出立
「ここは…どこだ?」
俺はゆっくりと周りを見渡す。
何もない平原が広がっている。
そして、一人のサウスアジア系の男が軍服を纏い座っていた。
大方あの攻撃機の操縦手だろう。
そいつは俺を見るなり話しかけてきた。
「よう、お前、あのトラックの運転手だろ?…悪かったな。
赦してくれとは言わんが、気が済むまでぶん殴ればいいさ」
俺はそいつの隣に腰を下ろし、語り掛ける。
「俺は別にあの国のために仕事をしていたわけじゃねぇ。
最も、現地の奴らが少しでも楽になればって気持ちがゼロだったわけじゃねぇが、
金になるからやってただけだ。こうなることは織り込み済み、ではないが、
こういったリスクがあるからこそ危険手当盛りだくさんのこの地域で仕事をしていただけだ。
そして俺はアタリを引いちまったってわけだ。恨むなんかとんでもねぇ。自業自得だ」
そいつは俺が言葉を返してきたことに驚いたようだが、死後の世界と納得したのだろう。
会話を続けた。
「そうか…正直俺も国の命令だからやったことだ。
後悔はないが、次はお互いいい人生を過ごせるといいな」
その言葉を受けて俺は自嘲交じりの笑みを浮かべて答える。
「あんたは立派だ。国の使命のために殉じたんだから。
それに比べて俺は夢の一つも果たせちゃいない」
男は苦笑しながら問う。
「ありがとよ。ところで、その夢とやらを聞いても?」
「なに、夢というより欲望だな」
「ほう?」
「30歳までに稼げるだけ金を稼いで美女を大勢囲う予定だったのさ」
男はそれを聞いて笑う。
「はは、そうか、確かに夢だな!ああ、いい夢だ。まさに男の夢ってやつだ」
俺が兵士と笑いあっていたその時、世界に光が満ちる。
どうやら別れの時が来たみたいだ。
「じゃあな、名も知らぬ偉大な戦士よ。心からの敬意を貴方に」
「あぁ、寛大な夢追い人よ。貴殿の次なる旅路が幸多からんことを」
俺達は握手を交わし、挨拶をして別れた。