からない。どうすればいいのだろう。
小隊長が息を吸い込む。
「………………………………総員、とつげきぃぃぃぃぃ」
その大声と共に走り出した。走らなければ殺される。一心不乱に走る。
走る、走る、走る、走る、走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る。
転んで、泥水を飲んで。ゲロ吐いて、涙流して、銃を撃って、殺して殺されて。
「走れ、走れ、殺せ、殺せ。お前ら遅い。さっさと走れクソども」
後ろから小隊長の怒号が飛ぶ。それをかき消すように兵士の叫び声と砲弾が降り注ぐ。最初の数秒で私の前列だった奴らの半分が死んだ。
そして、私の列では七割が死んだ。
「腕が、僕のウデガァ」「あぁぁぁぁぁっぁ」
「やめろ、やめろ、やめ」「死にたくない、死にた――」「撃つな、撃つな、撃つな、撃たないでくれ。やめてくれ」「熱い、熱い熱いヤメテヤメテクレェ」
「誰か、たすけて、タスケテ誰かぁ」
「ママ、神様、タスケテ、命だ――」
阿鼻叫喚。それがふさわしい。
私と言えば突撃と同時に近くに砲弾が降り注ぎそれに怯えて近くの岩陰に隠れていた。
そういえば、隣にいたマーリンはどうした。
突撃の時は死んでいなかったはずだ。泣きながらも突撃したはず。
「マー」
安否が知りたい。そう思ってマーリンの名前を呼ぼうとしたとき絶句した。
なぜだろう? 嘘だ、嘘だ。アリエナイ、そんな言葉が思考の中を飛び交う。そうだ、アリエナイ、どうして、どうして、私の眼下には、
――マーリンが転がっているんだ?
「マーリン、マーリン」
考える暇もない、ライフルを手放してマーリンのもとへ向かい。傷口を確認する。
内臓が切られている。
片足もない。しかも、臓器の大部分は土で汚れていることから生きていることは望めない。
けど、そんなんで簡単に諦めきれるか?
「あぁ………ぁ」
「よくやった、マーリン。ゆっくり、呼吸をしろ。今、洗ってやる」
うまく舌が回らないだろうか? それとも、怪我をした衝撃で舌を噛み切ったのだろうか? しゃべれないようだ。
私は、すぐさま水筒を取り出すと蓋を取ることすら煩わしく大雑把に開き血と土で汚れた腹部に水をかける。
そして、医療知識は皆無に等しいためどうしたらいいか分からず混乱した。それが駄目だったのだろう。
必死に、何かを言おうとしていたマーリンの言葉が聞こえなくなり、まさかと思って心臓に耳を当てると、
――聞こえない。
「あ………マーリン。息をしろ。はやく、はやく、やれ、命令だ」
聞こえない、聞こえない、聞こえない。心臓の音が聞こえない。
違う、違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う、違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
これは現実なんかじゃない。
「やめろ、やめろ、やめろ、やめろ。これ以上。戦争なんて、なんになる? 人を殺して何になるっていうんだ?」
問いかける。
返事はない。
「ったぁ」
銃弾‼ それを視界で捉えよけようとする暇など微塵もなくそのまま銃弾は鉄帽に被弾する。
死ぬ、死ぬ、死ぬ。ここにいたら死んでしまう。
一緒に逃げようとリーゼント、オスフィンが走っていった方向を見る。
「リーゼン、オスフィ……」
――嗚呼。
戦争とは思っていたよりもずっと残酷で、狂気だった。生ぬるいものではなかった。
行軍しているとき自分は殺されないだろうという思いをしていた自分の意味が分からなかった。
人が、人ではなくなる。それまで話していた彼らは一瞬で人でないものと化してしまう。
結局は人と人の全力の殺し合いなのだ。正義なんてどこにもなかった。
逃げ出しかった。
戻ることは許されない。味方塹壕に戻ったらそのまま敵戦逃亡で死刑だ。どっちみち、死ぬしか出来ないのか?
「クッソたれ。死んじまえ」
死体が見える。顔も名前も喋ったこともヤジを飛ばしたこともある。そいつらが今、死体となって眼下に映る。
踏まれる。汚物にまみれる。そして、その上にまた新たな死体が増える。
家畜以下の扱い。
「おい、お前早く走れ」
うずくまっている私に後ろから走った小隊長からドヤされる。
ライフルを拾う。これ以上、仲間の死に悲しんでいたら撃たれる、死ぬ、殺される。だったら、殺し続けるしかない。終戦まで、何度も何度でも。
仲間を見捨て切り捨てたとしてもそれは自分の生きる術だ。人を殺しておいてそこに罪悪感など欠片もない。
「うわぁぁああああぁぁぁぁあ」
全身全霊を使って喉を枯らして叫ぶ。
ライフルの引き金を引いた。
その弾は飛んでいき突撃する敵兵を貫く。
生き残る、
ただその一心で私は走った。
そして、この地獄が始まったというわけ。
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話すことがないです。
なので、昨日の夕食の話をナポリタンを食べました。おいしかったです。
実のところ戦争というのを経験したことがないのであくまで予想の範囲。
Wikipediaの付け焼刃じゃ戦争の悲惨さは再現できないものですなぁ。